あなたは胃の中(脚本)
〇古書店
津蛇(外が騒がしいな・・・)
鈴鬼「い、今、追われてて──!」
津蛇「それじゃあ、こちらへ」
警察官「すみません! 女子高校生が来ませんでしたか?」
津蛇「いやぁ、来てませんよ」
警察官「確かにこちらのお店に 入ったと思うんですが・・・」
津蛇「なんなら探してみます? 商品に触れたら弁償していただきますが」
警察官「い、いえ・・・ それでは失礼しました」
鈴鬼「あの・・・ ありがとうございました」
津蛇「お安い御用ですよ」
津蛇「ところで何故、追われて?」
鈴鬼「そ、それは・・・ なんか突然、あの警官が──」
津蛇「突然、ですか 何もしていないのに?」
鈴鬼「悪いことなんてしてない!」
津蛇「なるほど・・・ まぁ、なんでもいいんですけど」
津蛇「てっきり万引き犯かと」
鈴鬼「な、なんでよ!」
津蛇「失敬 金髪といえば非行少女、 非行といえば万引きかなぁ、と」
津蛇「万引きって言うと軽く聞こえますねぇ 窃盗って言った方がいいですね」
鈴鬼「どっちでもいいよ ってか、してないし!」
津蛇「じゃあ、そのポケットに入ってるのは?」
鈴鬼「えっ?」
鈴鬼「し、知らない! 私やってない!」
津蛇「でしょうね~ 僕が入れましたから」
鈴鬼「は、はぁ~!?」
津蛇「驚きました? 手先が器用なんですよ、僕」
津蛇「あ、本当に盗んでもいいですよ? うちの商品どうせガラクタなんで」
鈴鬼「さっきの警官には 触ったら弁償って──」
津蛇「あぁ、彼は腹立たしかったので」
津蛇「少女を追っかけ回すなんて悪趣味です」
鈴鬼「迷惑かけてるけど 私は腹立たしくないの?」
津蛇「迷惑なんてとんでもない!」
津蛇「好きなんです、僕」
鈴鬼「・・・えっ?」
津蛇「あなたみたいなかわいそうな子」
鈴鬼「か、かわいそうって何よ」
津蛇「かわいそうって言われて 怒るところも好きですね」
津蛇「あなた よく見たら傷まみれじゃないですか」
津蛇「それがかわいそうってことです」
鈴鬼「こ、これは・・・」
津蛇「──あぁ、話さなくていいですよ」
津蛇「ところで、さっきの懐中時計 渡してもらえますか?」
鈴鬼「これ?」
津蛇「これを右手に持ちます」
鈴鬼「はぁ・・・」
津蛇「で、左手に持ち替えて 手を開くと──」
津蛇「これくらいしかありませんが、どうぞ」
鈴鬼「・・・マジシャン?」
津蛇「手先が器用なだけの、しがない店主です」
津蛇「ここは蛇の目骨董店 僕はツダと申します」
津蛇「落ち込んだときにでも来れば 手品くらいは見せられますよ」
鈴鬼「・・・暇すぎて死にそうだったら来るかもね」
鈴鬼「私はスズキ」
鈴鬼「・・・またね、ツダさん」
津蛇「はい、また」
〇黒
〇古書店
津蛇「これは強欲の小箱です」
津蛇「スズキさん、小銭ありますか?」
鈴鬼「あるよ、百円」
津蛇「小箱に入れて、振って 次に開けると──」
鈴鬼「千円になった!」
津蛇「ではそれを小箱に入れましょう」
鈴鬼「百円が千円なら、千円は──」
津蛇「開けてくれますか?」
鈴鬼「あっ!」
鈴鬼「な、なくなっちゃった・・・」
津蛇「強欲は身を滅ぼすんですよ~」
鈴鬼「わ、私の百円・・・」
津蛇「ふふ、代わりにどうぞ」
鈴鬼「え・・・お金?」
津蛇「バイト代です この間、掃除してくれたでしょう」
鈴鬼「大したことしてないのに、いいの?」
津蛇「ええ、もちろん」
鈴鬼「・・・ありがとう」
