ヌーマの中の人

入海月子

エピソード1(脚本)

ヌーマの中の人

入海月子

今すぐ読む

ヌーマの中の人
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇街中の道路
菱木由貴「まったく。 女なんてウザいだけだ。 見た目ですぐ寄ってきて、勝手にイメージが違うとか言って・・・」
菱木由貴(俺は静かに暮らしたいんだ。 ボーッと生きていくのが理想だな。 でも、学費を稼がないといけない。 いいバイトはないかな)
  急募!
  着ぐるみの中の人。
  市のゆるキャラの着ぐるみで
  イベントに参加するだけ!
  日給15000円
「これ良くないか? 顔も隠れるし、面倒くさくなくていいな」
  俺は市のキャラ、ヌーマとして
  働きはじめた。
  ちなみに、ヌーマは雪男らしい。

〇大きな公園のステージ
  ヌーマは全然人気がない。
  イベントでも
  一人ポツンと立っているだけだった。
ヌーマ(ヌーマでいると楽だな・・・)
  ヌーマの中は、無駄に注目されなくて
  心地よかった。
  それなのに・・・
平山茜「きゃあ、ヌーマだわ! こんなところで会えるなんて! かわいい〜!」
ヌーマ(あいつは確か同じ大学の・・・。 かわいいって本気か?)
平山茜「就活がうまくいかなくて凹んでたんだ・・・」
平山茜「でも、ヌーマを見て 元気が出たわ! ありがとう」
ヌーマ(変なやつ!)
  それから、ちょくちょく、そいつはヌーマに会いに来た。
  そして、勝手にあれこれしゃべっていった。
ヌーマ(一方的に、こいつの情報を知っていく。 ケーキ好き お人好し 就活に疲れている バイト先の先輩がキツい・・・)
ヌーマ(なんだろう? コイツのおしゃべりは嫌いじゃない)

〇古い大学
  大学でアイツにばったり会った。
  うっかり親しげに微笑んでしまう。
  
  キャーという黄色い声は聞こえるのに
  アイツは無反応。
菱木由貴(なんだよ。 ヌーマのときはニコニコしてる くせに!)
菱木由貴(まぁ、俺のことは知らないんだから 仕方ないか)

〇大きな公園のステージ
  あるイベントの終わり、アイツが絡まれていた。
平山茜「困ります! 行きません!」
ヤンキー「なんだ、オメーは!」
  俺はヤツらを追い払った。
  無性にイライラした。
  それがなぜだかわからない。
平山茜「ありがとう、ヌーマ! 大好き!」
ヌーマ(なんだかモヤモヤする・・・)
  アイツはますますヌーマになついた。

〇大きな公園のステージ
平山茜「ヌーマ、聞いて! バイトの先輩が『いつもヘラヘラ笑ってて気持ち悪い』って・・・。 私の笑顔って気持ち悪いかな?」
ヌーマ「『なに言ってるんだ!  俺はお前の  のん気でヘラヘラした笑顔が  好きだ!』」
平山茜「くぐもって、なに言ってるか わからないけど なぐさめてくれてるんだね。 ありがとう!」
菱木由貴(マジか、俺! いったい、なに言ってるんだ!?)
  どうやら俺はアイツに惚れてしまったらしい。

〇古い大学
  俺は生まれて初めての告白をした。
菱木由貴「あんたのことが好きなんだ」
平山茜「ごめんなさい。 美形は苦手なの。 前に二股かけられてからトラウマで・・・」
菱木由貴(なんていう理由だよ!)
  フラれるなんて
  想像もしてなかった。
菱木由貴(今まで告ってきた女は こんな思いをしてたのかな・・・)

〇大きな公園のステージ
  相変わらず
  アイツはヌーマに会いに来る。
  俺じゃなくて。
平山茜「あのね、ヌーマ。 就活うまくいきそうなんだ」
ヌーマ(中身が俺だと知ったら コイツはどうするんだろう?)

〇大きな公園のステージ
  ある日、ヌーマを脱いでいるところを見られた。
菱木由貴(バレた!)
平山茜「まさか、あなたがヌーマの中の人?」
菱木由貴「そうだけど?」
平山茜「今まで、ごめんなさい!」
  アイツは逃げていった・・・。
菱木由貴「なんだよ。 俺じゃダメだっていうのか!」

〇大きな公園のステージ
  その後、アイツはイベントに来るものの
  もうヌーマに話しかけることはなかった。
ヌーマ(あのヘラヘラした笑顔が好きだったのに もう見せてはくれないんだな)
  俺はだんだん苦しくなり、バイトを辞めてしまった。
  これでアイツとの接点もなくなった。

〇大きな公園のステージ
平山茜「ヌーマ、お話していい?」
  あるとき、私は意を決して、ヌーマに話しかけた。
  「あのね・・・」としゃべるけど
  反応が悪い。
  怒ってるのかしら?
平山茜「もしかして、中の人、変わっちゃた?」
  コクコクとうなずくヌーマに
  ガッカリする。
平山茜(私のヌーマは親身に聞いてくれたわ)
平山茜(『私の』ってなによ!?)

〇名門の学校
  私は居ても立っても居られなくなり
  大学の校門で彼を待ち伏せした。
  何日も何日も。
  
  彼の名前も学部も取っている授業も
  なにも知らないから
  なかなか会えなかった。
平山茜「今日も会えないかな・・・」
平山茜「・・・・・・!」
  ようやく彼に会えたのに
  言葉が出てこない。
  なにが言いたかったのか、
  自分でもわからなかったから。
  彼はちょっと頭を下げて
  立ち去ろうとする。
平山茜「ま、待って!」
菱木由貴「なに?」
平山茜「話がしたいの」
菱木由貴「いいけど・・・」

〇テーブル席
  二人で学食に来たけど
  彼はムッとしたままの顔で
  話しづらい。
平山茜(ヌーマのときは話しやすかったのに・・・。まぁ、私が一方的にしゃべってただけだけど)
菱木由貴「・・・就職は決まったのかよ」
平山茜「うん! 第一志望の会社から内々定をもらったの! それでね・・・」
  私の話を覚えてくれてたのが
  うれしくて
  ヌーマに話しているように
  しゃべってしまった。
  
  気がつくと、彼が微笑んでいた。
平山茜(やっぱりいいなぁ)
  ヌーマの中でもこうして穏やかに話を聞いてくれてた気がする。
  
  美形はこりごりと思っていたけど
  私はいつの間にか・・・
平山茜「あのね、私、ヌーマの中の人のこと 好きになっちゃったみたい」
菱木由貴「それは俺のことと思っていいのか?」
平山茜「うん。 美形だとかヌーマだとか関係なかった。 あなたが好き!」
菱木由貴「俺もお前が好きだ。 まずは名前を教えてくれよ」

コメント

  • 楽しいストーリーで最後まで一気にタップして読ませて頂きました。会話のテンポもよくてクスッと笑いながら、共感したり、、、。

  • ヌーマは人気がなくビジュアル的にもダサいと見れます。そんなヌーマが好きになった彼女が、中身がイケメンと知った時の気持ちは複雑だったでしょうね。

  • イケメン苦手な彼女にとっては、ヌーマってキャラが人気のない微妙なキャラだったからこそ心をひらけたのかもしれませんね。中の人がイケメンだったのにはびっくりしましたが。

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