君に贈る大輪の花

ゆん

読切(脚本)

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〇お花屋さん
花屋「お客様」
花屋「申し訳ありませんがこちらの花屋はもう閉店時間を過ぎておりまして」
女性「あ、あのっ 私「ブルーローズ」に来た者です」
花屋「・・・これは失礼いたしました」

〇お花屋さん
占い師「ようこそ、占いの館「ブルーローズ」へ」
  午後22時過ぎ、花屋は占い館へと姿を変える。
  店の名前を知るお客様だけに、この店は開く。

〇お花屋さん
占い師「何を占いましょう」
女性「ある花を探しているんです」
占い師「花?」
女性「占い師さんは、失くしものを探すこともできると伺いました」
占い師「詳しく聞きましょうか」
女性「私、幼い頃に母を亡くして」
女性「小さい頃のアルバムだけが母との繋がりなんです」
女性「その大切なアルバムの、一番最後の写真が無いんです」
  そういうと、彼女は自分の鞄から古いアルバムを取り出した。
  めくっていくと、最後のページにだけ不自然な空白がある。
  よく見ると空白の横に、メモ書きのようなものがあった。
占い師「「大輪の花 空見町にて」 ・・・これはお母様の字ですか?」
女性「そうです」
女性「このメモを手がかりに、この空見町の花屋さんへ来ました」
女性「一人で探すのはもう限界で」
女性「昔のものだから写真はもう見つからないかもしれないけど」
女性「花の正体だけは、どうしても知りたいんです」
占い師「なるほど。 では占ってみましょうか」
占い師「・・・暗い場所で凛と咲く花が見えますね」
占い師「また花屋の空いている時間に来て下さい。 可能性のある花を考えてみます」
女性「お願いします」
  その日から彼女と僕の「花探し」が始まった。

〇お花屋さん
  毎日のように彼女は花屋を訪れた。
花屋「ではサルビアはどうでしょう? 花言葉は「家族愛」」
女性「可愛い花ですね。 でも「大輪の花」っぽくはないかな」
花屋「なるほど」
花屋「・・・これだけ店の中を探しても見つからないということは」
花屋「もしかしたらこの辺りに野生で咲く花なのかもしれませんね」
花屋「町を散策してみるのも手かと」
女性「良い案ですね」
  はじめは強張っていた彼女の表情は、何度も話すうちに少しずつ柔らかくなっていった。
  けれど、どんなに笑っていても彼女の顔から悲しみの影が消えることはなかった。
花屋「次の休業日に一緒に行ってみましょうか」
女性「お願いしますっ」

〇見晴らしのいい公園
女性「わあ、綺麗な公園」
花屋「ここは季節によって様々な花が咲くんです」
女性「手がかりがあるかもしれませんね」
花屋「良い景色で気分転換にもなるでしょう」
女性「・・・どうして良くしてくれるんですか?」
女性「私、ただのお客さんなのに」
女性「嬉しいけれど、突然見放されてしまいそうで怖いんです」
女性「お母さんが急にいなくなった時みたいに」
花屋「・・・僕に似ているからですよ」
花屋「僕も大切な人を失ったことがあるんです」
女性「え・・・」
花屋「どんなに悔やんでも、もういない人には何もしてあげられない」
花屋「花を手向けることくらいしか」
花屋「・・・それで、花屋を始めました」
花屋「同時に、私のような人を助けるために占い師も始めたんです」
女性「・・・いつも明るい方なので、そんな風には見えなかったです」
花屋「顔が笑っていても心が笑っているとは限らないですよ」
花屋「あなたにも心当たりがあるでしょう」
女性「・・・はい」
花屋「だからあなたが来てくれたことは、私の本望なんです」
女性「花屋さん」
薫「薫(かおる)でいいですよ」
薫「貴女のことはなんとお呼びしたら良いですか?」
一華「一つの華と書いて、一華(いちか)です」
薫「綺麗な名前だ」
一華「ふふ。なんだか不思議です」
薫「え?」
一華「どちらも、花に関係する名前ですね」
薫「本当だ。不思議」
一華「ね」

〇見晴らしのいい公園
薫「いつのまにか暗くなっちゃいましたね」
一華「はい」
一華「手がかりはなかったけれど」
一華「薫さんのお話が聞けて、良かったです」
一華「そういえば。どうしてお店の名前「ブルーローズ」なんですか?」
薫「青い薔薇って、昔は作ることができなかったんです」
薫「存在しない花。花言葉は「不可能」」
薫「けれど、その後研究が進んでついに作ることが実現した」
薫「それで花言葉も「夢かなう」に変わったんです」
一華「素敵な話」
薫「でしょう。 僕も不可能を打ち破って、夢をかなえてみたいと思ったんです」
一華「薫さんの夢って、なんですか?」
薫「そうだなあ。 まず一華さんの夢を叶えることかな」
一華「えっ」
薫「思い出の花を見つけないと、ね」
  その瞬間、空が鮮やかに光った。

〇花火
一華「花火!」
  小さな花火たちが咲き終わった後で、一際大きな花火が一つ、夜空に光った。
一華「すごい!」
薫「大きな花火だ」
  ハッと息を呑む。
  彼女も同時に気付いたようだった。
「大輪の花!」
一華「やっと見つけた」
一華「お母さん・・・私見つけたよ」
一華「薫さんがいてくれてよかった」
薫「救われていたのは僕も同じです」
薫「君の笑顔に何度も助けられた」
薫「ありがとう、一華」
一華「こ、こちらこそ!」
一華「夢、叶っちゃいましたね」
薫「叶っちゃったね」
一華「薫さんの次の夢は、なんですか」
薫「うーん」
薫「君のそばにもう少しいたい、かな」
一華「どういう意味ですか?」
薫「はっきり言わなきゃわからない?」
薫「「君を愛してもいいですか」ってこと」
薫「悲しみや苦しみは全ては消えないけれど」
薫「一歩ずつ乗り越えて、未来に歩んで行ける気がするんだ。君と一緒なら」
一華「薫さん・・・」
一華「私も薫さんと一緒にいたい」
  指先で一華の涙を拭うと、おでこに触れるだけのキスを落とした。
薫「「唇じゃないんだ」って思った?」
一華「思ってないです」
薫「ほんとに?」
一華「・・・ちょっとだけ」
  一華の頬を撫で、今度は唇に優しく口付けた。
薫「今の僕の夢はね」
薫「君が泣き止んでくれること」
  夜空に咲き続ける花火は、僕達を優しく照らした。
  泣き虫な彼女には、ヒペリカムの花言葉を贈ろう。
  「悲しみは続かない。」きらめきに溢れた日々が、訪れますように。

コメント

  • 花に纏わるお話でまとまっていて、なんだかほんわかするような雰囲気の中に純愛感もあってとても良かったです!
    花言葉はあまり詳しくありませんが、知りたくなりました。

  • とっても心が晴れ晴れとするキレイなお話ですね。花火の中の素敵なフィナーレで、読後感も心地よいです。薫さんのお店に行ってみたくなります!

  • 歓びや悲しみを分かり合える人って簡単には見つからないもので、まるで亡くなった彼女の母親が彼の元を訪ねるように仕掛けたかのように感じました。最後の大輪の花火は二人の結びつきを喜んだ母親からのプレゼントでしょうか。

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