津蛇「いいえ、こちらこそ いつも来てくれて嬉しいですよ」
津蛇「毎日、暇すぎて死にそうなんですか?」
鈴鬼「そっ、そうだけど!? 仕方なく来てるの」
津蛇「なるほど~ 実は、さっきので 僕のできる手品は見せ終わってしまって」
津蛇「これからは 骨董品を自慢しようと思うんですが いいですか?」
鈴鬼「なんでもいいよ 暇潰しだもん」
津蛇「例えば、この眼鏡」
津蛇「実は僕、ゴルゴンの末裔で」
津蛇「人の目を見ると石にしてしまうのですが この眼鏡はそれを防げるんですよ」
鈴鬼「・・・ふーん」
鈴鬼「あっ! 蜂が!」
津蛇「蜂!?」
鈴鬼「嘘でしたー ツダさんのも嘘~!」
津蛇「・・・本当だったら石になってますよ?」
鈴鬼「だってここにある骨董品は 全部ガラクタなんでしょ? だったら眼鏡も嘘で、ゴルゴンも嘘だよね」
津蛇「怖いもの知らずなんですから」
津蛇「スズキさんならこれも怖くないですか?」
鈴鬼「なにこれ?」
津蛇「読んだ人を閉じ込めてしまう本です」
鈴鬼「え~? 読んでみよ──わっ!」
鈴鬼「地震!?」
津蛇「──スズキさん、危ない!」
〇古書店
鈴鬼(──血の匂い・・・)
津蛇「!」
津蛇「・・・今、僕のこと舐めました?」
鈴鬼「ご、ごめんなさい! つい!」
鈴鬼「ほら、舐めると怪我が早く治るって──」
津蛇「・・・スズキさん、嘘ついてませんか? 声が震えてますよ」
鈴鬼「・・・ごめんなさい」
鈴鬼「私、本当は──吸血鬼なの」
〇学校脇の道
女子高校生「うわっ、スズキじゃん ねぇ、ネズミ食ってるってマジ?」
女子高校生「キモすぎでしょ」
鈴鬼「バカみたい そんなわけないじゃん」
女子高校生「はぁ? 調子乗んなよ転校生」
女子高校生「逃げんの? ダッサ」
〇ビルの裏通り
鈴鬼(走ったらお腹すいちゃった・・・)
鈴鬼(あ・・・猫)
鈴鬼「ごめんね・・・ ちょっとだけ血を吸わせて──」
猫「にゃあ」
鈴鬼「ありがとう・・・」
警察官「君! 何をしているんだ!」
鈴鬼(逃げなきゃ──!)
〇古書店
鈴鬼「ツダさんに初めて会った日は 血を吸ってるところを警官に見られて・・・」
津蛇「なるほど 吸血鬼、ですか」
鈴鬼「・・・気持ち悪いって思った?」
津蛇「いいえ、全く」
鈴鬼「・・・普通は、私を不気味がるんだよ」
津蛇「普通ってなんでしょう? きっと僕はそうじゃないんですねぇ」
鈴鬼「・・・ツダさんは どうして私を守ってくれるの」
津蛇「好きだからです」
津蛇「前にも言いませんでした?」
鈴鬼「──私も、ツダさんのことが 好きになってたみたい」
鈴鬼「私のこと好きなら、責任とってくれる?」
津蛇「ええ、もちろん」
鈴鬼「吸血鬼はね、恋をすると その人の血しか飲めなくなっちゃうの」
津蛇「なるほど 好きなだけ飲んで構いませんよ」
鈴鬼「──いただきますっ!」
〇古書店
津蛇(それにしても、吸血鬼とは・・・)
津蛇(あの時、失敗してよかった)
津蛇(ただのコレクションの一部にするのは 勿体ないですからね)
津蛇(スズキさん・・・本当に興味深い)
津蛇(これからの彼女が楽しみです)
お似合いの二人だと思いました!
キャラ名がおもしろい!
名前で人外なのはわかったけど、こう来ましたかー!
不思議なお話でした。今までお見かけしたことのない。きづいたらファンタップでした。余韻と行間がテイスティなのでしょうか、惹きつけられてしょうがありませんでした。快。