霊媒師恋愛奇譚

bisuko

第一話 雨に消えゆくその想い(脚本)

霊媒師恋愛奇譚

bisuko

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〇モヤモヤ
  憎しみは愛情の裏返し──
  愛するが故に憎しみの感情が生まれる、なんてのはよくある話で
  実際問題、色恋沙汰の事件は絶えない。
  だけど、どうやらそれは
  生きた人間に限った話では無いらしい──

〇応接室
村雨 庵「つっかれたーーー!」
ユウ「おかえりなさい、庵さん」
村雨 庵「ただいまー、ユウくん!」
ユウ「で、仕事はどうでした?」
村雨 庵「おう、ばっちり『なおった』ぜ」
ユウ「治った?依頼者の方、体調でも悪かったんですか?」
村雨 庵「違う違う!あのばーさん80過ぎなのにピンピンしてるし」
村雨 庵「直ったのはテレビ!」
ユウ「・・・・・・」
ユウ「はぁ!?」
村雨 庵「故障したって言うから、見に行ったら線が抜けてただけでさ」
村雨 庵「その後、お礼に飯食って行けってしつこくて・・・」
村雨 庵「断るのにめちゃくちゃ体力を使った」
ユウ「あなた、霊媒師でしょ?何やってんすか・・・」
村雨 庵「あー、そのへんは大丈夫」
村雨 庵「ポルターガイストって事にしといたから!」
ユウ「何嘘ついてるんですか!このインチキ霊媒師!」
ユウ「しかも線入れただけだし!」
村雨 庵「はぁー?インチキじゃ無いですー」
村雨 庵「良いか!俺の左手に触れたものは、悪霊だろうが神霊だろうが皆消え失せる・・・」
村雨 庵「そんなすごーい霊媒師なんだよ!」
ユウ「・・・庵さん」
ユウ「いい歳して厨二病って笑えませんよ・・・」
村雨 庵「ちげーーーよ!!!!」
ユウ「・・・・・・」
村雨 庵「憐れんだような目で俺を見るな!」
村雨 庵「それになぁ、そんな天才でも『霊媒師』だけじゃ食ってくのは厳しいんだ・・・」
ユウ「えっ おばあちゃんからお金貰ったんですか?」
村雨 庵「・・・・・・」
ユウ「・・・・・・」
村雨 庵「ま、まぁ、大した額は貰ってないから」
ユウ「やってる事が詐欺師と変わらない・・・」
ユウ「俺、助手やめようかな・・・」
村雨 庵「仕方ねぇだろ!」
村雨 庵「うちに来る客なんてだいたい──」
村雨 庵「さて、今回の客はどうかな」

〇応接室
村雨 庵「・・・では被害に遭っているのは、あなたの婚約者なんですね?」
清水「は、はい」
清水「最初は目の錯覚かとも思いました」
清水「でも彼、段々と・・・」
清水「沈んでいってるんです」

〇水たまり
  最初は彼の足元に、水溜りのようなものが見え始めて──
  雨が降るたびに、その水かさが増えていっている事に気付いたんです。

〇応接室
清水「そのうち、原因不明の体調不良を訴え始めて入院までする事に・・・」
清水「彼はこの手の話を全く信じていないので、話しても笑い飛ばすだけですし」
清水「どうしたら良いのか・・・」
村雨 庵「・・・清水さん。この件、どうぞ私にお任せください」
清水「どうにかして頂けるんですか?」
村雨 庵「ですが、その前にお聞きしたい事が」
村雨 庵「──あんたの目的は、何なんだ?」

