そのままの君が(脚本)
〇シックなバー
バーD!!
僕らの行きつけの店。
僕はタバコを吸わない。
でも、キミくんの火の付け方が好き。
今日はいつものマッチじゃなくてジッポで火をつけた。
ジュン「ねえ、キミくん、今日タバコの火、マッチじゃないんだね」
キミ「お前さ、俺がどうやって火つけようが俺の勝手だろ! おま、俺の彼女か?」
ジュン「でもさ、あのマッチで片手でシュッて火つけるの、あれカッコいいんだよぉ」
キミ「そうか?」
いつもクールなキミくんが少しはにかんで笑った。
キミ「次は・・・エヴァンにするかな・・・お前次何飲む?」
ジュン「僕、僕はカシスオレンジ」
キミ「おい、男だろ?もっとそれっぽいもん飲めよ。バーボンとか」
ジュン「えー、無理だよ、バーボン」
キミ「ったく、進歩しねえな」
ジュン「へへ」
〇商業ビル
朝、会社のビルに入ろうとすると、リサに声をかけられた。いつものような元気な声で。
リサ「おはよう、元気?昨日もD?」
ジュン「うん」
リサ「フーン」
ジュン「なんだよ」
リサ「ううん、何でもない・・・ ねえ、知ってる?君島くん、ニューヨーク支店に移動だって」
ジュン「え? それ、ほんと?」
リサ「淳くん、何も聞いてないの?」
ジュン「うん、昨日会った時もなにも言ってなかったし」
リサ「じゃ、お見合いのことも?」
ジュン「お見合い?」
リサ「そう、専務のお嬢さんと、すっごいうわさだよ」
僕は、言葉を失った。リサは僕の顔を覗き込んだ。
リサ「遅れるよ」
リサは、僕の手を引いた。
〇商業ビル
僕は、キミくんの移動と見合いのことで頭がぐしゃぐしゃになっていた。
リサに肩をトンと叩かれた。
リサ「淳くん、なーにしょげてんの?」
ジュン「何も、しょげてなんかないし」
リサ「君島くんと話した?」
ジュン「ううん」
リサ「そっか・・・淳くん、今日は、D行くの?」
ジュン「うん、なんか気が進まない・・・かな」
リサ「じゃあさこれからウチとデートしよ」
ジュン「え?」
リサ「さ、行くよ」
リサに手を引かれるまま、僕は走った。
〇メリーゴーランド
リサに手を引かれてメリーゴーラウンドへ。
リサ「次は、これ、乗ろ? いや?」
ジュン「やだっていっても乗るじゃん」
リサ「そうだよぉ」
僕らは馬車のシートに並んで腰掛けた。静かに動き出すメリーゴーランド。リサはその動きに合わせて話し出した
リサ「私さ、ジュンくんのこと好きだよ、かわいいし、ホッとする」
ジュン「え?」
リサ「ジュンくんは?」
ジュン「え?」
リサ「私のこと・・・」
ジュン「僕も、リサのこと・・・好き、だよ」
リサは僕の手を握った。
リサ「ね、キスしよ」
リサはゆっくりと顔を近づけて、そっと唇を重ねてきた。
多分、数秒だったと思う。でも、時間が止まったようだった。
僕は、しばらく言葉を失っていた。
メリーゴーランドが止まって、リサは僕の手を握った。
リサ「行こ」
ジュン「ゴメン、行かなきゃ!!」
リサ「どこに?」
ジュン「D!!」
〇シックなバー
僕が店に入るとキミくんはいつものようにカウンターに座っていた。
キミくんは、僕を見ていつものようにぶっきらぼうな調子で言った。
キミ「よう」
ジュン「隣、座ってもいい?」
キミ「答えなくても座るだろ?指定席じゃんか」
ジュン「うん、ありがと!! あのさ、ニューヨーク栄転だね、おめでと」
キミ「ああ」
ジュン「なんで言ってくれなかったの?前から知ってたんでしょう?」
キミ「正式に辞令が出るまで言うなって言われたからさ」
ジュン「そうか」
ジュン「で、お見合いは、どうだったの?」
キミ「ん、そんなことも知ってるのか?」
ジュン「みんな噂してるから」
キミ「そうか、でも見合いするの、それ自体断った」
ジュン「え、なんで?専務のお嬢さんなんでしょ?」
キミ「だからだよ、みんなから出世のために見合いしたみたいに言われるのは嫌だし」
ジュン「そっか、キミくんらしいね」
僕はキミくんの顔を覗き込んだ。
でも、キミくんは僕と目を合わせてはくれなかった。
僕は頷きながら小さく言った。
ジュン「そっか、お見合い断ったんだ」
再び、キミくんの顔をしっかりと見た。
ジュン「どれくらい行ってるの?ニューヨーク」
キミ「多分3年」
ジュン「遊び行っていい?」
キミ「ん?ダメって言っても来るんだろ?」
ジュン「うん、指定席だからね」
キミ「フッ」
キミ「ジュン、何飲む?」
ジュン「じゃ、バーボンをロックで」
キミ「え?」
ジュン「僕も少し変わんないと、進化、進化」
キミ「そうか・・・でも俺はそのままのジュンが好きだけどな」
キミくんはいつものように片手でマッチを擦ってタバコに火をつけた。
マッチの音と光に導かれるように、僕は言った
ジュン「やっぱり、それが、そのままがいい」
個人的にすごく好きなお話でした。今夜はいい夢見れそうです。
いい感じの二人で素敵なお話でした。
そのままがいい彼と、変わりたい彼と、そんな二人の相性がいいんだと思います。
指定席って言葉も好きです。
なんだか自分が励まされているようにも感じました。
そう、変わらなきゃですよね。
今もこれからも、変わらなきゃ進まないですよね。
恋も仕事も、生きるってそういうことじゃないかなぁ!