キュンとするのはどんな時?(脚本)
〇講義室
とある大学。
人気のない講義室で一組の男女が向き合って座っている。
結城先輩「芽衣ちゃんがキュンとするのってどんな時?」
芽衣「キュンとする時?」
結城先輩「そうそう。キュンっとなって、思わず心がときめいちゃう瞬間」
放課後の講義室。人気のないそこを利用して、私は先輩に勉強を教えて貰っていた。
この人は結城律(ゆうきりつ)先輩。私のゼミでの先輩だ。
よく気にかけてくれるし、頭もいいし、知識も豊富だし。とても頼りになる先輩なのだが・・・。
芽衣「(この人がキュンとか言うと似合わなさすぎて怖いなぁ)」
めちゃくちゃ失礼なことに私はそんなことを考えていた。
でも、ほんとに似合わないのだ。結城先輩がキュンとか、ときめきとか。
そのキュンは恐怖で心臓が縮みあがる時の「キュン」もとい「ヒュン」じゃないですよね?とか聞き返したくなる・・・
結城先輩「ひどいなぁ。そんなこと考えてるなんて」
!?バレてる!?
芽衣「す、すみません。だって先輩がキュンとか意外すぎて・・・」
結城先輩「あ、ほんとに失礼なこと考えてたんだ」
芽衣「・・・あっ!カマかけましたね!?」
結城先輩「うん。芽衣ちゃんってばすーぐひっかかるよね」
結城先輩「ほんと単純♪」
芽衣「ぐ、ぬぬ・・・!」
これだから結城先輩は・・・!だからこの人にキュンとか似合わないんだよ〜!
結城先輩「俺がカマかけたのは事実だけど、芽衣ちゃんが失礼なこと考えてたのも事実だよね?」
芽衣「うっ・・・はい。そうです。すみませんでした」
結城先輩「お詫びとして答えて欲しいなー。芽衣ちゃんの「キュンとする瞬間」」
芽衣「お詫び?それが?」
結城先輩「そうそう。芽衣ちゃんがそれ答えてくれたら、嬉しくて踊っちゃうかもよ?」
なんでこの人はいちいち嘘くさいことを言うのかなぁ・・・
だいたい、結城先輩が私ごときのそんな情報で喜ぶわけが無いのに。それじゃ先輩が私を好きみたいじゃないか。
・・・ちょっとかなり自意識過剰だったな。今のなし。
〇講義室
芽衣「と、にかく。答えます。キュンとする瞬間、ですよね」
結城先輩「やたっ。芽衣ちゃんやさしー。大好きー」
うーん。やっぱり胡散臭い・・・
結城先輩「それで。芽衣ちゃんのキュンとする瞬間は?」
芽衣「そーですねぇ・・・。指を絡めて手を繋ぐ、とか?」
結城先輩「へぇ。指?」
芽衣「わざわざ指も絡めるって特別な感じがするじゃないですか。それに男の人の手ってゴツゴツしててかっこいいし・・・」
結城先輩「なるほど。芽衣ちゃんは手フェチだったのか。いいこと聞いたー」
芽衣「フェチって!変な言い方しないでくださいよ!」
結城先輩「別にからかってる訳じゃないよ?俺だってフェチの一つや百つあるし」
芽衣「そういう問題じゃな・・・百!?」
結城先輩「百、百。聞きたい?」
芽衣「いいです!聞いてたら日が暮れる・・・!」
結城先輩「心配するとこそこなんだ。ほんと芽衣ちゃんってズレてるね」
結城先輩「他には?」
芽衣「それ以外だと・・・ベタですけど肩を抱き寄せられるとか、耳元で囁くとか・・・?」
結城先輩「ふんふん」
結城先輩「なんだか漫画とかドラマみたいなのばっかりだねぇ。あんまり現実でなさそう」
芽衣「しょ、しょうがないじゃないですか。急に言われても思いつきませんよ!」
〇講義室
結城先輩「芽衣ちゃんのきゅんとする瞬間はそんな感じね〜」
芽衣「満足していただけましたかね・・・」
結城先輩「もちろん!ありがとうね、芽衣ちゃん」
芽衣「(ほっ)」
結城先輩「じゃあ、ちょっと失礼」
芽衣「え?」
芽衣「あの、先輩?」
結城先輩「んー?なあに?」
芽衣「なんで私の手を握ってるんですか?」
結城先輩「え?だって芽衣ちゃん、これできゅんとするんでしょう?」
芽衣「えっ」
止める間もなかった。結城先輩の指が、私の指と指の間に絡められていく。
先輩の手。ゴツゴツしていて、節がたっていて。少しかさ付いていて、長くて、骨の感触がして──男の人の手だった。
結城先輩「うーん。手を組んでると肩を抱き寄せるのはちょっと難しいねぇ」
結城先輩「じゃあ、こっちかな」
芽衣「わ・・・!?」
ほんの少し、引き寄せる程度の力で引き寄せられる。先輩の方へ。
反射的に目を閉じた。
その直後、耳元に落ちてくる囁き。
結城先輩「芽衣ちゃん、俺の事、胡散臭いとか、よく分からないとか言うけどさ・・・」
結城先輩「俺、好きな子には結構素直だよ?」
結城先輩「キュンとして欲しくて、こんなこと聞いちゃうぐらいにね」
芽衣「え・・・?」
ぽかん、と口が開く。何を言われたのか、何をされてるのか。理解が追いつかない。
確かめようと先輩の顔を見上げて──息を飲んだ。
見たこともないような、蕩けるような顔でこちらを見ている。
結城先輩「ふふ。よーやく気づいてくれた?芽衣ちゃんってば鈍いんだもん」
結城先輩「今日はこれぐらいにしとくよ。肩を抱き寄せるのまた今度。それと・・・」
結城先輩「俺のフェチ1。こっちの顔見るだけで嬉しそうにする可愛い後輩。しかもそれに自覚なし」
結城先輩「残り99のフェチもまた今度教えてあげるから・・・これからも俺をきゅんとさせてね、芽衣ちゃん」
1人で言いたいだけ言いまくって、先輩は去っていった。
──顔が真っ赤な私を残して。
〇講義室
芽衣「なに、いまの」
結城先輩「俺、好きな子には結構素直だよ?」
いや。いやいや。
なんか、まるで。先輩が私の事好きみたいで、自分にきゅんとして欲しくてあんなこと聞いたみたいな。
みたいな、っていうか。
結城先輩「きゅんとして欲しくて、こんなこと聞いちゃうぐらいにはね」
芽衣「・・・わぁぁぁ!?」
まずい。やばい。どうしよう。きゅんとしたか?ってそんなの、そんなの!
芽衣「しない方が無理じゃん・・・!」
せんぱーいっ!!!って思わず最後に叫びたくなりました〜(><)
いやー、甘い!けど、ズルい!!勝手に言いたいこと言うだけ言って、どこ行っちゃうんですかもうっ!(怒)ww
先輩のフェチ、これからヒロインは毎日聞かされるのかなぁ、とか、その度にヒロインは転がされてしまうのかなぁ、とか、そんな妄想が広がってしまいました。
大量のトキメキ補給できました!素敵なキュンをありがとうございました!!
とても密着、密接感の感じられる作品でした。
距離感を感じるご時世にこのインファイトはクリティカルヒットかも。
先輩さすが、実は計算済みなのかなって思うほど巧みにキュンキュンさせてくれますね〜。それに合わせてちょっとエスっ気も感じるところがずるいです。こんなんされたらたまりませんね。