〇公園の砂場
ユウ「庵さん、ありましたよ──ほら、あそこ」
村雨 庵「おう、探してくれてありがとな」
ユウ「で、どうでした?婚約者さんは」
村雨 庵「まぁ見た感じ、早けりゃあと数日ってとこだな」
ユウ「・・・本当にどうにかなるんですか?」
村雨 庵「なるなる!」
村雨 庵「それにしても、本人は何も見えねぇ、心当たりもないってのがなぁ・・・」
ユウ「当たり前じゃないですか。話によると全く霊感ないみたいですし」
村雨 庵「はぁ・・・そんなこたぁ、わかってるよ」
ユウ「それよりも、ここで待ち合わせしましたけど来てくれますかねー?」
ユウ「ていうか、清水さんと婚約者さん、2人きりにして大丈夫なんですか?」
村雨 庵「あーもう、うるせぇ!大丈夫だ!」
ユウ「本当ですか!?だってあの人──」
清水「お待たせして、すみません」
ユウ「・・・ほんとに来た」
清水「それで、改まってお話というのは何でしょうか?」
清水「それにこんな場所で・・・」
村雨 庵「・・・はっきり申し上げると」
村雨 庵「このままでは、あなたの婚約者は──近いうちに命を落とします」
清水「そ、そんな・・・!」
清水「どうにかして彼を助けられないんですか!?」
村雨 庵「助ける方法はありますよ、1つだけね」
清水「教えてください!!」
村雨 庵「それは──」
村雨 庵「あなたが彼と別れる事です」
清水「・・・え?」
ユウ「ちょっと!庵さん!何言って──」
村雨 庵「良いから黙って聞いてろ!」
村雨 庵「彼の体調不良の原因は──」
村雨 庵「あなたに取り憑いている霊なんですよ」
村雨 庵「随分と厄介な霊のようで、交渉もできない上に強引に剥がすのも無理そうだ」
清水「・・・わかりました」
村雨 庵「どうなさるおつもりですか?」
清水「私、彼と別れます」
村雨 庵「・・・彼が好きなんですよね?」
清水「はい、もちろん」
清水「だけど、彼の命には変えられません」
清水「彼が助かる方法がわかって良かった・・・」
清水「愛する人には、死んで欲しくないですから」
村雨 庵「おっと!危ない」
村雨 庵「・・・とりあえずベンチに座らせとくか」
村雨 庵「──おい、とっくに家に着いてるぞ。いい加減出てこいよ」
???「・・・うぅ」
???「いやー!愛されてるなぁ、あの男!」
???「おかげで何かすっきりしたわー!」

〇応接室
  数時間前──
村雨 庵「──あんたの目的は、何なんだ?」
清水「え?」
???「なーんだ!やっぱり気付いてたか」
???「噂通りの本物なんだねぇ」
ユウ「清水さん!」
???「大丈夫大丈夫、気失ってるだけだろう」
村雨 庵「要件あるならさっさと言えよ」
村雨 庵「こっちは慣れてるんだ、お前みたいな頼み事してくる『人間以外』の奴らは」
???「そりゃあ、話が早い!」
村雨 庵「つーか、何でわざわざ取り憑いて来たんだよ」
???「いやぁ、私は小さな祠の非力な神でね」
祠の神「人の身体借りないと移動もできないんだよ」
村雨 庵「不便だなぁ」
祠の神「で、通りすがりのこの子に取り憑いたは良いものの、帰れなくなってもう5年!」
村雨 庵「じゃあ、その祠に連れてってやるから──」
祠の神「まぁ、でもその前に」
祠の神「最後に会いたい男が居るんだ」

