キスは罰ゲームのあとで

りんごの木

読切(脚本)

キスは罰ゲームのあとで

りんごの木

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〇荒れた公衆トイレ
桃花「ひゃっ!!」

〇荒れた公衆トイレ
翔「バカだな。 ホントに、こんなとこ、来る奴があるか!!」

〇荒れた公衆トイレ
桃花「ぶつかって、ごめんなさい。 でも、昨日、言われたから。 罰ゲームで・・・」
翔「まさかと思って・・・。 見に来てよかったよ」
翔「罰ゲームで、俺が「行け」って言った ら、どこへでも行くの?」

〇荒れた公衆トイレ
  鳥羽翔とは・・・。
  オンラインゲーム上で知り合った。
  
  自称27歳の医師。
  ほんとうは、全然違う人物だと思っていた。
  オンライン上の翔は、優しくて。
  なんでも話を聞いてくれて。
  
  翔が、どこの誰でも・・・。
  なにものでも、よかった。
  オンライン上から、ラインで話をするように変わって・・・。
  フェイスタイムでも話すようになって。
  いつも見惚れた。
  
  その声に、聞き惚れた。

〇病院の診察室
  体調を壊して行った総合病院の外来で、
  白衣を着た翔がいて・・・。
  
  心臓が、止まりそうになった。
  電話では、すごく優しくて・・・。
  
  偶然の出会いに、私は胸が高鳴ったのに。
  
  翔は、出会った日を境に──。
  すごく意地悪になった。

〇荒れた公衆トイレ
翔「さっきから、なにじろじろ見てる? 言いたいことがあるなら、言えよ。 聞くから・・・」
翔「ったく、俺を困らせるなよ・・・」
翔「なにも言わないなら、俺、連れてくよ?」

〇荒れた公園
  偶然会えたことが「運命」だって。
  勝手に、はしゃいで・・・
  病院の帰り道。
  何度も電話をかけて・・・
  
  ようやく、つながった瞬間。
  勢いで告白してしまった──。

〇荒れた公園
  バカだよね。
  告白したとたん、
  
  ”好きになるのは勝手だけど?”
  
  ”言うこと聞けないときは、罰ゲームだよ?”

〇荒れた公園
  そんなこと言われて・・・。
  
  ”罰ゲームって?”
  
  おそるおそる聞き返した私に、翔は言った。
翔「なに、今、してほしいの? 罰ゲーム──」
「え、ちがっ・・・!!」
翔「だって、俺が医者だってわかったとたん、 「好き」だなんて告白。 ずるいよ・・・」
翔「罰ゲームは・・・ 桃花ちゃん、何才だったっけ?」
  翔には、私のこと、とっくに話した・・・
  
  高校卒業して、すぐ上京して、今、受付の仕事をしていること。
  最近、誕生日を迎えて、19歳になったこと。
  
  「もう大人だね? おめでとう」
  
  優しい声で、お祝いしてくれたくせに──

翔「確か、19歳だった? お酒はまだ無理だし・・・ 恥ずかしいことは、嫌だろ? なら、ちょっと怖がらせてもいい?」
  そう言って、翔は、罰ゲームで、私を改修予定の公衆トイレに呼び出したのだった。

〇荒れた公園
翔「あんな罰ゲーム出した俺もバカだけど、 のこのこ来るお前も、相当・・・」
桃花「軽率でした。 ごめんなさい」
翔「なんだよ、調子狂う。 ・・・悪かった、ごめんな」
翔「おい、謝ってるんだから、笑うなよ」
桃花「こうして会えたから。 なんだか嬉しくって」
翔「変な奴──・・・」

〇荒れた公園
翔「急に降ってきたな。 どこか落ち着いて話せるとこ、行こうか?」
桃花「行くって・・・。 ど、どこへですか?」
翔「ん・・・喫茶店だけど?」
桃花「あ、喫茶店ですね。 ただの、喫茶店!!」
翔「くすっ。 ご期待に沿えなくて、悪かったかな。 桃花ちゃんがお望みならば、その先も──」
桃花「もう! からかわないでくださいっ!!」

〇寂れた雑居ビル
翔「んー、通りに出たけど、 どこにしようかな。 桃花ちゃん、なにが好き? コーヒー? 紅茶?」
桃花「私はなんでも・・・」
翔「そうじゃなくて、俺は”なにがいいか”、聞いてるの」
桃花「ご、ごめんなさい」
翔「こら、今日、何度目の”ごめんなさい”だ? 今度言ったら、また罰ゲームだからね?」
桃花「は、はいっ。 ごめんなさ・・・あっ!」
翔「あーあ、言っちゃった。 しかたないな、罰ゲームね?」
桃花「はい・・・」
翔「このまま、濡れて帰る? それとも・・・」
翔「俺の家、来る? コーヒー、インスタントしか、ないけど」

  どうしよう。
  
  雨のせいだって、自分にいいわけして。
  
  ほんとうに、来ちゃった。
  
  翔の部屋──・・・

〇散らかった部屋
翔「いつまで玄関に立ってるつもり?」
翔「いや? 無理にとは言わないけど?」
桃花「い、いきますっ! 失礼します・・・!!」
翔「俺の家、職員室? 悪いけど、俺・・・。 ここでは、いい先生になれないからね?」
翔「それでもいいなら? 早くおいで・・・」

  私が、ほんの一歩だけ前へ進むと
  翔はドアを閉めた──

〇アパートの台所
翔「あれ、飲まないの? インスタントコーヒーで、悪かったかな?」
桃花「違うんです、ま、まだ熱くて!!」
翔「俺、猫舌だから、そんなに熱いお湯、いれてないけど?」
翔「なんて。 ごめんね?」
翔「桃花ちゃんの困った顔、見たくて。 ちょっと意地悪しちゃった」
翔「好きになると、いじめたくなる。 自分で泣かせておいて、頭なでてやりたくなる」
翔「こんな俺だけど── まだ好きでいてくれる?」
桃花「はい!!」

〇散らかった部屋
翔「いい返事だね」
翔「でも、忘れてない? 罰ゲーム、まだだよ!?」
桃花「もう許してください・・・」
翔「だめ、許さない」
翔「罰ゲームはね、 ”俺をずっと好きでいてくれること” だから──」
桃花「そんな罰ゲームなら・・・ いつでも・・・」
翔「ふふっ、大丈夫? 罰ゲームのあとは、ずっと・・・ いじめちゃうかもよ!?」
桃花「たまには、優しくしてください!!」
翔「優しくするよ? ”たまに”でいいなら」

〇マンション群
翔「もう、泣かないで?」
翔「罰ゲームのあとは・・・」
  優しく、優しく
  キスするからね──

コメント

  • 2人が醸し出す空気感にずっとドキドキしながら読んでしまいました。ドSくんとドMちゃんが絶妙な具合で噛み合ってしまっていますね!

  • すぐに『ごめんなさい!』という言葉がでてしまう彼女と、それを言葉遊びのように楽しむ彼。二人の間にだけどんどん気温上昇しているようで、こちらまでどきどきしました。

  • 面白い。Sの彼とMの彼女。二人はベストカップルですな。罰ゲームがどキューンやらドクンやらでキュンキュンしました。ドンドン罰ゲームを実行して下さい。

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