消える探偵 後編(脚本)
〇商店街
由佳(ゆか)「・・・」
霧子(きりこ)「由佳さんの尾行するなんて、本物の探偵みたい!」
新(あらた)「あの曲がり角で俺が追い越して歩くから、霧子はこのままついて行って」
新(あらた)「それからはまた、携帯で指示する」
霧子(きりこ)「ラジャ」
霧子(きりこ)「いつも忙しいって言っていたけど、商店街で働いているのかな?」
〇パチンコ店
霧子(きりこ)「パチンコ店じゃない!」
新(あらた)「店の店員に聞き込みしたけど、週6で朝晩通う常連だって」
なんということだろう。
瑛人くんを迎えに来る前も、この人はパチンコ店で遊んでいたのかもしれない。
私たちは引き続き、由佳さんを尾行した。
〇幼稚園
由佳(ゆか)「奈々、帰ろうか」
菜々(なな)「ママ、にーには、おむかえじゃないの?」
由佳(ゆか)「瑛人は・・・ちょっとお泊まりしていて、来週帰ってくるわ」
菜々(なな)「えーん、にーに!」
霧子(きりこ)「奈々ちゃん、お兄ちゃんに会えなくて可哀想」
〇商店街
霧子(きりこ)「幼稚園のお迎えの後で、すぐにパチンコ店に戻るなんて!」
霧子(きりこ)「何が忙しいよ!?完全に騙されたっ!」
新(あらた)「まだ、幼稚園でも聞き込みすれば、ボロボロ違う顔が出てきそうだな。 霧子はここで由佳を見張っていてくれ」
新(あらた)「後で連絡する」
〇ホテルの駐車場(看板あり)
霧子(きりこ)「こんなところで1人で待たされているなんて・・・ちょっとだけ、話しかけよう」
菜々(なな)「あっ!なんとかじーめんのおねーちゃんだ」
霧子(きりこ)「へへ。こんばんは。奈々ちゃん、地面にお絵描きしているの?」
霧子(きりこ)「上手ね〜! ママの顔でしょ?」
菜々(なな)「ママじゃなくて、おかあさんの顔だよ」
菜々(なな)「おかおはにてるけど、おかあさんのほうがカワイイよ」
霧子(きりこ)「ん?奈々ちゃんのお母さんて、1人じゃないの??」
菜々(なな)「ななのおかあさんはねえ、かじでもえちゃったんだって。ママがいってた」
霧子(きりこ)「あっ・・・!?」
その時、パズルのピースが合うように
バラバラだった違和感が、ピッタリと確信に変わった。
霧子(きりこ)「奈々ちゃん、髪のゴム紐を結び直してあげるね」
菜々(なな)「ありがと!」
霧子(きりこ)「奈々ちゃん・・・」
菜々(なな)「どうしたの?おねーちゃん、ないてる?」
霧子(きりこ)「約束する。 私が必ず、瑛人くんが帰ってこれるようにするから、」
霧子(きりこ)「今日お姉ちゃんに会ったこと、ママにナイショにできる?」
菜々(なな)「うん!ゆびきりげんまんね!」
私が透視した奈々ちゃんのカラダには、虐待の痕が生々しく残っていた。
私は聞き込みをしている新に、早くこのことを報せなくてはと、早足で奈々ちゃんの側を離れた。
由佳(ゆか)「・・・」
〇スーパーマーケット
霧子(きりこ)「さあ、早く帰って新と作戦会議よ」
誠(まこと)「スミマセン! ちょっとお尋ねしたいのですが、」
霧子(きりこ)「はい?」
誠(まこと)「貴方は万引きGメンの方ですか?」
霧子(きりこ)「ええ、そうですけど、何か・・・?」
誠(まこと)「ちょっとした用があるので、」
誠(まこと)「一緒に来てもらいたいんですよ!」
薄れていく意識──私の能力はホントに役に立たない。
誰かを助けてあげることも、自分さえも守れなかった。
〇小さい倉庫
霧子(きりこ)「ここはどこ・・・?」
霧子(きりこ)「あの男・・・電流の、スタンガン?・・・アタマ痛い・・・」
霧子(きりこ)「カラダは縛られていて、口もテープで塞がれている!」
霧子(きりこ)「どうしよう。尾行がバレたんた・・・」
霧子(きりこ)「奈々ちゃん・・・」
〇廃工場
由佳(ゆか)「奈々は?」
