読切(脚本)
〇トラックのシート
沙原 凛「ごめんなさい!!準備に手間取って遅くなっちゃった・・・!」
桐乃 好貴「いーよ。全然気にしてない」
桐乃 好貴「それより忘れものは大丈夫なの?ハンカチは?」
沙原 凛「持った!!!!!」
桐乃 好貴「スマホは?」
沙原 凛「ここにございます!!!!!」
桐乃 好貴「日焼け止めは?」
沙原 凛「あ"ッッッ・・・・・・・・・・・・今日くらいは・・・・・・良いでしょ・・・う・・・・・・・・・!!!」
桐乃 好貴「あはは、俺のことは?」
沙原 凛「大好きです!!!!!!!!」
桐乃 好貴「良し!!じゃあ行こう〜!」
〇走行する車内
私、沙原凛と桐乃好貴は2週間に一回はドライブに行っている。
行き先を決めないで自由に走る。初めてそれを彼から聞いた時はとても不思議に思った。ガソリン代ねぇだろって。
けれどやってみたら分かった。制限時間を設けないで走るのは束縛感が無くてとても開放的なのだ。
それにある程度時間が経ったら会話が生まれる。あそこの店が美味しいらしいだとか、展覧会が開かれているらしいなどだ。
そんな会話から行き先を決めるのは穏やかなのだ。もちろんこんなあやふやな決め方だから寄り道もする。まぁこれも一興である。
こんな風に考えごとをしていたが彼がラジオを止める音で意識が浮上する。
沙原 凛「あれ?ラジオ止めちゃうの?いつもつけてるのに」
桐乃 好貴「ん〜なんか今日は良いかなって」
桐乃 好貴「ねぇ今日は俺行きたい場所があるんだ。そこに行っても良い?」
沙原 凛「いいよ。どこら辺にあるの?」
桐乃 好貴「・・・海?」
沙原 凛「ふふふ、海に行くの久しぶりかも」
〇車内
沙原 凛「思いっきり山じゃないですか。海はどこだよ」
桐乃 好貴「まーまーお嬢さん心配しないで。あとちょっとですよ」
沙原 凛「あら?私の耳が悪いのかしら。全然聞こえないわ?」
桐乃 好貴「あはは気圧差で耳がこもるやつだ」
沙原 凛「聞こえないでーす」
桐乃 好貴「見てみてたぬきがいるよ?」
沙原 凛「聞こえなーい」
桐乃 好貴「好きだよ」
沙原 凛「私も・・・・・・」
桐乃 好貴「聞こえてるじゃん。嘘つきだね、悪い子」
沙原 凛「はいはい私の負けです・・・・・・・・・・・・ ・・・でも好貴も嘘つきじゃん。どうして海だとか言ったのよ」
そう、全く海の気配などないのだ。
ガードレールや地面にゴム跡があることなどから普段の通行料はそれなりにあるのは分かるが現在の人通りは少ない。
全開にした窓からは潮の香りなども特にせず、深い緑の香りと鳥のさえずりが舞い込んでくる。
桐乃 好貴「大丈夫俺は嘘つきじゃないよ」
桐乃 好貴「よーし!さぁ俺のお嬢さん!車から降りて。少し歩くことになるけど俺が最後の魔法をかけてあげる」
〇林道
昨日雨が降ったからか土が水を吸っており足を取られる。
沙原 凛「わっ・・・・・・!」
桐乃 好貴「おっと・・・・・・・・・」
だが彼がとっさに抱き寄せてくれたので難を逃れる。
汗をじんわりとかいているからか、いつもより男っぽい彼の香りが鼻腔をくすぐり頭がいっぱいになった。
ふと虫の声で意識が浮上する。
しかし今まで感じていなかった湿気を含んだ深い草木の香りも彼の香りと混ざって余計に色っぽく感じた。
桐乃 好貴「ごめんね身支度をしてる時に言えば良かったね。その靴じゃ余計に歩きづらそうだ」
沙原 凛「いいよ、気にしないで」
桐乃 好貴「俺の手を掴んで。手を繋ごう」
手を繋いでしばらく歩き続ける。
歩いている間に彼の方を見るとこちらを見て微笑んでいるものだから私は恥ずかしくなり綺麗な自然に目を逸らす。
あまり会話はしなかった。
自然の声と自分たちの歩く音だけが聞こえるが私たちは手で戯れあったり繋ぎ直したりすることに夢中になっていた。
桐乃 好貴「ねぇ見て、もうすぐだよ」
沙原 凛「え?何が?」
桐乃 好貴「いくよ〜!!!!!」
桐乃 好貴「さーーん、」
桐乃 好貴「にーー、」
桐乃 好貴「いち!」
〇海辺の街
ざわりと森がはけた。
視線の少し下には夕焼け色を溶かした海が広がっている。
沙原 凛「・・・・・・・・・・・・」
桐乃 好貴「ね?俺は嘘つきじゃなかったでしょ?」
確かに嘘では無かった。彼は独り言のようにここお気に入りの場所なんだよねと溢す
桐乃 好貴「でもやっぱり浜辺に人がいないな」
そうなのだ。海の反対側にある高速道路は車で溢れているのに対して浜辺や住宅街に人が歩いている様子はない
・・・・・・・・・
静かなのだ、寂しくなるくらいに。
桐乃 好貴「ねぇ!俺の名前を呼んでよ」
沙原 凛「好貴?」
桐乃 好貴「違う。訓読みと音読みで」
沙原 凛「・・・・・・・・・・・・!」
沙原 凛「すきだよ。世界で1番愛してる」
桐乃 好貴「もっと言って」
彼が私を抱きしめグズリ始める。こんな彼を見たのは初めてだった
沢山気持ちを伝えたあと彼は顔も上げずに好き、好きだよ。俺も、愛してる。大好きだと私に訴え続ける
桐乃 好貴「ねぇ、愛してる。本当に。明日も言いたい、明後日も。明明後日も」
桐乃 好貴「君が好きだって」
それを聞いた瞬間私の中で何かが溢れた。
ドライブ中にもずっと頭に残っていた朝のテレビもラジオも吹っ飛ぶくらいには衝撃が強かった
だっていつもは余裕ように私に愛を囁いた彼が私に愛を求めて、初めて見るような顔で声で私なら愛を伝えてくれるのだ
脳が揺れる。ふとこの感情は恋人に対する愛じゃなくて母性なのではと思った。でも感情の名前なんてどうでもいい
とにかく惜しいと思った
もっと私に愛を伝えて欲しい。もっと彼に大好きだと伝えたい
どうしよう
どうしよう!!!!!
明日世界は終わってしまうのに!!!!!!
明日世界が終わってしまうなら、それが現実になるかどうかわからないとしても、大切な人に本当の気持ちを伝えたくなるのかもしれませんね。よく考えてみたら人は皆いつか最後の時があるので、誰かに気持ちを伝えるのは今なのかもしれないと思いました。
私も明日世界が終わると確信したら、きっと大切な人に目いっぱい気持ちがはち切れるくらい愛情を表現すると思いました。ラジオのニュースが間違いであってほしいですね。
彼の様子が変だと思ったら…ラストで「え!?」ってなりました。
終わりは夕暮れの海って、なんだか切なすぎて心が壊れそうですね。