エピソード1(脚本)
〇ジャズバー
(見て見て見て、彼、イケメンでしょ──)
(またあんたの「イケメン病」が発動したかっと思ったら、今回はマジで格好いいわ。あの顔にピアノまで弾けるって反則しょ)
(でしょ──。それにさあ)
(何よ?)
(自分の記憶を失ってるのが、また何かそそるよね──)
(何、それ!? お店側が彼を売り出すためにでっち上げたストーリーでしょ。あんたみたいな単純な奴がそういうのにひっかかるのよ)
(ふふふ。それがマジでホントの話らしいよ)
(記憶喪失ってやつ!? マジでそんなドラマみたいな話があんの?)
(なんかさあ、記憶失って、路頭に迷って、 ストリートピアノ弾いてたところ、この店のマスターに誘われたらしいよ)
黒崎由紀「どうしていつもそんな悲しそうな顔、してるの?」
男「また来てくれたんですね?」
黒崎由紀「わたしのこと、見えるの?」
男「えっ?見えますよ。なんでそんなことを?」
黒崎由紀「ううん、何でもない。どうしてそんな悲しそうな顔して、ピアノ弾いてるの?楽しくないの?」
男「理由なんて・・・さっきの女性の会話、聞こえてました?」
黒崎由紀「記憶喪失云々ってやつ?」
男「笑っちゃいますよね。誰もが胡散臭いって思うほどのベタな話がマジなんて・・・」
黒崎由紀「ワタシ、キミのそんな顔、見たくなかったんだけどな・・・」
男「俺だって、そうですよ。お姉さん」
男「あれ?お姉さん?なんで俺、あなたのことをお姉さんって呼んでんだろ・・・」
黒崎由紀「ふふ。キミはいつもわたしのことをそう呼んでたからね」
男「いつも?俺のこと、知ってるんですか?」
黒崎由紀「うん、知ってるよ。キミはすごく正義感が強くて、優しい少年だった」
男「少年?俺のガキの頃を知ってるんですか?」
黒崎由紀「わたしがキミに出会ったのは、キミがまだ12歳の頃だからね」
〇入り組んだ路地裏
中里 優「ごめんなさい。ずっと探してました。また会えたらいいなあって」
黒崎由紀「会いたいってわたしに?」
中里 優「うん」
黒崎由紀「変だよ、それ」
〇アパートのダイニング
目撃者の証言によると、犯人は背後から女性を刺し、そのまま逃走した模様
そして被害者の身元も確認できました
被害者は、黒崎由紀さん、女性。23歳。意識不明の重体とのことです
中里 優「うそだ。そんなのうそだ──」
〇ジャズバー
男「由紀?」
黒崎由紀「そう、ワタシの名前は由紀。そしてあなたの名前は・・・ユウ」
〇入り組んだ路地裏
中里 優「お姉さん、ぼくはいい男になる」
黒崎由紀「どうしたの、急に?」
中里 優「僕が良い男になったら、もう一度、会ってよ。お姉さんの黒歴史?僕が終わらせる」
〇ジャズバー
中里 優「黒歴史・・・」
黒崎由紀「そう。キミはわたしの黒歴史を終わらせるために会いに来てくれた」
中里 優「・・・」
〇墓石
中里 優「今、姿が見えてるってことは、どうやら俺は約束を果たせたそうですね。お姉さん」
黒崎由紀「ホントにいい男になったね。それにイケメン。思った通りだ」
中里 優「男を見る目、なかったんじゃなかったっけ?」
黒崎由紀「そうだったんだけどね」
中里 優「黒歴史を終わらせにきた」
黒崎由紀「ありがとう、来てくれて。ありがとう、覚えててくれて」
〇ジャズバー
黒崎由紀「ユウ君、こんどこそホントにお別れだね」
中里 優「待って」
黒崎由紀「最後にもう一度だけ、笑顔みせて」
中里 優「・・・」
「よろしい」
〇渋谷のスクランブル交差点
「痛えー」
「痛ーい」
「ごめんなさい、よそ見してて」
「ごめんなさい、わたし。よそ見してて」
「ちょっと人を探してたものだから・・・」
「ちょっと人を探してって・・・」
中里 優「えっ!?」
黒崎由紀「えっ?」
中里 優「キミも?」
黒崎由紀「うん・・・」
中里 優「あの・・・探してる人、見つかるといいね・・・」
黒崎由紀「あっ、ありがとう。でも・・・その・・・探してる人が誰かもわからなくて・・・」
中里 優「・・・」
黒崎由紀「えへへへ、変だよね。ごめんなさい」
中里 優「変じゃないよ」
黒崎由紀「えっ?」
中里 優「僕も同じだから。探してる相手がよくわかんないんだけど、ここに来たら、会えるような気がして」
中里 優「よくわかんないんだけど、誰かが訴えかけてくるんだ」
黒崎由紀「わたしも・・・」
中里 優「変だね、ぼくたち」
黒崎由紀「そうだね。変だ──あははは」
黒崎由紀「ちょっと、話聞いてる?」
中里 優「あっ、ゴメン。ちょっと考え事してた・・・」
黒崎由紀「何を?」
中里 優「なんか凄えと思わない?」
黒崎由紀「何が?」
中里 優「今、出会ってる人たちは、凄い偶然を乗り越えて出会えたんだなって──」
黒崎由紀「・・・」
中里 優「同じ時、同じ場所に生まれなかったら、出会わなかったかもしれないじゃん」
中里 優「たった一本の道を左に曲がっただけでも、出会わなかったかもしれない。そう考えると、なんか凄えなあって・・・」
黒崎由紀「あははは」
中里 優「何だよ、笑うなよ。ホントにそう思ったんだよ。由紀に会えて、なんか俺、幸せだなって・・・」
黒崎由紀「ゴメン。偶然とか運命とか奇跡とかよくわかんないけど・・・」
黒崎由紀「ワタシはただ・・・ユウに会えたから、それでいい。こうやって出会えたから・・・」
中里 優「そっか・・・。ありがとう」
黒崎由紀「何に対するお礼?」
中里 優「そうだなあ・・・。全部。過去も現在も未来も。今、こうやって一緒にいられること。運命も奇跡も」
中里 優「隣、歩いてくれてる由紀のことも。全部に感謝したい」
黒崎由紀「あ、あ、あのさあ、面と向かってそういこと言われると・・・凄く嬉しいけど・・・その、凄く照れるわけで・・・言って欲しいけど」
中里 優「幸せになろう、俺たち。絶対に」
黒崎由紀「はい」
おしまい
過去も現在も、別れて再会する2人はまるで磁石の様に引き寄せあう運命をたどっているのでしょうね。それに心から感謝し合える関係は本当にすばらしいと思います。
記憶って曖昧ですが感覚を通じて思い出すことってとてもきれいですよね。二人の会話の流れもスムーズでテンポよく最後まで読ませて頂きました。
心が惹かれあってる…って感じですね。
偶然すら必然にかえて二人巡りあうのって素敵だと思います。
ラストあたりのお話も好きです。