誠(まこと)「車の中だ。薬でぐっすり眠ってる」
由佳(ゆか)「どうやってあの子たちに近づいたのかは分からないけど、」
由佳(ゆか)「あのオンナが秘密に勘づいたのは間違いないわ」
誠(まこと)「でも、奈々と一緒に殺すなんて・・・」
由佳(ゆか)「瑛人が余計なことをしたから、改めて姉さんの手首が調べられたら、」
由佳(ゆか)「火事が偽装だってことがバレるかもしれない」
由佳(ゆか)「双子の私と姉さんが入れ替わっていることもね」
誠(まこと)「こっ、こんなことになるなら──」
誠(まこと)「去年、義姉さんをゆりかに仕立てた保険金だけ貰って、トンズラしてれば良かったんだ」
由佳(ゆか)「ねえ、あなた」
由佳(ゆか)「今まで、どれだけ姉さんの介護と子供たちの育児で私の人生奪われてきたと思っているの?」
誠(まこと)「分かってるよ。だから、義姉さんを殺すのに協力しただろ」
由佳(ゆか)「まだ足りないわ」
誠(まこと)「ゆりか・・・お前、オカシイよ」
由佳(ゆか)「もう遅いわよ。 私がオカシイなら、あなたも狂っているわ」
由佳(ゆか)「せめて奈々の保険金を頂いてから逃げるわ」
由佳(ゆか)「あの目障りなオンナに全ての罪を被ってもらってね!」
由佳(ゆか)「フフフ」
〇小さい倉庫
霧子(きりこ)「大分、闇に目が慣れてきたわ」
霧子(きりこ)「ホントに私なんか・・・」
霧子(きりこ)「でも、どうにか逃げないと・・・新なら、どうするかしら?」
『俺は霧子を信じてるよ』
急に新の言葉が頭に響いた。
霧子(きりこ)「思い出せ。私の能力、たまに消える時に、何か条件はない?」
霧子(きりこ)「ああ、消えたい時に限って消えない」
霧子(きりこ)「こんな私、要らない!消えて無くなればいいのに」
霧子(きりこ)「縄とテープが取れた!!」
霧子(きりこ)「もしかして、透明になっている?」
霧子(きりこ)「!?透明じゃない。でも、縄をすり抜けられたみたいね!」
霧子(きりこ)「パパが昔、手品を見せてくれたけど、 ──こんなスキルもあったのね」
霧子(きりこ)「今なら、自分の意思で透明にもなれるかもしれない」
霧子(きりこ)「私よ、消えて無くなれ!」
〇廃工場
由佳(ゆか)「居ない!あのオンナ、逃げたわね!!」
誠(まこと)「まだ、縄が温かい・・・! そんなに遠くへは行ってないよ」
由佳(ゆか)「逃がすもんか!誠、車のキーは?」
誠(まこと)「ここだよ」
ピッピッ
由佳(ゆか)「まだカギ開けてって言ってないわよ」
誠(まこと)「俺もまだ、押してないんだが・・・」
誠(まこと)「ひっ!ドアが勝手に開いた!!!!」
〇駐車車両
誠(まこと)「奈々!!」
由佳(ゆか)「奈々!どこに行くのよ・・・待ちなさい!」
由佳(ゆか)「誠、奈々が逃げるわ!」
誠(まこと)「・・・なんだ、今のは・・・? 奈々の動き、おかしくなかったか!?」
由佳(ゆか)「早く追いかけてってば!」
〇草原
霧子(きりこ)「ハア、ハア、ハア」
霧子(きりこ)「透明化が切れた!」
霧子(きりこ)「きゃあああ!」
霧子(きりこ)「足が!歩けない・・・」
誠(まこと)「一体、どんな手品使ったんだ? 急に姿を現しやがって」
由佳(ゆか)「誠の趣味が役に立つ日が来るとはね」
誠(まこと)「最近のオモチャは性能が良くてね」
誠(まこと)「ちょっと改造しただけで、木の板一枚くらい、貫通させるパワーが出せる」
由佳(ゆか)「さあ、アンタにはまだやってもらわなきゃならない仕事があるんだ。 大人しくしないと、奈々を撃つよ」
霧子(きりこ)「瑛人くん、奈々ちゃん」
霧子(きりこ)「新・・・ゴメン・・・約束、果たせなかった・・・」
〇荒地
誠(まこと)「あああっ、まさか!?」
由佳(ゆか)「イヤアッ!」
〇草原
狼「ハッハッ・・・グルルル・・・」
