今際の君とキスをする(脚本)
〇林道
私「どこだろ。ここ・・・」
???「おい、そこの女」
彼「ここは俺の縄張りだぞ」
私「縄張り? 貴方は犬か何かですか?」
彼「そうそう。俺ってば、よく犬っぽいって言われ──」
彼「ってアホか。人間だわ」
私「はい」
彼「いやリアクション薄っ。せっかくノリツッコミしたのに」
私「あの、私たち、どこかで会ったことあります?」
私「なんだか見覚えが」
彼「まさかの逆ナン?」
私「逆ナンじゃないです」
彼「確かに目の前にこんなイケメンがいたら、逆ナンしたくなる気持ちも分かるけど」
私「だから逆ナンじゃないですって」
彼「逆ナンでしょ〜?」
私「じゃあ、そういうことでいいです」
彼「てかさ、君、ここで何してるの?」
彼「ここ、俺の所有地だから勝手に入らないでほしいんだけど」
私「あっ、そうなんですか。すみません」
私「でも私、自分でも何でこんなところにいるのか分からなくて」
彼「ふーん?」
彼「なら一緒にその答えを探そうか」
私「えっ」
彼「ついてきなよ。せっかくだからデートしよ」
私「・・・ナンパですか?」
彼「そうそうナンパナンパ。俺、可愛い子には目がないんだよね〜」
私「私、可愛いですか?」
彼「えっ。普通に可愛いけど」
私「そうですか・・・ふひっ」
彼「どういうリアクション?」
〇遊園地の広場
私「わぁ」
彼「お気に召したかい?」
私「すごいですね。貴方の所有地とやら」
彼「丁度、パレードの時間だよ」
私「少し不気味ですね」
彼「そうかな。俺は好きだけど」
私「ひゃっ!」
彼「そんなに怖い? 俺の袖なんか引っ張っちゃって」
私「こ、怖い」
彼「なら、もっと近寄っていいよ」
彼「その方が安心でしょ」
私「うん」
彼「こらこら。そんなにくっついたら、本当に恋人みたいじゃん」
私「こうしてると落ち着く」
彼「よしよし。怖くないからね」
私「うん」
〇遊園地の広場
私「ひっ」
彼「雷が鳴ってるね」
彼「神様が俺らに嫉妬でもしてるのかな?」
私「雷、怖い」
彼「怖がる君も可愛いね」
彼「ほら、手出して」
私「ん」
彼「よし。これならもし感電しても一緒に死ねるね」
私「一緒に死ぬの?」
彼「君さえ良ければ、俺は共に逝くよ」
私「ふっ、ふひ」
彼「そのリアクションも可愛いね」
〇桜並木
私「わぁ、綺麗」
彼「君と一緒に眺める桜。まさに両手に花だね」
彼「散る前に見れて良かったよ」
私「ふふ」
???「目を覚ませ! サクラ!」
?「頼む! 返事してくれ!」
私「え? 何? 双子?」
彼「ごめん。今だけは俺のものにさせてほしい」
私「え!? 何、今の!?」
私「貴方が2人いたけど」
彼「何でもないよ。ただの蜃気楼さ。たまにあるんだ、ここでは」
彼「気にしなくていい。もうここには、俺らの邪魔をするものは何もないよ」
私「うん」
私(何だろ。何かが胸を締め付ける)
私(何かすごく、大事なことを忘れているような)
〇車内
彼「さて、最後はドライブデートだ」
彼「どこか行きたい場所はあるかい?」
私「うーん、海かな」
彼「海かぁ。川なら近くにあるんだけどな」
彼「川でもいい?」
私「いいよ。正直、どこでもいい」
私「貴方と一緒にいられるなら」
彼「うっし! じゃあ、川も海も山も全部越えて、この世の果てまで共にゆこうか!」
私「うん!」
目を覚ませ!
私「何この声・・・」
彼「ッ」
サクラ、俺だ! 聞こえるか!?
頼むから返事してくれ!
