エピソード1(脚本)
〇美術室
「── みんなのところに行かなくていいの?」
誰もいない美術室に私は1人訪れていた。
背後から声がかかる。
晴人「へへ、さっきぶり」
同級生の晴人だ。
彼とは小学生のときからの幼なじみである。
晴人「卒業式・・・終わるの早かったね」
晴人「やっぱりさ、ここに思い入れある?」
晴人「3年間毎日ずっと描き続けてたもんな・・・・・・」
晴人「・・・・・・美大、合格おめでと」
晴人「俺の英語、ちょっとは役に立った?」
晴人「立ってたら・・・・・・うん・・・嬉しいよ」
晴人「・・・東京でしょ?」
晴人「同じ大学目指さないのはわかってたけど、県まで離れるんだなぁ・・・」
晴人「もう気軽に会えなくなるな」
晴人「・・・」
晴人「・・・あのさ、」
晴人「絵、見せて」
晴人「最後にもう一回。最後の高美展で描いてたやつ」
晴人「いいでしょ。生で見たいんだって」
美術室の奥に晴人を連れていく。
展示を終えた大きなキャンバスが窓際のイーゼルに立てかけられていた。
私はかけられていた布をめくる。
鮮やかな絵がめいっぱいの暖かな春の陽を浴びて現れた。
晴人「・・・きれい」
晴人「俺この絵が好きだよ」
晴人「花の描写が好きなんだ」
晴人「造花を見て描いたと思えないくらいリアルで生き生きしててさ、本当に咲いているみたいでドキドキする」
晴人「・・・褪色しないように布を被せたままじゃもったいない」
晴人「明るい場所でさ、ずっといろんな人に見ていてほしい・・・」
美術室を風が吹き抜けた。
カーテンがふくらんで、キャンバスの奥でモチーフに使った造花が揺れる。
晴人「あの造花・・・」
晴人は造花の方へ歩み寄り、そしてそれを神妙な面持ちで手に取った。
晴人「・・・・・・」
晴人「・・・うん」
晴人「ねえ、聞いて」
晴人「・・・」
晴人「好きだよ」
晴人「こんなにきれいな世界を持っている君が好き」
晴人「自分のために頑張れる君が好き」
晴人「・・・もう、会えるのは今日が最後かもしれない」
晴人「それでも・・・」
晴人「もし応えてくれるなら、この花束を受け取ってくれませんか」
晴人「・・・本当はさ、結構前から好きだった」
晴人「でも、言えなかったんだ。わがままになると思ったから」
晴人「・・・う〜ん・・・やっぱり造花じゃカッコつかないかなぁ」
晴人「ちょっと持ってて」
そう言って晴人は私に造花を手渡した。
直後、突然視界が白む。
晴人「あはは、急にごめん」
晴人「カーテンだよ」
晴人「・・・ほら、こうしてめくると、花嫁みたいだと思って」
晴人「・・・何年先になるかわかんないけどさ、」
晴人「必ず迎えに行くよ」
晴人「今は造花とカーテンだけど、いつか絶対ブーケとベールにしてみせるから」
晴人「だから・・・」
晴人「俺と付き合ってください」
晴人「・・・あ、そうだ」
「えーっと・・・」
晴人「・・・・・・あは、これしかなかった」
晴人「英単語帳、なんかもう既に懐かしい気するよな」
晴人「これの・・・リングのとこをさ・・・」
晴人「・・・よし」
晴人「左手、出して」
晴人「・・・今後何があっても、君を想い、忘れないことを、この指輪に誓います」
晴人「・・・・・・」
晴人「・・・・・・フッ、」
晴人「フフッ、あはは!」
晴人「さすがにこれじゃ大きすぎるよな!」
晴人「見て!指輪なのに指三本入る」
晴人「はぁっ、おもしろすぎる。せっかく真面目な雰囲気だったのに!」
晴人「はー・・・」
晴人「・・・ふふ、またこうやって笑おうね」
晴人「本当に忘れないから。絶対また会いにいく」
晴人「どうか元気でね。しんどかったらいつでも通話するから」
晴人「・・・・・・英語、教えててよかった」
晴人「頑張って、応援してる」
晴人「俺のことも忘れないでね」
卒業式だからこそ伝えられる想いってありますね。彼女の描く絵、その世界が好きっていうのは、描くことが大好きな彼女にとって何よりすてきな全肯定の愛情表現の言葉ですね。
優しい彼との優しい時間。
素敵なプロポーズがロマンティックですごく素敵だなぁって思いました。
柔らかなんだけど激しい、そんな愛を感じました。
自分の好きなもの、好きなこと、そしてこういった自分の作品が好きって言われること、とーっても嬉しいものですよね。
私ならそれだけでころっと落ちるかもです笑