エピソード1(脚本)
〇レトロ喫茶
平日の昼過ぎ、カフェ・バレンティナは、数組の老夫婦を迎えて静かに時を刻んでいた。
僕は、カウンター越しに、淹れたてのブレンドコーヒー二杯をアルバイトの女の子に渡す。
バイトの女の子「三卓さんですね」
そう確認をしてコーヒー一式をトレーに乗せ、回れ右をした彼女を見送った。
その背中を眺めていると、つい、本来そこにいるはずだった彼女の──
バレンティナのことを思い出してしまう。
僕が淹れるウインナーコーヒーが好きで、何よりも僕を愛してくれていた彼女を。
この小さなカフェも彼女の名前を冠したもので、開いてもうすぐ八年になる。
それは同時に、遠い国で大きな戦争が始まってからの年月も表していた。
遠い国はまさに彼女の祖国であり、家族のその元へ彼女が向かったのもまた八年前であった。
『私が三年で戻らなければ、三年で忘れなさい』
そう言った彼女の声を忘れないように繰り返し思い出していると、カランと店のドアベルが鳴った。
入ってきた金髪の女性。その面影は決して忘れる事はない。
彼女はバレンティナだった。
僕「バレンティナ・・・なのか?」
バレンティナ「なんだか照れるわね。私と同じ名前の店だなんて」
バレンティナ「ねえ。マスター、ウインナーコーヒーを貰える?」
僕「ああ・・・・・・」
カウンター席に座った彼女の前に、淹れたてのウインナーコーヒーを置いた。
彼女はカップを手に取り、そっと口へ運んだ。
バレンティナ「美味しい。良い雰囲気の店ね」
僕「ありがとう」
バレンティナ「あなた変わったわね。良い時間を過ごしてきたみたいね」
僕「君も前より綺麗になった」
バレンティナ「ありがとう」
カップを持つ彼女の左手の薬指に指輪がある事に気づいた。
僕「あっ・・・・・・」
バレンティナ「私、結婚したの。今は子供もいるの」
僕「そうか・・・。もう八年か」
バレンティナ「ウインナーコーヒー、もう一杯貰える?あなたにご馳走するわ」
ウインナーコーヒーの味は、まるで僕とバレンティナが歩んできた時間を表すかのように甘さとほろ苦さが残る人生の味だった。
ちょっとした描写やワードチョイスで、カフェの雰囲気が香りまで伝わってくるようでした。そして2人の口にする会話は、クラシカルなカフェがとてもよく似合うものですね。
「ウィンナーコーヒー」というキーワードがこの作品の世界観を引き立たせておりました。ほろ苦いコーヒーの上にちょこんと乗った甘いホイップのように、クラシカルな作品で、楽しく拝読いたしました。
短くて密度の高いお話でした。
タイトルからしてロマンティックでよかったです。
時の流れは止められないもので、その中に残った彼女はとても美しかったです。