エピソード1(脚本)
〇電車の中
電車に揺られていた。
平日は大学へと通う、乗り慣れた路線の列車。
けれど今日は土曜日。
少しだけドキドキしている。
お休みだからって理由だけじゃない。
大好きなゲームのキャラクターがいるからだ。
この路線とゲームタイトルのコラボラッピング企画。
大好きなキャラクターの広告が、乗り慣れた車内のあちこちにある。
〇電車の座席
沢山あるポスターの中に、一番大好きな『推しキャラ』の姿を見つけた。
窓の上だ。少し高い。
腕を伸ばして、キャラの顔にピントを合わせようとスマホを構えた。
その時だった。
「邪魔くせぇな! 何をパシャパシャ撮ってんだよ! これだから子どもは!」
後ろに立っていた男性に、突然そう怒鳴られてしまった。
「・・・すみません」
周りが見えていなかったかもしれない。
〇電車の中
公共の場で写真を撮るなら、迷惑にならないようにしなければならない。
高い所を撮ろうとして、必死になってしまった。
背が小さいのは、昔からコンプレックスだった。
背伸びをすれば撮れるけど、怒鳴られたショックで気力が消える。
諦めて帰ろう。
そう思った時だった。
「よかったら、撮りますよ」
近くから突然、声をかけられた。
〇電車の中
背の高いお兄さん「そのキャラクターが撮りたいんでしょう。よければ、代わりに撮りますよ」
スマホを貸していただければ。
にっこりと笑ってくれたお兄さんは、とても背が高かった。
沙羅「・・・じゃあ、お願いしてもいいですか」
はい。
お兄さんは、わたしのスマホを受け取ると。
ポスターにピントを合わせて、数枚写真を撮ってくれた。
背の高いお兄さん「これでいいかな。確かめてもらえますか」
アルバムを起動して、写真を確かめる。
大好きなキャラが、ブレもなくくっきりと写っていた。
〇電車の中
沙羅「嬉しい・・・。ありがとうございます!」
背の高いお兄さん「喜んでもらえてよかった。余計なお世話かと思ったけど、お声がけしてよかったです」
ここで僕は降りますので、と。
背の高いお兄さんは、次の駅で降りて行った。
心がキュンとする。
いいなぁ。
あんなに背が高くて、好きな写真が撮れて。
自然に誰かを助けられる。
・・・羨ましい。
内心そう思いながら、素敵な人に出逢えたのも事実だ。
また逢えたらいいのにな。
お兄さんの笑顔をもう一度思い出しながら、電車を降りる準備をした。
〇地下鉄のホーム
2日後の月曜日は雨だった。
大学に向かう足取りも、何となく重くなる。
それでもいつもと同じ、先頭車両に乗った。
発車のベルが鳴った後。
ドアが閉まる直前に、大きな影が近くに飛び込んできた。
顔を見てびっくりした。
それは、あの時のお兄さんだったのだ。
まずい、と思った。
---ここは女性専用車なのだ。
〇電車の中
背の高いお兄さん「あっ・・・。す、すみません!」
明らかに知らずに乗ってしまった人の反応だった。
車内に気まずい空気が漂う。
頭1つ以上背の高いお兄さんはとても目立った。
沙羅「ごめんなさい! 次の駅で降りますので!」
気がつくと、彼の前に飛び出していた。
手をぱっと掴み、次の駅に停車すると同時に一緒に降りる。
〇地下鉄のホーム
駅のホームで、お互いに顔を見合わせる。
彼は困惑から驚愕に表情を変えると、目を丸くしてわたしを見下ろした。
背の高いお兄さん「君は、この間の・・・」
〇都会のカフェ
わたしは彼を、構内にある近くのカフェに案内した。
テーブルに向かい合って座る。
沙羅「大丈夫ですか?」
背の高いお兄さん「ええ、ありがとうございました。実は引っ越して来たばかりで、この辺りのことを分かってなくて」
申し訳ないことをしました。背が高いせいで、威圧感を持たれてしまうことが多くて。
そう言って少し俯く。
背が高いなんて、いいことだけだと思ったのに。
単純に羨ましいとか思った自分が恥ずかしい。
沙羅「次から気をつければ大丈夫です。あなたの背が高かったから、素敵な写真を撮ってもらえたんですよ」
わたしは凄く嬉しかったから。
そう付け加えると。沈んでいたお兄さんは、ようやく微笑んでくれた。
背の高いお兄さん「僕の背が役に立てたのならよかった。おかげで、今日は助けてもらえましたから」
〇渋谷のスクランブル交差点
思ったより長くお喋りしてしまった。
駅の外に出ると、すっかり夜になっている。
思えば大胆なことをしたものだ。
成り行きで助けただけなのに、知らない男性をお茶に誘うとか。
背の高いお兄さん「よかったら、連絡先を教えてもらえませんか。改めてお礼をしたいです」
頭上から、明るい声が降って来た。
顔を上げると、彼が優しく笑っている。
不意に胸が熱くなった。
背の高いお兄さん「あ、怖かったら勿論いいんですけど」
寂しそうな顔になった彼が、取り出しかけたスマホをしまおうとする。
その表情に胸がキュンとなって、彼の手を掴んだ。
沙羅「怖くないです! わたしチビだけど、よかったらお友達になってください」
お兄さんはキョトンと目を見開いて。
それから、改めてわたしに手を差し出した。
背の高いお兄さん「こちらこそ。デカい自分でよかったら、ぜひ友達になって欲しいです」
それが、わたしたち二人の出会いでした。
身長差、約40cm。
この時から、距離を縮めていく時間が始まったのです---。
お互いのコンプレックスがそれを打ち消し合った瞬間ですね!私は小さい頃から鼻が低いのが嫌ですごくコンプレックスを持っていたんですが、鼻が高くてコンプレックスを持っている主人と出会って、鼻のことなんかどうでもよくなりました。二人の絆は深くなると思います!
身長差カップルいいですよね!
女の子が背伸びするのも、男の子がかがむのも大好きです!
でもすごく親切な彼で、読んでるだけでキュンしますから、彼女はたまらないのでは?
人はそれぞれコンプレックスを抱えています。2人の悩みが相反する事は偶然にも悩みの共通点がお互いの感情を刺激したんだろう。知り合えて良かった。