ルージュに誓って

三角錐

読み切り(脚本)

ルージュに誓って

三角錐

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〇シックなバー
コウヘイ「だからさ、 フラッシュモブにしようと思って!」
田島「周りの人間が いきなり踊り出すやつ?」
コウヘイ「それそれ! 俺も一緒に踊って、 最後にプロポーズ!」
コウヘイ「超良くない?」
田島「まぁ、記憶には残るかな」
立花 佑一「愚の骨頂ですね」
コウヘイ「はい?」
立花 佑一「考えただけでゾッとします」
立花 佑一「予告もなく 素人の滑稽なダンスを披露され・・」
立花 佑一「大勢の人間に囲まれ 圧をかけられながら結婚を迫られる」
立花 佑一「相手もあなたと同じ幸せな感性なら 良いんでしょうけど 僕のような人間であった場合・・」
コウヘイ「・・・」
コウヘイ「おっしゃる通りです!」
立花 佑一「は?」
コウヘイ「ここまでズバズバ言える人は なかなかいない!」
コウヘイ「俺のプロポーズの 先生になって下さい!」
立花 佑一「お断りします」
コウヘイ「人助けだと思って!」
コウヘイ「あっ マスター、お会計! この人の分も!」
立花 佑一「待って下さい」
コウヘイ「じゃ! また来週、このバーで!」
立花 佑一(面倒なことになった・・・)

〇超高層ビル
  化粧品メーカー『tapコスメ』

〇研究開発室
水野なぎさ「じっとして下さい」
立花 佑一「どうして僕なんです」
水野なぎさ「立花さんが男だからです 一番手近な」
立花 佑一「今のは質問じゃありません」
立花 佑一「会社で一番 優秀なこの僕の 貴重な時間を奪うことについて──」
水野なぎさ「口を! 閉じる!」
立花 佑一「・・・」
水野なぎさ「すぐ終わりますから」
水野なぎさ「──、うん」
水野なぎさ「似合いますね 悪くない」
立花 佑一「満足ですか」
水野なぎさ「立花さんはどう思います? この口紅」
立花 佑一「実験台に意見まで求めるんですね」
水野なぎさ「呆れた!」
水野なぎさ「あなたも うちの社員でしょ! ひとこと感想言うぐらい──」
立花 佑一「水野さん」
水野なぎさ「何です」
立花 佑一「フラッシュモブでプロポーズされたら 嬉しいですか?」
水野なぎさ「・・・」
水野なぎさ「考えただけでゾッとしますね」
立花 佑一「そうですか」
水野なぎさ「口紅の感想は!?」

〇大衆居酒屋
水野なぎさ(いきなり・・)
水野なぎさ(プロポーズなんて言うから・・)
あさみ「今日のリップいいね 何ていう色?」
水野なぎさ「今日のはね、ええと」
水野なぎさ「最近 毎日色変えてるからさ 忘れちゃって」
あさみ「毎日?」
水野なぎさ「ちょっとした── 賭けをね、してて」
あさみ「賭け?」

〇大衆居酒屋
あさみ「で、彼氏とはどうなの?」
水野なぎさ「え? ああ・・・」
あさみ「も〜なにそれ!」
あさみ「今日は結婚報告かと思ってたのに!」
水野なぎさ「え!? ないない、ないよ」
あさみ「もう半年でしょ?」
水野なぎさ「まだ半年!」
あさみ「あり得ない話じゃないよ」
水野なぎさ「そうかなぁ」

〇シックなバー
コウヘイ「指輪は一緒に買いに行く、と」
立花 佑一「一生モノですから サプライズより好み優先です」
コウヘイ「勉強になります!」
コウヘイ「あの、ちなみに」
コウヘイ「プレゼントに化粧品はどうですか?」
立花 佑一「化粧品?」
コウヘイ「彼女、 化粧品メーカーに勤めてるんです」
立花 佑一「・・・」
コウヘイ「その子、 なぎさって言うんですけど」
コウヘイ「名前を刻印した化粧品とか」
立花 佑一「やめておきましょう」
コウヘイ「ダメですか!?」
立花 佑一「化粧品は消耗品です」
立花 佑一「記念にしたいならなおさら、 耐久性のある物の方が」
コウヘイ「なるほど!」
立花 佑一(・・・)

〇研究開発室
立花 佑一「なぎささん」
水野なぎさ「え?」
立花 佑一「そういえば そんなお名前でしたね」
水野なぎさ「何ですか、気持ち悪い」
立花 佑一「この口紅、 名前は何と言うんですか」
水野なぎさ「・・・『焦がれる蛍』」
立花 佑一「焦げた蛍?」
水野なぎさ「違います!」
水野なぎさ「ご存知ないですか? 『恋に焦がれて鳴く蝉(せみ)よりも』」
立花 佑一「『鳴かぬ蛍が身を焦がす』」
水野なぎさ「そうです その言葉からとりました」
立花 佑一「水野さんは蝉ですね」
水野なぎさ「一応聞きますけど・・・ なぜですか?」
立花 佑一「口うるさいので」
水野なぎさ「ひっぱたきますよ」

