未来への隙間

徳積ばし

過去の荷物(脚本)

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〇ダイニング
かあこ「あーもう大変、これだから引っ越しは嫌なのよ」
やご「今は、荷造りもやってくれるサービスあるっしょ」
かあこ「だめよ。そうすると、今ここにあるごみも全部一緒に運ぶことになるでしょ。それじゃ、折角の新居がいきなりゴミ屋敷よ」
やご「しかし、この山のような段ボール箱、一体何が入っているのさ。開けてもいい?」
かあこ「開けてもいいけど、あちこちに置かないでね。それなりに、まとめていれてあるんだから」
やご「なんだよこれ。パーティーグッズ?それも、誕生日パーティーだな。ハッピーバースディって垂れ幕迄はいっているよ」
かあこ「あーそれ、二十歳の時の誕生日。記念に、皆が飾りつけして祝ってくれた時の」
やご「二十歳?何年前のものだよ。こんなの、もう使わないでしょ。捨てちゃいなよ」
かあこ「ダメダメ。この時は、まほりが飲みすぎちゃってさ。大変だったのよ。そうそう、このバルーンに足取られて、転んじゃってさ」
かあこ「あはは、おかしい。あの時は楽しかったな。皆で集まるだけで、楽しくってさ」
かあこ「私の誕生日を祝いに、五人も来てくれたんだよ。今じゃ、なかなか集まれない友達ばかり。学生時代は、やっぱり最高だよね」
やご「でも、こんなバルーンの風船なんか、邪魔になるだけじゃない。捨てちゃえば?」
かあこ「えー駄目だよ。私の大切な大切な思い出なんだから。そして、皆で遊んだ楽しい楽しい思い出なんだから」
やご「そうなの。じゃ、全部取っておくわけ?」
かあこ「うん。これは捨てられない」
やご「この箱は何?ユニバーサルスタジオ?こんな怪獣の人形、飾るに飾れないな。誰かからもらったお土産かい?」
かあこ「あー、それはね。卒業旅行の思い出。卒業旅行で、友達と四人で大阪のユニバーサルスタジオに行ったのよ」
かあこ「。あの時も、楽しかったなー。皆大はしゃぎしちゃってさ」
かあこ「あそこって、映画の場面が、館になってるでしょ。見たことある場面ばかりでさ。そこの主役になっちゃうわけよ。だから、大騒ぎ」
かあこ「かなだったかな。転んでズボンがやぶけちゃってさ。仕方がないから、買いに行ったのよ。あの時も楽しかったな」
やご「ふーん、でも、スマホの中に写真ぐらい残っているだろ。へんてこな置物や、絶対見ないようなパンフレット迄、どうして」
かあこ「捨てられないのよ。だって、皆と話した事や、笑ったこと、その怪獣の置物見て何をいったかとか、いっぱいいっぱい思い出すのよ」
かあこ「全ての物に、思い出が詰まっているのよ。だから、やっぱり捨てられない。どの箱の中も、私の宝箱なのよ」
やご「ふーん、そうなんだ。でも、こんなに思い出の箱が一杯あったら、もう、新しい思い出をいれる余地はないよね」
かあこ「えっ?」
やご「折角、新生活を始めようって言うのに、過去の思い出にしばられてちゃ、だめなんじゃないの?」
やご「過去の時間より、未来の時間の方が長いんだよ。これからの方が、いっぱいいっぱい思い出ができるんじゃないの」
やご「そりゃ、楽しいものばかりじゃないかもしれないけどさ」
やご「でも、これから僕と一杯思い出作ればいいじゃない。できるなら、人生の終わりまで。山のように思い出作ろうよ」
やご「そのためにも、新しい思い出がおけるように、昔の思いで片づけて、新しい思い出が置けるように隙間作っておこうよ」

コメント

  • 捨てていくタイプか否か大きく分かれますよね。私は記憶力が割とあるほうなので、物質的には新しいものを更新していきます。でも本人にとって残すことが大事なら、限度はありますけど共有してあげるのもありですね。

  • 思い出のものって、取っておきたくなる気持ちはわかるんですが、これってきりがないんですよね。笑
    彼の言い分がもっともです。
    これから作る思い出でいっぱいになっちゃいますよ。

  • あー、すごく自分に突き刺さりました。
    確かに過去の思い出のものって捨てられないですよねぇ。
    新しい思い出が入る余地がないわけではないんですが…。確かにそのとおりだなぁと思いました…。

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