昨日の終わりは今日の始まり(脚本)
〇幻想空間
あと少し。
あと少しで手が届く。
〇黒
私「待っ・・・・・・」
〇ファンシーな部屋
またあの夢・・・
〇幻想空間
遠ざかる後ろ姿の男性。
呼びかけようとして
伸ばした手。
あと少しという所で
〇ファンシーな部屋
いつも目が覚めてしまう。
この夢を見たあとの目覚めは・・・
なんと言えば良いんだろう。
喪失感・・・
いや絶望感・・・だろうか・・・
そんなことをぼんやり考えながら
目覚まし時計をみると・・・
時計の針は午前8時を指している。
私「やばい、遅刻する・・・!!」
私は大急ぎで身支度を整え
家を飛び出した。
〇電車の中
何とかいつもの電車に乗り込み
ほっと胸を撫で下ろす。
どこか空いているスペースはないか
電車内を見渡すと・・・
???「あれ、寝坊ですか?」
背後から突然、聞いたことある声が
降ってきた。
驚いて振り返ると
同じ会社の後輩
「高橋 湊」が立っていた。
私「な、なんでそう思ったの?」
高橋 湊「寝癖が・・・」
私「えっ、嘘・・・!?どこ?」
私は慌てて髪を手で押さえつける。
高橋 湊「ここです」
彼の手が軽く髪に触れる。
そして
高橋 湊「もう大丈夫です」
子供みたいな笑みを浮かべながら
手を引っ込める。
その動作があまりにも自然で
〇オフィスのフロア
会社の後輩(ゆりちゃん)「気さくな人柄で 割とルックスも良いので 実は人気が高いんです」
〇電車の中
と
後輩の女の子が話していたのを思い出す。
これはモテるのも納得かもと
ぼんやり見ていた私は
高橋 湊「もうすぐ着きますよ」
一気に現実に引き戻された。
私「今回は私に原因があるけれど 距離感を考えないと」
私「勘違いされることもあるから 気をつけた方がいいと思う」
私は、そう軽く伝え
扉に向かって歩き出した。
高橋 湊「誰にでもする訳ではないんだけどな・・・」
彼は彼女が居なくなったのを
見届けたあと、ぽつりと呟いた。
〇オフィスのフロア
今日の業務終了まであと30分。
あと少し頑張るかと気を引き締めた時・・・
会社の先輩(白井さん)「ごめん、急な仕事が入ってしまって・・・ これも頼めるかな・・・?」
私((おぉ、まじか・・・))
私「大丈夫です」
とっさに営業スマイルを作る。
会社の先輩(白井さん)「申し訳ない。本当にありがとう・・・」
引き受けた以上は、やるしかない。
長くなりそうだから
コーヒーでも買っておくか。
私はその場を後にし、休憩スペースに
行くことにした。
〇休憩スペース
どれを飲もうかと
自動販売機と睨めっこしていると
高橋 湊「あれ?先輩?」
高橋 湊「もうすぐ定時なのに何か買うんですか?」
私「あ、高橋君」
高橋 湊「お疲れ様です」
私「お疲れ様。今日、残業になっちゃって 飲み物でも買おうかと・・・」
高橋 湊「この前も、してませんでしたっけ?」
私「あー、どうだっけ?」
私は誤魔化すように、苦笑いを返した。
高橋君は、何か言いたそうな
でも迷っているような表情をしている。
そして一瞬の隙に、私の横から
自動販売機にお金を入れて
高橋 湊「差し入れです」
私「あ、ありがとう」
少し困惑しながらも、せっかくの
厚意を無駄にするわけにはいかない。
飲み物に手を伸ばすと
高橋 湊「無理しないでください」
高橋 湊「先輩は、いつも1人で抱え込んでしまうところがあるように見えるので」
その笑顔は、
笑っているのに悲しそうだった。
〇オフィスのフロア
そのあと、私はすぐに
自分の仕事に取りかかり
淡々と進めた。
そうしないと
彼の表情を思い出してしまいそうで
怖かった。
もっといえば
「あの時の先輩」に
似た彼の表情を・・・
〇オフィスのフロア
私が以前、好きになったのは
会社の上司だった。
とても優しい性格で
いつも誰からも
頼りにされているような人だった。
私はそんな先輩に
ずっと追いつきたくて・・・
〇黒
でも、彼は
目の前から居なくなってしまった。
〇オフィスのフロア
会社の上司「幸せになってね」
〇黒
それが私が聞いた
彼の最後の言葉だ。
ずっとずっと、後悔していた。
もしもあの時、彼に・・・・・・
〇オフィスのフロア
高橋 湊「・・・・・・先輩、先輩!大丈夫ですか?」
急に聞こえた声に、ハッと我に帰った。
高橋 湊「何度呼んでも、返答がなかったので・・・」
高橋 湊「あと、さっき会った時 少し様子が・・・」
高橋 湊「いつもと違った気がして・・・」
私「あ・・・ごめん。ぼーっとしてた」
私「気を遣わせてしまって申し訳ない」
高橋 湊「・・・・・・・・・・・・当然です」
私「え?」
高橋 湊「好きな人の様子がいつもと 違ったら気になるのは当然だし」
高橋 湊「残業と聞けば、また仕事を抱えて 1人で無理してないかと心配にもなります」
私「えっと・・・?」
高橋 湊「・・・・・・」
高橋 湊「・・・・・・ずっと前から」
高橋 湊「先輩のことが好きでした」
突然の告白に、沈黙が流れる。
幸い同じフロアには、誰もいなそうだった。
高橋 湊「先輩は、いつも頑張ってて 凄くかっこいいと思います」
高橋 湊「でも、辛い時には力になりたいです」
高橋 湊「俺では、頼りないですかね?」
叱られた子犬のような悲しそうな目で
見つめられる。
私はこの手の瞳にとても、弱い・・・。
私「いや、そんなことは・・・」
と曖昧に答えると、彼は
高橋 湊「じゃあ、覚悟しててください、先輩」
高橋 湊「絶対に振り向かせますんで」
いたずらが成功した子供みたいな顔をして
笑った。
ずっと追いかけていた愛しい人が急に姿を消した後も、こうして残業も引き受けながら仕事を全うしてきた彼女の素晴らしさ、わかる人には伝わるんですね。すごく勇気がでてくるストーリーでした。
自分のことを見ててくれた人がいたっていうことに気づいただけでもすごく心強いし、嬉しいと思うのですが、さらに告白までされるなんて!一瞬で恋に落ちてしまうと思います。
好きな人のことって、自然にずっと見てしまいますよね。
だから、彼女ががんばってるのもわかりますし、声をかけたくもなりますよね。
とてもかわいいラブストーリーでした。