これから私は別れを告げに行く

桜海(おうみ)とあ

これから私は別れを告げに行く(脚本)

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〇黒
  ──これから私は別れを告げに行く

〇アパートの台所
充希(ミツキ)「7年も一緒にいたから、 最後ぐらい、ちゃんとお別れしなくちゃ」
  合鍵を握り締め、部屋を出た

〇レトロ喫茶
雷斗(ライト)「え!? 別れたい?」
充希(ミツキ)「ごめん。 雷斗と一緒にいるの、辛いんだ」
  彼の顔を見られずに
  投げるように合鍵をテーブルの上に滑らせた
  スルスルと滑っていった合鍵は、
  彼から貰った革のキーケースを失って、丸裸なままだ
  彼の指先に触れたのを見届けて、席を立った
雷斗(ライト)「ちょっと、充希ちゃん待って!」
充希(ミツキ)「・・・離して」
雷斗(ライト)「辛いって、どういうこと?」
充希(ミツキ)「わからない?」
雷斗(ライト)「うん。 ちゃんと言ってくれないと、 わかんないよ」
充希(ミツキ)「私、もう35歳なんだよ」
充希(ミツキ)「女には、女でいられる期限があるの」
雷斗(ライト)「そんなの・・・ 僕と一緒にいて気にする必要ある?」
充希(ミツキ)「私のこと・・・ 全然見てないんだね」
雷斗(ライト)「僕は充希ちゃんを愛してる。 だから、考え直して」
充希(ミツキ)「もうね、愛してるだけじゃ足りないんだ」
雷斗(ライト)「・・・」
充希(ミツキ)「じゃあね・・・」

〇開けた交差点
充希(ミツキ)「はあ、はあ、はあ・・・」
充希(ミツキ)「やだなあ、ちょっと走ったぐらいで、息切れなんて」
充希(ミツキ)「痛ったぁ。 あいつったら本気で手首握るから・・・」
充希(ミツキ)「痛いよ・・・」
充希(ミツキ)「最後ぐらい、 綺麗に別れたかったのに・・・」
充希(ミツキ)「なんであんなこと言っちゃったんだろ」
  鞄の中からハンカチを取り出そうとして、
  余計なものまで引っ張り出してしまった
充希(ミツキ)「これ・・・」

〇アパートの台所
雷斗(ライト)「見てみて! 充希ちゃん!!」
充希(ミツキ)「えー、なになに? 新しい舞台の台本?」
雷斗(ライト)「ページめくって、 そこ、タイトルの、その次の──」
充希(ミツキ)「──うっそ!! 「主演 砥山 雷斗」って、」
雷斗(ライト)「主役だよ!! やっとここまで辿り着いたぁ!!」
充希(ミツキ)「きゃぁああー!! やった!! おめでとう!!」
雷斗(ライト)「充希ちゃん、声おっきい」
充希(ミツキ)「あっ! やばっ」
雷斗(ライト)「僕さ、もっともっと有名になって、」
雷斗(ライト)「充希ちゃんの自慢の彼氏になるから! 待っててね!」
充希(ミツキ)「・・・うん。待ってる」

〇開けた交差点
充希(ミツキ)「観たかったなぁ。 雷斗の初主演の舞台・・・」
充希(ミツキ)「でもダメだよね。 これは彼にとってのチャンス」
充希(ミツキ)「そして私にとって、ラストチャンスだから」
  ──だから私はさよならを告げたんだ
充希(ミツキ)「さよなら、 ずっと大好きだよ・・・」

〇黒
  ──これから僕は、
  一世一代の想いを告げに行く

〇劇場の舞台
アナウンサー「砥山雷斗さん、 主演決定、おめでとうございます!」
雷斗(ライト)「ありがとうございます」
アナウンサー「世界的に有名な乾井監督の舞台の主演ともなると、かなりのプレッシャーかと存じますが、意気込みは如何ですか?」
雷斗(ライト)「とにかく、誠心誠意挑むばかりです」
アナウンサー「砥山雷斗さんの今後の活躍が楽しみです!」

