読切(脚本)
〇大学の広場
私「あ、あの! ヒカル先輩ですよね?」
ヒカル「あぁ、お前か! 久しぶり。高校以来だな!」
ヒカル「この大学に入学したのか?」
私「はい! もちろん、先輩を追っかけてきましたよ♡ 中学の頃からずっと、先輩のファンなんで」
ヒカル「相変わらずだな・・・」
私「とーぜんですっ! それで、高校の時と同じようにバスケ部の マネージャーになったんですけど・・・」
ヒカル「・・・・・・」
私「先輩、バスケ部辞めちゃったって 聞きました」
私「どうしてなんですか?」
ヒカル「ごめんな。 もう決めたことなんだ。 俺のことは諦めて欲しい」
私「そんな・・・」
私「ヒカル先輩がバスケ部辞めちゃうなんて、 絶対嫌です!納得できません!」
ヒカル「そんなこと言われてもな、 もう辞めたんだよ」
私「どうしてなんですか? 理由を教えて下さい!」
ヒカル「お前には、関係ない」
私「駄目です!教えて下さい!」
ヒカル「うわ、近い近い!」
私「あ、すみません」
ヒカル「とにかく、もう終わったことなんだ。 俺のことは諦めて、今頑張ってるヤツを 精一杯サポートしてやれ。 いいな?」
私「でも・・・」
ヒカル「俺、この後講義があるから。 じゃあな」
私「むぅ・・・ 逃げられた」
私「(絶対に諦めない。 必ず理由を聞き出して復帰させてみせる)」
〇大学の広場
ヒカル「(まったく、あいつ 本当に相変わらずだな)」
友達「あれ、ヒカルじゃん」
友達「顔赤いね。どうしたの?」
ヒカル「別に」
友達「なんだよー どうせお前のことだから、」
友達「『気になる子に超接近されて照れまくった けどどうしようもできなかったな』 の顔だろ」
ヒカル「ば、バカ! 違うっての!」
ヒカル「(いいんだよ、どうせ相手は 超鈍感なんだから)」
ヒカル「(俺のこと好きだとか言いながら、 恋愛対象として見ているかも怪しい)」
ヒカル「(バスケから離れたら、 俺への興味もそのうち失せるんだろうか)」
〇階段の踊り場
それ以降、私は先輩を追いかけまわした。
ヒカル「・・・・・・」
私「ヒカル先輩!」
ヒカル「!!」
私「あ、逃げた」
〇講義室
私「せんぱ・・・」
私「(くっ、先輩も諦めが悪いな。 次は気づかれないように近づこう)」
〇フェンスに囲われた屋上
私「(やった!屋上なら逃げ場もない)」
私「ヒ・カ・ル先輩! 今日こそ、バスケ部を辞めた理由、 話してもらいますよ」
ヒカル「もういい加減にしてくれ!」
ヒカル「あ、ごめ・・・」
ヒカル「ていうか、女の子なんだから 手をわきわきさせながら迫ってくるな」
ヒカル「ビビるだろ」
私「すみません・・・」
私「でも私、どうしても気になるんです」
ヒカル「・・・どうせ、いくら突き放しても また追いかけてくるんだよな」
ヒカル「分かったよ。教える」
ヒカル「バスケが嫌いになった。 それだけ。 これで満足か?」
私「嘘ですね」
ヒカル「・・・・・・」
ヒカル「どうして嘘だと思うんだ?」
私「知ってるからです」
私「一人でドリブル練習してる時、ボールが手に吸いつく感覚が好きすぎてニヤニヤしてるとか」
ヒカル「ぐっ・・・」
私「商店街の公園で練習しようとしたら大人が先にバスケやってて、どうしようか迷ってその辺うろうろしたあげく、」
私「勇気だして『仲間に入れて下さい』って声かけてたのも見ました!」
ヒカル「よ、よく知ってるな」
私「何年ファンやってると思ってるんですか。 私をナメないでください」
ヒカル「分かった。全部話すよ」
ヒカル「そこの自販機でコーヒー買ってくる。 ちょっと待ってろ」
〇フェンスに囲われた屋上
ヒカル「(俺は馬鹿か)」
ヒカル「(話して楽になりたいなんて。 あいつを悲しませるだけだっていうのに)」
ヒカル「ほら、やるよ」
私「ありがとうございます」
ヒカル「実は、去年母親が死んだんだ」
私「えっ・・・」
ヒカル「俺んち貧乏でさ、 母親しかいなかったから 大学に行くのも大分無理したんだ」
ヒカル「そしたら母さん、過労で倒れて そのまま死んじゃった」
ヒカル「親戚も頼れるところが無くて、 生活する為にも沢山バイトしなきゃ いけないってわけ」
私「そう、だったんですか・・・」
ヒカル「ごめん、こんなこと、 他人に話すことじゃないよな」
私「・・・・・・」
ヒカル「(俯いちゃった。 こういう時、どうしたらいいんだろう)」
私「・・・ヒカル先輩」
ヒカル「ん?」
私「考えたんですけど、先輩はやっぱり バスケ続けなきゃダメですよ」
ヒカル「・・・・・・」
私「お金なら、私がなんとかします」
ヒカル「いや、お前な・・・」
私「分かってます。 私がバイトしたって、先輩はお金を受け取らない」
私「でも『先輩を商品化して売る』のなら、 構いませんよね?」
ヒカル「そんなに上手くいくのか?」
私「大丈夫です! 私に任せて下さい」
私「先輩の使用済みあれこれとかブロマイド写真を売りに出して、動画を投稿したりノベライズやコミカライズしたり・・・」
私「私のコネを使えば、すぐにでも✕✕万円くらいにはなりますよ」
ヒカル「マジか・・・」
ヒカル「はは、お前にそう言われたら 本当になんとかなりそうな気がしてきた」
私「先輩は絶対、バスケを辞めちゃだめです」
私「先輩のお母さんだって、 先輩の好きな気持ちを応援したいから、 無理してもこの大学に 入学させたんですよね?」
私「バスケの強豪として有名なこの大学に」
ヒカル「・・・あぁ」
ヒカル「あぁ、そうだな」
ヒカル「まさか、俺の悩み全部 ぶっ飛ばされるなんて・・・」
ヒカル「ごめ・・・、涙がとまんない」
ヒカル「情けないな、ほんと」
私「ヒカル先輩・・・」
私「ハグ、しましょうか?」
ヒカル「だから、手をわきわきさせんなって」
ヒカルは荒っぽく涙を拭うと、
可愛い後輩の肩を引き寄せ
抱きしめた。
ヒカル「抱きしめるのは俺の方!」
ヒカル「ありがとう。 俺、頑張るから」
耳打ちすると、後輩は首をこくこく
させて頷いた。
ヒカル「(流石に少しは照れてるか?)」
ヒカル「(決めた。恋もバスケも精一杯頑張ろう)」
ヒカル「(いつか、こいつが俺の好意に 気づく、その日まで)」
後輩が現金を渡しても受け取るわけにはいかない先輩としてのプライドにも配慮しつつ、自分自身のファンとしての欲望も同時に満たす「先輩の商品化」とは。天才か。感心すると同時に、昭和の人間からすると時代は変わった…としみじみ。
ここまでグイグイこられたら好きになってしまうかもしれませんね(笑)あ、先輩はもともと好きだったのか…しかし先輩を商品化するとは、その発想もすごいですね!
彼女のすごい情熱に圧倒されました。
まるで推しに対するオタクのように、絶対諦めませんよね。
個人的にはかなり好きなタイプのキャラです。