怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード14(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

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〇暗いトンネル
  トンネル内を臆することなく進んでいく薬師寺のあとをついていく。
  懐中電灯の代わりに使っているスマホのライトが頼りない。
  そのうえ恐怖のせいか手元がぶれて、ライトの光が少し震えているのがなんとなく情けなかった。
  歩を進めるにつれて、暗さが足元から全身に増していくような気がする。
  ふと後ろを振り向いた。
  俺たちが通った入り口はだいぶ小さくなっていて、出口の大きさと鑑みると大体半分くらい進んできたことが分かる。
  思っていたよりも長い距離にため息をついて前を向いた瞬間。
茶村和成「!?」
  突然、なにかの気配がした。
  とっさに気配の方へライトを向ける。
  照らされて見えたのは、顔のようなシミだった。
茶村和成(・・・なんだ、気のせいか・・・)
  老朽した壁にひっそりと佇(たたず)むシミに驚いてしまった自分が情けなくて、ふたりには言えずそのままトンネルを進む。
  それ以降も相変わらず薄気味悪い雰囲気ではあったが、これといったことはなにも起こらなかった。
  トンネルを抜け、出口側から改めて進んできた道を見つめる。

〇山奥のトンネル
薬師寺廉太郎「ふうん、なるほど」
  腕を組んで少し俯(うつむ)いた薬師寺は、しばらく考えるように黙っていた。
  俺とスワは無言で薬師寺の様子を伺う。
  するとぱっと薬師寺が顔を上げて、いつものへらへらした笑顔を浮かべた。
薬師寺廉太郎「ひゃひゃ。じゃ、帰ろっか〜」
薬師寺廉太郎「ここには、なんにもなかったね」
「え・・・」
茶村和成「怪異は?」
薬師寺廉太郎「怪異ってね、大抵なにかしらのルーツとか原因があるんだけど、どうやらこの話はそういうんじゃないみたいでね」
薬師寺廉太郎「『写真の中に女の幽霊が見えた人は1週間以内に死ぬ』なんて、ただの作り話で嘘っぱちなんだよ」
  それを聞いて、俺はますます首を傾(かし)げる。
茶村和成「でもお前、昨日は本物だって・・・」
薬師寺廉太郎「そうだよ?」
茶村和成「はあ?」
  ふざけてるのか、こいつ。
  言ってることが支離滅裂だ。
  黙っていると、薬師寺が再び口を開く。
薬師寺廉太郎「はじめは、ただの作り話だったんだ。なんの事故や事件にまつわるわけでもない」
薬師寺廉太郎「まあよくある、おふざけから生まれた怖い話だよね」
薬師寺廉太郎「でも、積み重なった人々の恐怖心が、それを本物にしたんだよ」
  薬師寺は懐中電灯を自分の鞄に収め、交互に俺とスワを見る。
薬師寺廉太郎「ふたりはさ、“言霊(ことだま)”って知ってる?」
薬師寺廉太郎「言葉には不思議な力が宿ってる、って話。 意外と馬鹿にならないんだよ」
薬師寺廉太郎「その話を本当に信じる人たちによって長い間語り続けられると、それは力を持って怪異となる」
「・・・・・・」
薬師寺廉太郎「人間って不思議だよねぇ」
薬師寺廉太郎「怖いなら、見なければいいのに。 恐ろしいなら、話さなければいいのに」
薬師寺廉太郎「自らの行動がそれを生み出すことに気づけないんだ」
  俺とスワはなにも言えずに、薬師寺を見続けるしかなかった。
  薬師寺は俺たちににっこりと笑いかけて、大きく伸びをする。
薬師寺廉太郎「さぁて、じゃあ、帰ろうか。 ここでできることはなにもないから」
  強い風が吹き抜けて、周りの木々が揺れる。
  頭の中には、あの写真がぼんやりと映し出されていた。

〇バスの中
  それから2日後。
  トンネル自体になにもない以上、事前にできることはないと薬師寺は言った。
  そうなればメールの時間に来るであろう怪異を薬師寺とともに迎え撃つだけだ。
  俺は今、道場を早退して薬師寺のマンション方面へと向かうバスに揺られている。
  薬師寺はすでに家で待っていて、俺が帰り着くのは計画の15分ほど前の予定だ。
  本当はもっと早く帰ってくるよう言われていたが、最近道場に顔を出せてない以上、そうも言ってられない。
  うちの師範はサボる者には厳しいんだ。
  「次は、寿町(ことぶきちょう)4町目、寿町4町目です。お降りの方は降車ボタンを押してください」
  あ、次か。
  俺は降車ボタンを押して、もう見慣れた道のりを横目に見る。
  ゆるゆるとバスが停車して、俺は席を立って出口へと向かった。
  バスから降りて、道路に足をつける。
茶村和成「・・・え?」

〇住宅街
  顔を上げた瞬間、見たことのない路地が目の前に広がっていた。
  慌てて後ろを振り向くと、あるはずのバスもバス停もなく、見覚えのない建物があるだけだ。
  同時に降りたはずの乗客も消えていて、見知らぬ場所にひとり、取り残された。
  途方に暮れ思わず笑いが出る。
茶村和成「・・・どこだよ、ここ」
  目の前の建物は夕陽に照らされて妖しい影を落とすだけだった。
  自分を落ち着かせるために、とりあえず携帯を手にして時間を確認する。
  画面に表示された時刻は17時32分。
  メールの時間は、17時58分。
  ・・・結構やばいな。
茶村和成「とりあえず、薬師寺に連絡を・・・」
  そう思った瞬間。急に電源が落ちた。
  ひゅ、と小さく喉が鳴る。
  充電切れか? ・・・いや、違う。
  さっきまで50%を切っていなかったし、そもそも学校で使うことはほぼないから、充電切れとは無縁のはずだ。

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