霧子(きりこ)「ウソ・・・!」
霧子(きりこ)「あっ・・・」
霧子(きりこ)「・・・新・・・よね?」
霧子(きりこ)「良かった・・・私、新に謝りたくて・・・」
新(あらた)「遅くなってゴメンな、霧子」
新(あらた)「満月の夜しか、俺の能力は使えないからさ」
新(あらた)「でも、この嗅覚のおかげで、霧子の居場所が分かって良かったよ」
霧子(きりこ)「奈々ちゃんを、お願い。私、限界・・・」
新(あらた)「助けに来てもらったのに、もっとロマンチックなこと言えないのかよ」
新(あらた)「嬉しいとか、カッコイイとか・・・」
新(あらた)「大好きとか・・・」
新(あらた)「ちぇ、疲れ果てて寝ちゃったか──」
〇児童養護施設
瑛人(えいと)「霧子!」
菜々(なな)「きりこ!」
霧子(きりこ)「コラ、コラ! おねーちゃんが抜けているわよ」
新(あらた)「元気そうだね。施設には慣れたかい?」
瑛人(えいと)「みんな、優しい人だよ!」
瑛人(えいと)「ご飯がちゃんと決まった時間に出てくるし、あったかくて、美味しいんだ」
菜々(なな)「ななもしゃべる〜!」
ゆかりと誠夫妻が逮捕され、児童養護施設で暮らすことになった2人は、徐々に明るさを取り戻していった。
菜々(なな)「あのね、それで、んとねー、だからねー 新、きいてるー?」
あの缶の手の謎だが、ゆかりと誠夫妻が由佳さんを殺した後、遺体をバラバラにしようとしたのだが、
手首を切り離すのに時間がかかってしまった。
それで放火に切り替えたのだが、火事の時に偶然、お母さんを助けに行った瑛人くんが見つけてしまった・・・ということだった。
瑛人くんは、奈々ちゃんを守るために、ずっとそのことは誰にも言えずに暮らしていたようだ。
霧子(きりこ)「瑛人くん」
霧子(きりこ)「辛かったら言わなくてもいいけど・・・何故あの缶をリサイクルボックスに入れたの?」
瑛人(えいと)「おばさんから、隠すところが無かったからだよ」
瑛人(えいと)「間違えた場所に置いてあるゴミは、そのままずっと回収されないでしょ? だから、あそこならお母さんが安全だと思って」
瑛人(えいと)「まさか、霧子に発見されるとは思わなかったけどな」
瑛人(えいと)「さすが、万引きGメンだぜ! 俺の暗号にも気づいてくれたしな」
瑛人(えいと)「俺、将来万引きGメンになるよ!!」
新(あらた)「なんだよ、警察官の方が、カッコイイだろ?」
瑛人(えいと)「イヤだよ。取り調べのオッサンみたいなコワイ大人になりたくないよ!」
霧子(きりこ)「わかるわ~私なんか、泣いたんだよ!」
新(あらた)「霧子には、万引きGメンよりもっと相応しい仕事があるよ」
霧子(きりこ)「警察官にはならないわよっ」
新(あらた)「違うよ。今回のことで、俺分かったんだ」
新(あらた)「霧子には、俺の隣に居てほしい!」
霧子(きりこ)「何よ突然・・・それって、プロポ・・・」
新(あらた)「やっぱり、探偵!」
新(あらた)「霧子の能力は、探偵が向いていると思う!! で、俺の捜査の補助をしてくれたら、最強だと思わない!?」
新(あらた)「あれ?今、何て言ったの?プロポ?」
瑛人(えいと)「プロポーズじゃない?」
菜々(なな)「ぷろぽーずっていった!」
霧子(きりこ)「もぅお、ヤダヤダヤダ!」
私よ、今すぐ消えて無くなれ!!
Fin
お見事な叙述ですね、読んでいてハッとさせられました!ミステリ成分の多いところに、霧子ちゃんと新くんも特殊能力で大活躍、見どころだらけですね。
それにしてもこの2人の可愛らしさって、、、ビターなストーリーの空気感を吹き飛ばしちゃってますね!(笑)
”お母さん”と”ママ”の件など、違和感や複線が見事に回収されていく展開は読んでいて気持ちが良かったです。清々しいエンディングに大満足です。