〇店の入口
雷斗(ライト)「準備、・・・よし!」
  ジャケットの胸ポケットを手のひらで抑えた
  そこには7年もの間、
  僕の隣にいた彼女へと、渡したいものが入っている
雷斗(ライト)(喜んでくれる、よな?)
雷斗(ライト)(あー、緊張してきたぁー!)
雷斗(ライト)「あっ!」
雷斗(ライト)(もう、充希ちゃん来てるし!)
雷斗(ライト)(やっぱり、今日もスニーカーだ)
雷斗(ライト)(きっと大丈夫! よっしゃ、行くぜ!)
  そう自分を奮い立たせて、
  カフェの扉を開けた

〇黒
  ──けれども、
  彼女は別れを告げた

〇開けた交差点
雷斗(ライト)「待って!! 充希ちゃん!」
充希(ミツキ)「ら、雷斗!?」
雷斗(ライト)「はあはあ・・・ やっと見つけた」
充希(ミツキ)「なんで、追いかけてくるのよ・・・」
雷斗(ライト)「あ!」
充希(ミツキ)「ビクッ!!」
雷斗(ライト)「まさか、走った?」
充希(ミツキ)「え?」
雷斗(ライト)「っもう! もう君だけの身体じゃないんだから、転んだりしたらどうするんだよ!!」
充希(ミツキ)「なんで・・・知ってるの?」
雷斗(ライト)「そりゃ気づくよ! 僕ら7年も一緒なんだよ?」
充希(ミツキ)「そうだけど・・・」
雷斗(ライト)「ハイヒールしか履かない君が、スニーカー履き出す理由なんか、予想できるよ」
充希(ミツキ)「そんなとこ、見てたんだ」
雷斗(ライト)「いるんでしょ? お腹の中に、僕の子」
充希(ミツキ)「・・・ごめん」
雷斗(ライト)「やっぱり!」
充希(ミツキ)「でも大丈夫! 1人でどうにかするから安心して!」
雷斗(ライト)「なんで、充希ちゃん1人で抱えるの?」
充希(ミツキ)「そ、それは、 雷斗はこれから有名になっていく人で」
充希(ミツキ)「私と、この子の存在は、邪魔になると思ったから・・・」
雷斗(ライト)「そんなこと考えてたんだ・・・」
充希(ミツキ)「雷斗には迷惑かけないから、だから・・・」
雷斗(ライト)「迷惑かけてよ!」
充希(ミツキ)「・・・雷斗?」
雷斗(ライト)「別れるとか言わないでよ。 ずっとそばにいてよ・・・」
充希(ミツキ)「・・・でも」
雷斗(ライト)「僕ね、ちゃんと考えてたんだ」
充希(ミツキ)「指輪? うっそ・・・」
雷斗(ライト)「嘘じゃないし、めちゃめちゃ本気」
雷斗(ライト)「充希ちゃん──」
雷斗(ライト)「どうか僕に、君と子供と、 2人分の命を守らせてください!」
充希(ミツキ)「雷斗・・・」
雷斗(ライト)「ラストチャンス! お願いします!」
充希(ミツキ)「・・・はい」
雷斗(ライト)「よぉっっしゃあああああ!!!」
充希(ミツキ)「ちょ、近所迷惑!」
雷斗(ライト)「あっ! ・・・ごめん」
充希(ミツキ)「・・・もうっ。 バカなんだから」
雷斗(ライト)「最高の舞台にしないとね!」
雷斗(ライト)「だってさ、 2人も大好きな人が観にくるんだから!」
充希(ミツキ)「うん、そうだね」

〇黒
  ──そして
  これから
充希(ミツキ)「私は」
雷斗(ライト)「僕は」
  授かった命と共に、
  結婚の報告を告げに行く──
  ──END──

コメント

  • 充希の悩みや葛藤、決断の様子が示されたことでアンハッピーエンドの予感がしましたが、とってもステキなラストですね。2人の決意や覚悟も感じ取れてスカっとしました。

  • 切ないお話かと思いきや、こんなに幸せでキュンキュンなお話とは!
    いいですよね、プロポーズのシーンって。
    夢を叶えた彼の、もう一つの夢も実現しましたね!

  • 7年間色々あったんでしょうがお互いを尊重してとてもいいカップルですね。みつきちゃんの控え目な所、きっと内助の功で旦那様を支えるいい奥さん、お母さんになりそう! 2人に最高な追い風が吹いていますね。

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