給食の王さま!

明日香譲

第五話 お楽しみ献立(脚本)

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〇教室
星有紀「ついに決着の時、ですわ」
矢的隆司「・・・ああ」
佐藤亮「お楽しみ献立・・・どのようなメニューかと思っていましたが・・・」
佐藤亮「クリームシチューにデニッシュパン。デザートにレアチーズケーキですか・・・」
佐藤亮「このメニューを二人はどうするのか・・・」
星有紀「今日のアレンジは私からでしたわね」
星有紀「まず、こちらを使わせてもらいますわ」
佐藤亮「コンロと、鍋・・・?」
星有紀「この鍋で、マカロニを茹でていきます」
星有紀「そして、茹で上がったマカロニをシチューに加えてよく混ぜ合わせていき、あとはチーズを散らせば・・・」
矢的隆司「・・・なるほど。お前のアレンジは、グラタンというわけか」
佐藤亮「ではここからオーブンで・・・?」
星有紀「いいえ、違いますわ」
星有紀「セバス」
セバス「お嬢様。準備、整っております」
矢的隆司「おい、何だそいつは」
星有紀「彼は私のお付きの一人ですわ。彼にはこれを準備してもらっていたのです」
  有紀が窓の外のベランダを指さす。そこには、昨日までなかったはずの──
矢的隆司「石窯、だと!? 馬鹿な、いつの間に!?」
星有紀「昨日から、作らせておきましたの」
星有紀「最初は石窯作りも全て自分で行うつもりでしたが・・・お爺様に危険だからと止められてしまいまして」
佐藤亮「そういう問題ではないと思いますが・・・」
星有紀「ともかく、この石窯に先ほどのグラタンを入れ、数分焼けば・・・」
佐藤亮「くっ・・・! 焼けたチーズの暴力的な香りが、ここまで漂ってきます・・・!」
矢的隆司「これで完成、というわけか」
星有紀「いいえ。まだ仕上げがありますわ。これを使って、ね」
女子生徒「え、なにあれ、グロっ」
男子生徒「ドロ団子?」
星有紀「ふふふ、お二人は、これがなんだかわかりますでしょう?」
佐藤亮「・・・ええ、もちろんですとも。正直、体の震えが止まりませんよ」
矢的隆司「黒トリュフ。およそ中学校なんて場所には似つかわしくないシロモノだ」
星有紀「その通り、これを、グラタンの上に惜しげもなく・・・散らします!」
佐藤亮「く、あ、トリュフの豊かな香りが鼻腔を刺激してきます!」
星有紀「最後に、デザートにラズベリーのジャムを乗せれば・・・完成、ですわ」
佐藤亮「な、何という豪華なアレンジ・・・!」
星有紀「さ、食べていただけます? グラタンは出来立てが一番美味しいですから」
佐藤亮「・・・いいでしょう」
  頷き、グラタンを口にした瞬間、
佐藤亮「うおおおおおおっ・・・!」
  亮は、感激のあまり咆哮を上げた。
佐藤亮「シチューの旨味、チーズの香ばしさ、更にトリュフの香りが混然一体となり・・・」
佐藤亮「何という美味さ・・・! まさか給食で、これほどまでの物と出会えるなんて!」
星有紀「ご満足していただけたようですわね」
矢的隆司「・・・・・・」
星有紀「矢的さん。貴方に、これを超えるアレンジができるかしら?」
矢的隆司「・・・俺は自分にできる、精一杯のアレンジを見せるだけだ」
星有紀「なら、楽しみに待たせてもらいますわ」
矢的隆司「アレンジ、開始だ!」
矢的隆司「まず使うのは、これだ。これを、このシチューの中に少量混ぜていく」
佐藤亮「それは、味噌・・・? シチューにですか?」
矢的隆司「意外かもしれないが、シチューに追加することで、旨味がアップする」
佐藤亮「しかし、どうやら市販品ではないようですが、その味噌は、どうやって?」
矢的隆司「家庭科の先生が、こっそり学校で作っていてな。それを分けてもらったんだ」
佐藤亮「学校で作るとは。教師の職権濫用ですね」
矢的隆司「まったくだ。だが、味は確かだ。今回も、この味噌で味がきまる」
矢的隆司「そして、この味噌を混ぜたシチューに、このクルトンを乗せていく」
佐藤亮「そちらも手製のようですが・・・」
矢的隆司「家庭科の時間に作った」
男子生徒「あ、なんか一人だけ変なことしてると思ったら、それ作ってたのかよ」
矢的隆司「クッキーの材料に加えて、酵母と塩がれば、作るのは難しくない」
矢的隆司「とはいえクッキーの方は任せきりで悪かったな」
矢的隆司「クルトンはまだあるから、お前もシチューに入れたらいい」
男子生徒「お、俺もアレンジデビューか」
矢的隆司「このぐらいなら、誰でも簡単だろう?」
星有紀「・・・・・・」
矢的隆司「さて、シチューのアレンジは終了だ」
矢的隆司「後はデザートだが・・・」
  鞄の中を漁り、俺は一つの皿を取り出す。
星有紀「ずいぶんと荒い作りのお皿ですわね」
矢的隆司「・・・だろうな。今日のために作ったとはいえ、皿を作るのは初めてだったからな」
星有紀「作った・・・?」
矢的隆司「これは美術の授業でな」
矢的隆司「お楽しみ献立には必ずケーキが出る。だからケーキに合った皿があれば、もっと美味しいんじゃないかと思ってな」
星有紀「それだけのために・・・」
矢的隆司「料理には、器も大事だろう?」
矢的隆司「あとはこの桜の塩漬けを乗せていく」
佐藤亮「まさかとは思いますが、それも・・・?」
矢的隆司「春に学校に咲いている桜の花びらを使って、作っておいた物だ」
矢的隆司「この学校の桜は、地域で随一だ。満開の桜が、学校内を埋め尽くす様は圧巻だぞ」
矢的隆司「お前も来年はその景色を楽しむといい」
星有紀「・・・・・・」
矢的隆司「さあ、完成だ。亮、食べてくれ・・・!」
佐藤亮「・・・いただきます」
佐藤亮「・・・・・・」
佐藤亮「なるほど、確かに美味しいです」

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