坂道にいる逢坂くん

東京アンジ

坂道にいる逢坂くん(脚本)

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〇学校の校舎
  4月──

〇教室
  新入生の教室──
  自己紹介が続いている。
担任「次は、滝口」
滝口 遥「はい! 滝口遥です!」
滝口 遥「生まれつき体が弱くて、中学は半分しか登校できなかったので」
滝口 遥「友だちとの思い出も半分になってしまって残念でした」
滝口 遥「高校では、遅刻せず毎日学校に来ることが目標です!」
滝口 遥「よろしくお願いします!」

〇学校脇の道
  翌日。朝の通学路──
滝口 遥「はぁ、はぁ」
滝口 遥「この坂道、思ってたより大変・・・ 頑張れ、私・・・!」
逢坂 順平「無遅刻無欠席が目標なんじゃねえの」
滝口 遥「あ、逢坂くん・・・だったよね。私の目標覚えててくれたんだ」
逢坂 順平「二日目にしてもう無理そうじゃねえか」
逢坂 順平「遅刻すんぞ」
滝口 遥「うん、急がないとね」
逢坂 順平「急げよ」
滝口 遥「急いでるよ」
逢坂 順平「遅っ」
滝口 遥「・・・ほっといて」
逢坂 順平「・・・」
  逢坂が遥のカバンを奪い取り、走っていく。
滝口 遥「えっ!?」
滝口 遥「ちょっと待って! カバン返して!」

〇教室
滝口 遥「ふぅ、やっと着いた」
  カバンが机の上に置いてある。
  いたずらされた形跡はない。
  ──キーン コーン カーン コーン──
担任「おはよう。出席取るぞー」
滝口 遥(とにかく、間に合ってよかった)

〇学校脇の道
  朝の通学路──
滝口 遥「ふぅ、ふぅ」
滝口 遥「学校には慣れてきたけど、この坂道にはなかなか・・・」
逢坂 順平「毎日毎日ギリギリだな」
滝口 遥「そっちこそ」
逢坂 順平「その重そうなカバンなに入ってんの? 漫画? 雑誌? お菓子?」
滝口 遥「教 科 書 !」
逢坂 順平「だけ? つまんねー」
滝口 遥「卒業さえできればいいって人と一緒にしないで」
逢坂 順平「おっ、よく覚えてたな俺の目標を」
滝口 遥「そんなふざけた自己紹介逢坂くんだけだった」
逢坂 順平「ショボい目標を持つ者同士だな」
滝口 遥「ふふっ」
逢坂 順平「ん?」
滝口 遥「袖にご飯粒たくさんついてるよ」
逢坂 順平「あ」
滝口 遥「どうせ毎朝バタバタ出てきてるんでしょ」
逢坂 順平「バタバタどころじゃない」
  遥が腕時計を見る。
滝口 遥「もうすぐチャイムだ」
逢坂 順平「だな」
滝口 遥「走った方がいいんじゃない?」
逢坂 順平「おう、じゃあ走れよ」
滝口 遥「私が走れないの分かってて・・・!」
滝口 遥「さっさと行って」
逢坂 順平「うるせえな。俺は俺のペースで歩いてんだ」
滝口 遥「・・・」
逢坂 順平「・・・ってやっぱお先ー」
  逢坂は遥のカバンを奪って走り出す。
滝口 遥「あっ!」
滝口 遥「また取られた」

〇教室
  昼休み──
クラスメイト「ねえ、聞いてる? 遥」
滝口 遥「ごめん、聞いてない」
クラスメイト「え?」
滝口 遥「フラフラする・・・」
「遥! 大丈夫?!」

〇学校脇の道
  昼間の通学路──
  遥は坂を下っている。
滝口 遥「ぐすっ・・・」
逢坂 順平「おい・・・どうした」
滝口 遥「悔しい」
逢坂 順平「・・・」
滝口 遥「普通に過ごしてただけなのに倒れちゃった」
滝口 遥「っていうか、どうしているのよ」
逢坂 順平「腹が痛くて早退」
滝口 遥「嘘だ。サボるならその健康な体を譲ってちょうだい」
逢坂 順平「弟がだよ」
滝口 遥「え?」
逢坂 順平「大丈夫か? 顔色悪いぞ」
滝口 遥「・・・もう少し保健室で休めばよかった」
逢坂 順平「うちで休んでいけよ。学校戻るより近い」
滝口 遥「だめだよ! 早退したのに寄り道なんて」
逢坂 順平「頭固えな。そんなこと言ってる場合か」
  遥がよろめく。
逢坂 順平「おい!」