〇公園の砂場
祠の神「5年前のことさ。あの冴えない優男──」
祠の神「この公園にある、壊れ掛けの小さな祠を直してくれたんだ」
祠の神「それで私は生きながらえてね」
祠の神「お礼を言いたかったんだけど、あいつ私が見えないもんだから」
ユウ「それで、清水さんの身体を使ったのか」
ユウ「ていうか、その恩人があんたのせいで死にかけてるけど」
ユウ「しかも、庵さんは別れさせようとしてるし・・・」
祠の神「そうそう!なんであんな事言ったんだい?私はそんな──」
村雨 庵「あ?何だよ?」
村雨 庵「別れて欲しかったんじゃないのか?」
村雨 庵「──恨むほど好きだったくせにさ」
祠の神「・・・・・・」
祠の神「まったく・・・良いんだよ、もう」
ユウ「へ?どういう事ですか?」
村雨 庵「感謝してんのに呪い掛けるなんて、それしかねーだろ」
村雨 庵「力振り絞って会いに行った愛しの男が、『うつわ』の方と良い感じになった挙げ句」
村雨 庵「婚約したとまでなったら、そりゃ我慢ならねーよなぁ」
祠の神「ははは!罪つくりな男だよねぇ」
村雨 庵「むしろよく5年も我慢したもんだ」
ユウ「いや、でも流石にやりすぎじゃ・・・死んじゃいますよ、婚約者さん」
祠の神「うん・・・だから、実はこっちが本当の依頼でさ」
祠の神「霊媒師さん。その左手で──私を消しておくれ」
村雨 庵「おい待て、どういう事だよ」
祠の神「困った事にさぁ、無意識なんだよあの呪い」
祠の神「無意識のもんは──消えない限り止められないさ」
村雨 庵「・・・良いのか、それで」
祠の神「あぁ、この子のさっきの言葉聞いて決心がついた」
祠の神「あの男は、この子と一緒になるべきだ。それに──」
祠の神「惚れた男には、幸せになって欲しいからね」
村雨 庵「・・・・・・」
祠の神「神すらも消滅できる力なんて、次いつ会えるかわからない」
祠の神「頼むよ・・・あの男が死ぬ前に」
村雨 庵「・・・仕方ねぇ、特別サービスだ」
村雨 庵「この依頼、料金はつけといてやるよ」
祠の神「あはは!やっぱり噂通りだ!」
祠の神「人間のくせに妖(あやかし)贔屓、その上、色恋沙汰なら親身になってくれるってね」
祠の神「霊達の間でも有名だよ、あんた」
村雨 庵「別に贔屓してるつもりはねぇ」
村雨 庵「俺にとっては人間だろうがそうじゃなかろうが、変わらねーってだけだよ」
村雨 庵「あと、色恋沙汰に親身になってるつもりもねえ!」
祠の神「はいはい、そういう事にしとこうか」
祠の神「──さぁ、頼んだよ」
村雨 庵「・・・いくぞ!」
祠の神「・・・あぁ」

〇水たまり
  ──どうして
  私はここに居るのに
  ──どうして、どうして
  こんなに貴方が好きなのに
  ・・・・・・
  だけど、どうか
  幸せに

〇公園の砂場
ユウ「雨が・・・」
  ──ありがとう
  私は神だからね、消えてもまた会えるさ
  私の名を、誰かが覚えていてくれたのなら
村雨 庵「・・・甘雨小町(かんうこまち)」
ユウ「・・・え?」
村雨 庵「そこの祠に書いてある名前だよ」
村雨 庵「雨の神だったんだな、あいつ」
村雨 庵「名前を忘れない限り、か・・・」
ユウ「何か言いました?」
村雨 庵「何でもねぇよ!清水さん起こしてさっさと帰るぞ」
村雨 庵「はぁ・・・色々と説明がめんどくせーな」
ユウ「別れなくても良いって、ちゃんと言ってあげてくださいね!」
村雨 庵「わかってるよ!あー気が重い・・・」
  ・・・名を忘れなければ
  俺もまた会えるだろうか
  ──あの人に。

次のエピソード:第ニ話 化け猫の恩返し 前編

コメント

  • とても素敵なお話で、どきどき、ほっこり、最後にうるっと、没頭してました!
    こういうジャンル、大好きです!

  • とても読み応えがあって面白かったです!
    甘雨小町の由来も素敵ですね。そして庵さんの過去などこれから気になることだらけです!続きも楽しみにしています♪

  • キャラが魅力的です!特に庵さんが気になります。ストーリーは先が気になる作りで、BGM等の演出がそれをさらに彩っていて、おもしろかったです。

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