お兄様の死亡フラグは私が壊します。

こよい

妹と兄(脚本)

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〇けもの道
  ──5年前。
  「おい、ガキがそっちに逃げたぞ!」
  聞こえてきた声に、私は震え上がった。
カイリ・マリアス「・・・ユハ、ここからは一人で行くんだ」
  「嫌です! お兄様を置いて一人で逃げるなんて・・・!!」
  手を離そうとする兄に、私はしがみついた。
  「──いたぞ! 捕まえろ!!」
  やってきた男たちのうちの一人が、私に手を伸ばす。
カイリ・マリアス「やめろ・・・!!」
  「くそ、このガキ・・・っ!!」
  「嫌ぁぁぁ──!!」
  倒れた兄の身体から溢れる血。
  絶望のなかで叫びながら、思った。
  誰か、助けて。
  私はどうなったっていいから、お兄様を助けて。
  もし、助けてくれるなら、私は何だって──・・・。
  ──そのとき。
  突然、眩しい光に包まれた。
  周りを取り囲んでいた男たちが、悲鳴を上げ、次々に倒れていく。
  「一体、何が起きてるの・・・」
  私はまだ知らなかった。
  このときを境に、自分の運命が大きく回り始めたことを──・・・。

〇噴水広場
  ──現在。
旅人「やっと着いたぜ! 首都【カルタット】!!」
旅人「にしても、すごい人の数だな」
旅人「これから、ここで何かあるのか・・・?」
街人「旅の方かい?」
旅人「はい! さっき、この街に着いたばかりです」
街人「それは、運がいいねぇ! 着いて早々、ユハ様のお姿を拝めるなんて」
旅人「ユハ様・・・?」
街人「何だ、知らないのかい!?」
街人「ユハ様といえば──魔術の名門・マリアス家のご令嬢にして、この街の英雄!」
街人「ここにいる人たちは皆、ユハ様の姿を一目見たくて集まってるんだよ!」
旅人「英雄・・・へぇ、そんなすごい人がこれからここに」
街人「あっ、ほら! いらっしゃった!!」
旅人「えっ、あれが・・・!?」
ユハ・マリアス「皆さん、ごきげんよう」
ユハ・マリアス「ユハ・マリアスです」
旅人「あの子が、英雄!? あんな子どもが・・・!?」
街人「ユハ様に対して、失礼な物言いは止しなさい」
旅人「だ・・・だって、あの子、一体いくつですか?」
街人「ユハ様は先日13歳になられたばかりだよ」
街人「あの御歳で、すでに一級魔術師の称号を獲得されている」
旅人「一級!?」
街人「当然だよ。 何せ、あの方は、5年前の反乱軍によるクーデターの際に、たった一人で全軍を撃退してしまったんだから」
旅人「全軍を・・・!? しかも、5年前って・・・」
街人「そう──ユハ様は、当時、8歳」
街人「兄であるカイリ様と反乱軍から逃げているときに、極限状態で魔力が暴走してしまったって話だけど・・・」
街人「何にしろ、この街の人々にとってユハ様は英雄なんだ」
旅人「・・・一緒に逃げていたというお兄さんの方は、どうなったんですか?」
街人「・・・カイリ様は、大怪我を負われたものの、一命は取り止めた」
街人「けれど、可哀想に、あの方はもう・・・」
  「可哀想ではありませんよ」
街人「ユ、ユハ様・・・!!」
ユハ・マリアス「突然、すみません。街の皆さんへのご挨拶を終えて帰ろうと思っていましたら、お兄様のお話が聞こえたもので・・・」
ユハ・マリアス「お兄様は、可哀想ではありません」
ユハ・マリアス「今も、お兄様は、誰よりも優しくて強い、私の憧れの人です」
ユハ・マリアス「例え、魔術がもう使えなくたって・・・私が可哀想になんかさせません」
ユハ・マリアス「そのために、私の力はあるのです」
街人「・・・申し訳ありません、ユハ様」
ユハ・マリアス「いいえ。分かっていただけたなら、いいのです」
ユハ・マリアス「・・・あっ、いけない! もうこんな時間」
ユハ・マリアス「それでは、私はこれで失礼します」
ユハ・マリアス「これから、とても大切な用があるので」

〇貴族の応接間
  ──【マリアス家】。
ユハ・マリアス(良かった、間に合いそう・・・!)
  私は足早に廊下を進み、目的の部屋のドアを開けた。
ユハ・マリアス「只今、戻りました!」
カイリ・マリアス「ユハ、おかえり」
ユハ・マリアス「お兄様。すみません、お待たせしてしまって」
カイリ・マリアス「気にすることないよ」
カイリ・マリアス「それより、いいのかい? ユハは忙しいのに、俺のために時間を使ってしまっても・・・」
ユハ・マリアス「私にとって、お兄様の側にいる以上に大事なことなんてありません」
ユハ・マリアス「それに、どんなに忙しくとも、毎週この時間は一緒に過ごすのが、幼いときからの私たちの約束でしょう?」
カイリ・マリアス「そうだったね。それじゃあ、さっそくお茶にしようか」

〇貴族の応接間
  良い香りのする紅茶。
  美味しいケーキやクッキー。
  飾られた花は、私の好きなピンク色の薔薇。
  お兄様とのこの楽しいティータイムの一時は、いつもあっという間に終わってしまう──・・・。
ユハ・マリアス「それで、そのとき、ギルったら──・・・」
カイリ・マリアス「ははっ。彼は相変わらず面白いね」
カイリ・マリアス「・・・おや、もうこんな時間だ」
カイリ・マリアス「ユハ、そろそろ教会に行く支度をしなければいけないだろう」
ユハ・マリアス「はい・・・」
  お兄様はそっと席を立つと、側に来て、私の頭に手を置いた。
カイリ・マリアス「そんな寂しそうな顔をしないでおくれ、ユハ」
カイリ・マリアス「俺は、皆から必要とされるユハを心から誇りに思っているよ」
カイリ・マリアス「だから、俺のためにも笑って、頑張っておいで」
ユハ・マリアス「・・・分かりました、お兄様」
  私は、ドアへと向かった。
  けれども、開ける寸前で、もう一度お兄様の方を振り返る。
「──そういえば、お兄様」
カイリ・マリアス「ん? 何かな」
ユハ・マリアス「今日の夜の件です。私が前に話したこと、お忘れではありませんよね?」
カイリ・マリアス「ああ、もちろん、ちゃんと覚えているよ」
カイリ・マリアス「『今日の8時以降は部屋から絶対に出てはいけない』だろう?」
カイリ・マリアス「一級魔術師であるユハのお告げだ。きちんと守るよ」
ユハ・マリアス「なら、良かったです。──いってきます」

〇空
  部屋を出ると、私は窓の向こうに広がった夕空を見上げた。
  何よりも大切なお兄様との時間は終わってしまったが、本当にやらなければいけないことはこれから控えていた。
  全ては今夜──・・・。
  
  
              【第一話 終】

コメント

  • 兄の行方がずっと気になってまして、今後の展開が全く読めない!楽しみです!

  • カイリはユハを庇って犠牲になったと思いきや、、、優雅なティータイムに姿を現し、、、何よりこのタイトルが。。謎や違和感を散りばめたプロローグに次回以降が気になってしまいます。

  • 妹と兄系の話、大好物です笑
    応援してます!(≧▽≦)

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