〇古いアパートの部屋
滝口 遥「やっぱり私、お家にお邪魔するのは・・・」
逢坂 順平「そんな体調でまだ言うか」
滝口 遥「・・・」
拓人「おかえり! 兄ちゃん」
逢坂 順平「元気そうじゃねえか。腹痛は?」
拓人「給食食べすぎた! もう平気」
逢坂 順平「そんなことで早退すんな」
拓人「ごめんなさい」
滝口 遥「弟かわいいね」
逢坂 順平「弟、あと4人いる」
滝口 遥「あと4人・・・?」
滝口 遥「6人兄弟?!」
逢坂 順平「俺は自分の部屋に行く。ここで休んで」
滝口 遥「うん、ありがとう」
  部屋を見回した遥は張り紙を見つけた。
  『なにかあったらおにいちゃんにでんわすること』
  その下には大きく電話番号が書いてある。
滝口 遥「・・・」
拓人「兄ちゃんは?」
滝口 遥「自分のお部屋に行ったよ」
拓人「ハラへったなー」
滝口 遥「給食たくさん食べたのに?」
拓人「兄ちゃんのご飯が食べたい」
滝口 遥「お兄ちゃん、ご飯作るの?」
拓人「兄ちゃんはなんでもやるよ! 料理も買い物も洗濯も」
滝口 遥(逢坂くんが? ほんとに?)
拓人「俺も手伝ってるけどね! 兄ちゃんに高校卒業して欲しいから」
滝口 遥「心配しなくても卒業はできると思うよ」
拓人「高校は休みすぎると卒業できないって聞いたよ?」
滝口 遥「それはそうだけど」
拓人「兄ちゃん、俺たちの世話で中学校あまり行けなかったから」
滝口 遥「そうなの?」
拓人「そうだ! 兄ちゃんの代わりにスーパーに買い物に行ってくる! お手伝い!」
拓人「行ってきまーす!」
滝口 遥「あっ」
逢坂 順平「行ってきまーす、って聞こえたんだけど」
滝口 遥「スーパーに行くって、一人で」
逢坂 順平「まあ、すぐそこだから大丈夫」
逢坂 順平「体調は?」
滝口 遥「落ち着いてきた」
滝口 遥「あの、なんか・・・ごめん」
逢坂 順平「ん?」
滝口 遥「卒業が目標なんて、ふざけて言ってると思ってたから」
滝口 遥「弟くん、お兄ちゃんが高校卒業できるようにお手伝い頑張るんだって」
逢坂 順平「かわいいだろ? 拓人っていうんだ。下から3番目」
逢坂 順平「弟たちの面倒見てたら毎朝バタバタでギリギリになっちゃうけど」
逢坂 順平「これからも面倒見るし、卒業も絶対にする」
滝口 遥「強いね、逢坂くんは」
逢坂 順平「強くなんかねえよ。でも・・・じゃなきゃおかしいだろ?」
滝口 遥「え?」
逢坂 順平「体が弱いのも、家庭の事情も、自分じゃどうにもできねえことだけど」
逢坂 順平「毎日学校で過ごしたいとか、卒業したいとか」
逢坂 順平「そんなことぐらい叶っていいはずだろ」
  逢坂の目は、しっかりと遥を見ている。
滝口 遥「うん」
滝口 遥「私もそう思う」
滝口 遥「絶対叶うよ」
逢坂 順平「だよな!」
  二人は、どちらからともなく手を取り合った。
逢坂 順平「滝口の自己紹介聞いたとき、他人ごとだと思えなくて」
逢坂 順平「一緒に頑張りてえなって、思って」
滝口 遥「・・・ありがとう」
滝口 遥「ずっとからかわれてると思ってた」
逢坂 順平「ごめん、うまくやれなくて」
逢坂 順平「俺が毎朝カバン持ってやるから、絶対諦めんなよ」
滝口 遥「うん」
逢坂 順平「俺たちなりに、最高の高校生活にしよう」
滝口 遥「うん・・・!」

〇学校脇の道
逢坂 順平「おはよう」
滝口 遥「おはよう」
  差し出された逢坂の手に、遥はカバンを預ける。
滝口 遥「ありがとう」
逢坂 順平「おう」
  遥は思う。
滝口 遥(私は、このゆるやかな坂道を)
滝口 遥(明日も明後日もゆっくりと、ずっと)
滝口 遥(逢坂くんとのぼる──)
  〜fin〜

コメント

  • 素敵な青春小説でした(^^*
    二人で仲良く目標達成して卒業してほしいです。
    個々の事情って一歩踏み込まなきゃわからないものですよね。

  • 爽やかなラブストーリーに心が動かされました。自分の境遇を言い訳にしないで、毎日を精一杯生きる2人が素敵です。

  • 甘酸っぱいキュンがつまった素敵な青春ストーリーでした^^
    この先の二人をずっと応援したくなるラスト、卒業後もぜひ一緒に坂道を登っていってほしいです!

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