〇繁華な通り

〇シックなバー
立花 佑一「明日、ですか」
コウヘイ「善は急げ!です」
立花 佑一「でも、明日は天気が崩れるかも」
コウヘイ「降水確率0%だそうです」
立花 佑一「そうだ、花束がまだ」
コウヘイ「花束の手配も レストランの予約も完璧です」
コウヘイ「心配いりません! バシッと決めてきます!」
立花 佑一(・・・)

〇階段の踊り場
水野なぎさ「立花さん」
水野なぎさ「サンプルのテスト 受けてもらっていいですか?」
水野なぎさ「ようやく完成が見えてきて」
立花 佑一「いい加減にして下さい」
立花 佑一「あなたには付き合いきれません」
立花 佑一「仕事は遅いし 僕の時間を無駄に奪っていく」
立花 佑一「他をあたって下さい」
水野なぎさ「立花さん・・?」

〇店の入口

〇レストランの個室
水野なぎさ「・・・」
水野なぎさ「あ・・・ すっごく美味しかったね」
コウヘイ「よかった」
水野なぎさ「びっくりしちゃった」
水野なぎさ「今日って何かの記念日だっけ?って」
コウヘイ「今から、記念日にするつもり」
水野なぎさ「え?」
コウヘイ「僕と・・・」
コウヘイ「結婚、して下さい」
水野なぎさ「・・・!!」

〇公園通り
コウヘイ「両親には話してあるから 予定が合えば、」
水野なぎさ(これで 良かったんだっけ)
水野なぎさ「わ! すみません、ボーっとしちゃって!」
水野なぎさ「あ・・」
立花 佑一「──」
コウヘイ「アレ? 立花さんじゃないですか!」
立花 佑一「どうも」
立花 佑一「こちらが例の?」
コウヘイ「そうです、婚約者の!」
立花 佑一「上手くいったんですね ──おめでとうございます」
水野なぎさ「・・・!」
コウヘイ「すみません、取引先から!」
立花 佑一「・・・」
水野なぎさ「どうしてそんな・・・ 他人行儀なんですか」
水野なぎさ「知り合い、だったんですね」
水野なぎさ「わたし──」
立花 佑一「『焦がれる蛍』」
水野なぎさ「!」
立花 佑一「ですね」
立花 佑一「デートなら もっと華やかな色を選べばいいのに 男性向けの商品でしょう?」
水野なぎさ「・・・」
立花 佑一「彼によろしく言っておいて下さい」
立花 佑一「お幸せに」
水野なぎさ「・・・」
水野なぎさ「色の違いなんて分からないって 言ってたくせに・・」
コウヘイ「ごめん、お待たせ」
コウヘイ「なぎさ!?」

〇空

〇研究開発室
立花 佑一「あなたがここまで愚かとは 思いませんでした」
水野なぎさ「何の話でしょう」
立花 佑一「とぼけても無駄です」
立花 佑一「プロポーズを受けた日に婚約破棄だなんて どうかしてます」
水野なぎさ「私も、そう思います」
立花 佑一「どうして断ったりしたんですか」
水野なぎさ「賭けをしていたんです」
立花 佑一「賭け?」
水野なぎさ「立花さんが一度でも 私の口紅の色を当てたら、 自分の気持ちに従おう」
水野なぎさ「そう決めていたんです」
立花 佑一「・・・僕のせいなんですか」
水野なぎさ「“自分の気持ち”だと言ったでしょう」
立花 佑一「君を何とか遠ざけようとした 僕の努力はどうなります」
水野なぎさ「努力の方向性が間違ってます もっと近づく努力をしてみては」
立花 佑一「・・・」
水野なぎさ「さ、口を閉じて下さい サンプル塗りますから」
立花 佑一「──僕の唇を 君の専用にしようか?」
水野なぎさ「バ、バカなこと言わないで!」
立花 佑一「い、今のは これからも実験台に なろうかという提案で、」
水野なぎさ「他の人に貸したら承知しませんから」
立花 佑一「・・」
立花 佑一「いいでしょう」
立花 佑一「それではこの、ルージュに誓って」
  『ルージュに誓って』終わり

コメント

  • いやぁ、素直じゃないし、ただただ遠回りで、自分だけで解決できなくて、大人ってずるいなぁと。
    でもそれでもやっぱり結果が全てなんだなぁ。ほっこりしました。

  • この素直に心情を吐露できないオトナたちの恋模様、繊細な心情描写で惹き込まれてしまいました。フラッシュモブの件についてはまさに同感です。

  • 他のコンテスト作品とは違い、大人の恋愛が丁寧に書かれていたので、すごく面白かったです。

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