オネエ系マンガ家、無表情系編集者に初恋されてます!

あいざわあつこ

第7話 オネエ、恋をする(脚本)

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〇漫画家の仕事部屋
  ガリガリ、ガリガリ、と。
  一心不乱に線を引く。
柊「・・・・・・」
  一枚、一枚、丁寧に。
  一コマ、一コマ、思いを込めて。
柊「・・・ん、できた」
  つぶやいた瞬間、インターホンが鳴る。
  そして、ほぼ同時にドアノブが回った。
柊「お」
  壁がけ時計を見上げると、
  約束の時間を少し過ぎたところ。
  そのことに苦笑していると、
  廊下を歩くドタドタと大きな足音が
  聞こえてきた。
柊(ふふ、何から何まで比べちゃうわね)
編集「お、遅れてすみません!」
柊「いいわよ、お疲れさま。 原稿、ここにあるわよ」
編集「ありがとうございます! 今回も早くて助かります」
  言いながら、彼はページ数を数える。
  ・・・滝沢くんの後任である彼は、
  ベテランで、よくデキた人だ 。
  だけど・・・いや、だからこそ、
  なかなかがさつなところもある。
柊(比べちゃいけないんだけど、 滝沢くんとアタシ、 気があっていたのよね)
柊(繊細さん同士、っていうか)
  きっと滝沢くんとだったら、
  一緒に暮らしてもヘイトが
  溜まることはないだろう。
編集「ん・・・ばっちりです! これで、原稿いただきますね。 いやあ、鬼橋先生は本当に優等生だ」
柊「・・・ふふ、でしょお?」
  大げさに笑うと、編集もつられて笑んだ。
  それではまた、と去っていく
  背を見送ってからアタシは立ち上がる。
柊「よし、気合い入れていくわよ」
  ぎゅっと髪を結い直して、
  アタシは勝負服に袖を通した。
柊(待ってなさい、滝沢くん!)

〇漫画家の仕事部屋
滝沢晶「よかった」
滝沢晶「・・・俺の最後の仕事が、 きちんとまっとうできて」
柊「え?」
  戸惑い、視線を揺らすアタシに、
  滝沢くんは諦観をのぞかせた
  笑みを浮かべる。
滝沢晶「配置転換があるんです。 俺は、青年誌自体から移動で」
柊「うそ・・・」
滝沢晶「うそならよかったんですが、 残念ながら・・・」
滝沢晶「実はずいぶん前から決まっていたんです。 でも、俺がわがままを言って 遅らせてもらっていて」
柊「まさか、それって」
  アタシを見て、滝沢くんはかすかに
  口角をあげてみせた。
滝沢晶「この物語を、見届けたかったんです。 あなたの、編集として」
柊「・・・っ」

〇オフィスビル前の道
柊(あのとき、アタシは何も言えなかった。 まさか・・・って、驚いちゃって。 だけど・・・アタシは、もう決めたもの)
  行き違う人々がアタシを見て振り返る。
  小さく聞こえる女性の黄色い声に、
  アタシもまだまだ捨てたもんじゃない
  という気にさせられた。
柊(いつもならウザって思っちゃうけど 今は勇気づけられるわ。 ふぁいとっ、アタシ)
  ・・・と、会社から出てくる
  見知った背中を見つけた。
柊「いたっ」
滝沢晶「・・・?」
滝沢晶「え? え・・・え? お。おお、鬼橋先生?」
  珍しく動揺した様子の滝沢くんに
  内心してやったり、という気になった。
柊(ふふん、それもそうよね? だって・・・)
  アタシは、そのまま彼の前でひざまずく。
  そして、大輪のバラの花束を滝沢くんに
  差し出した。
柊「あなたのこと、待ってたのよ」
柊「・・・病めるときも、健やかなるときも、 一緒にいてあげるって誓うわ。 だから、アタシのそばにいなさい?」
滝沢晶「!!」
滝沢晶「そ、それって、もう、 プロポーズなのでは」
柊「なに? アンタは別れる前提で 告ったわけ?」
滝沢晶「ちがっ、違います! 違いますけど、でも、その」
柊「アラサー男の恋心は重いのよ。 弄ばせてなんてやらないわ」
滝沢晶「・・・うぐっ。 でも、あの! さすがに、その!」
  耳まで真っ赤に染めた滝沢くんが、
  花束を受け取ってそれに顔をうずめる。
  そして、か細い声でこう言った。
滝沢晶「俺の、職場なんですが・・・ここ」
柊(って。言いながらデレてるじゃない。 顔、ゆるっゆる)
  こんな顔もできるのね、と思うと、
  より愛おしさが募っていく。
滝沢晶「そっ、それに、先生!」
滝沢晶「外で、オネエバレしないようにとか。 気をつけてたじゃないですか。 デートのときとか」
柊「もういいのよ。 アタシ、こう見えて恋には どストレートなの」
柊「欲しい物の前では変化球なんて 投げられないわ」
滝沢晶「欲しい物、ですか・・・っ」
柊(嬉しそうにしちゃってまあ)
  少しイタズラごころが湧いて、
  立ち上がった勢いそのままに
  ぐっと距離を詰めた。
柊「それで、・・・答えは?」
滝沢晶「・・・っ」
  息を呑む音がする。
  顔を真っ赤に染めたまま、
  それでも彼は眼光鋭く、
  アタシを睨みつけるように見つめた。
滝沢晶「決まってるじゃないですか。 イエスです」

〇高層マンションの一室
柊「んあああ、思いつかないぃ。 思いつかないんだけどぉ!」
滝沢晶「はあ、大変ですね」
柊「大変ですねって、なに!? ひどくない!?」
滝沢晶「ふふっ」
  食って掛 かると“晶”くんが、
  喉を鳴らして笑った。

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