私「サクラって、私?」
私「うっ・・・」
彼「大丈夫。怖くないよ」
彼「俺が君を守るから、安心して」
私「あの・・・」
私「やっぱり降ろしてください」
私「私、帰らないと」
彼「帰さないって言ったら、どうする?」
私「え」
彼「俺は君を帰したくない。できれば、ずっとこのまま一緒にいたい」
彼「朝を迎えるまで。いや、この世界が終わるまで」
彼「たとえこの時間が一瞬だとしても、それを永遠に変えたい」
私「嬉しいです」
私「でも・・・」
彼「ちゅ」
私「あっ」
彼「・・・でも、彼はそれを許してくれないか」
彼「俺は君に一つだけ嘘をついた」
彼「それが何か分かる?」
私「嘘、ですか?」
私「なんだろう。分からないです」
彼「それはね──」
〇林道
彼「そうそう。俺ってば、よく犬っぽいって言われ──」
彼「ってアホか。人間だわ」
〇車内
彼「俺、人間じゃないんだ」
私「そこですか」
彼「俺の正体、何だと思う?」
私「んー、人じゃないなら、犬?」
彼「ははっ。当たらずといえども遠からずだね」
彼「地獄の番犬・・・とも言うしね」
私「ここって、地獄なんですか?」
彼「違うよ。天国でも地獄でもない」
彼「ここは──「今際」さ」
彼「人は死の間際、大切な思い出を振り返る」
彼「それを人は走馬灯と呼ぶのだけど」
彼「・・・そうだね」
彼「所詮、俺は君の見ている幻に過ぎないのかもしれない」
彼「この身体も、元々は」
私「でも」
私「触れたら温かいし、鼓動も感じる」
私「この温もりが、幻だとは思えない」
彼「ふふっ。それは君自身の温もりだよ」
彼「俺の鼓動も、呼吸も、全て君のものだ」
私「そんなの虚しい」
彼「虚しくない。だって、これは君が生きている証でもあるんだから」
私「・・・」
〇村に続くトンネル
彼「さて、ここから先は振り返っちゃいけないよ」
私「あ、あの」
彼「ん?」
私「さ、最後にもう一度だけ、き、きふ」
彼「キス?」
私「はい! 貴方のこと、忘れたくな──」
彼「──」
私「ッ」
私「──」
私「──」
彼「──さよなら」
彼「短い間だけど、楽しかった」
私「うん」
サクラ! 返事してくれ!
彼「ほら、王子様が呼んでるよ」
私「あなたも・・・」
彼「・・・」
私「私の王子様です」
彼「・・・ずるいよなぁ」
〇黒背景
サクラ!
目を開けてくれ! サクラ!
私(あれ? 私──)
〇海辺
???「サクラ!」
私「・・・」
彼「良かった。目を覚ました・・・」
私「あれ、私・・・」
私「そうだ。私、溺れて──」
私「痛ッ」
彼「すまん。さっき人工呼吸した時、強く圧迫しすぎたかも」
彼「大丈夫?」
私「うん。大丈夫」
彼「じゃあ、こうしても平気?」
彼は私を抱きしめる
彼「もう絶対に俺のそばから離れるな」
私「苦しいよ」
彼「溺れるのとどっちが苦しい?」
私「こっち」
彼「苦しいのは嫌い?」
私「好き」
彼「これからは俺だけに溺れてろ」
夢を見ていた気がする
それは
ちょっと怖くて、でも、刺激的な夢
〇村に続くトンネル
〇海辺
私「ねぇ」
私「私、まだ頭がぼんやりとする」
彼「えっ」
私「だからもう一回、人工呼吸してほしい」
彼「・・・」
彼「勿論!」
なかなかのセンス!
導入の浮遊感が凄く好きです。
癖のあるサクラちゃんの笑い方もかわいいですね。
不気味な怪物だらけの、どこかピントのズレた世界に、ずっと浸っていたくなりました
水着姿早く見たいと思いつつ、進めてみたら雲行きが怪しい展開……と思ったらそういうことでしたか。
最後にキスが見れて、ドキドキですね。