第二十話 秘武器(脚本)
〇劇場の座席
リングアナ「これより、準決勝第1試合をはじめます!」
〇闘技場
闘技場の中央では、青馬文彦とウォン・シャオティエンが対峙している。
青馬文彦「伝説の達人と拳を交えられるとは光栄です」
ワン・シャオティエン「ホッホッホ・・・」
ミスター小林「両者とも、全力で闘うように」
いきなりシャオティエンの身に異変が起こり──
例によってブルブルと身体を痙攣させ、目の色を不気味に変える。
リングアナ「ああっと、シャオティエン選手、さっそく憑依される模様です!」
青馬文彦「なんでもこい!」
青馬文彦「おれは狒々とも互角の闘いを演じた男だ」
青馬文彦「どんな野獣だろうが怖るるに足りず!」
憑依完了したシャオティエンは、両腕を大きく広げて片足をあげる構えをとる。
リングアナ「おっと、これは有名な鶴の拳だーっ!」
青馬文彦「鶴の拳? だったら間合いさえ気をつければ──」
シャオティエンは跳躍したかと思うと、広げた両腕を羽ばたかせる。
青馬文彦「なにぃ!!」
リングアナ「たっ、達人がほんとうに空を飛んでいます!!」
〇劇場の座席
リングアナ「これは驚きました!」
リングアナ「さすがシャオティン選手の象形拳は、本物に忠実です!」
「おおおーーっ・・・!」
〇闘技場
リングアナ「シャオティエン選手、頭上という断然有利な間合いから、青馬選手に迫っていきます!」
青馬文彦「なんの!」
リングアナ「青馬選手の打ち上げ式ドロップキックが鶴を撃ち落としたーっ!!」
青馬文彦「伝説なんてこんなていどか!」
達人はなんとか立ちあがり、再び憑依される。
青馬文彦「またかよ!」
青馬文彦「今度はなんだ!?」
シャオティエンは五指をくっつけて伸ばした両掌を頭の上におき、ピョンピョンと飛び跳ねはじめる。
〇劇場の座席
リングアナ「おっと、これはウサギだーっ!」
リングアナ「意外にも兎拳です!」
リングアナ「それにしても達人は、なぜ弱いイメージのあるウサギを憑依させたのでしょうか?」
〇闘技場
青馬文彦「こ、これは・・・!!」
文彦の目には、シャオティエンが本物のウサギのように見えている。
青馬文彦(そうか! おれが大のウサギ好きであることを見抜いて・・・!)
青馬文彦(大蛇に怯えた山藤も、黒豹にひれ伏したカチャンも、同じように弱点の幻影を見せられていたのか・・・)
青馬文彦「うぐぅ!」
リングアナ「シャオティン選手、後ろ脚の背面飛び蹴りで、青馬選手に激しい連続攻撃をくわえます!」
〇劇場の座席
リングアナ「青馬選手、防戦一方!」
リングアナ「どうしたんでしょうか?」
リングアナ「達人の兎蹴りは大味で、反撃の隙はいくらでもあるように見えるのですが・・・?」
〇闘技場
青馬文彦「ダメだ! ウサギを傷つけることはできない!」
その間にも、シャオティエンの兎蹴りを受け続け、ダメージを蓄積してしまう。
青馬文彦「まてよ・・・!」
青馬文彦「これしかない!!」
文彦は五指をくっつけて伸ばした両掌を頭の上におき、ピョンピョンと飛び跳ねはじめる。
リングアナ「おっとこれは・・・シャオティエン選手の兎拳です!」
リングアナ「そのまんまパクッています!!」
達人も困惑し、いったん攻撃の足を止める。
リングアナ「目には目をということでしょうか?」
リングアナ「しかし達人の神技を、付け焼き刃で模倣できるとは思えません」
だが文彦のウサギっぷりは、けっして兎ティエンにも引けをとっていない。
青馬文彦「他の動物ならいざ知らず、ウサギならばおれにもできる!」
その証拠に本家達人の目にも、今の文彦の姿は本物のウサギに映っていた。
リングアナ「達人、兎蹴りで攻撃を再開!」
リングアナ「おっと! 青馬選手も負けじとおなじ技でやり返します!!」
リングアナ「まるでオスウサギの縄張り争いのようです!」
青馬文彦「同じウサギ同士なら、反撃は可能だ!!」
だがすぐに二羽は離れて、相手の様子をうかがう膠着状態に陥る。
〇劇場の座席
「Boo!! Boo!!」
リングアナ「やはり同種間では、相手を本気で倒すところまではいかないのでしょうか?」
リングアナ「おや!? またも達人の身に異変が起こったようです」
リングアナ「この試合、これで三度目の憑依となります!」
〇闘技場
憑依完了した達人は、拳をイヌ科の獣の爪の型にして構える。
ワン・シャオティエン「ワオーーン!!」
文彦は脱兎のごとく逃げだす。
リングアナ「おっと、これは狼! 狼拳のようです!」
リングアナ「ウサギにとって狼は天敵! 青馬選手の判断は当然でしょう」
リングアナ「シャオティエン選手も当然、獲物を猛追します!」
兎彦はついに狼ティエンに追いつかれ、背後からのしかかられてしまう。
リングアナ「捕まったーっ! 青馬選手、これまでかーっ!」
ワン・シャオティエン「キャン!!」
だが狼ティエンは地面に倒れ込む。
両手で鼻を押さえ、苦しそうに転げまわっている。
リングアナ「突如、達人が苦悶! 何があったんだーっ!?」
間髪入れず、文彦はシャオティエンを背後から抱え込み──
リングアナ「敬老精神ゼロの強烈なジャーマン・スープレックスがキマッたーっ!!」
カン!カン!カン!カン!カーン!!
〇劇場の座席
リングアナ「青馬選手の劇的勝利ですが、勝因がいまいちよくわかりません!」
〇闘技場
青馬文彦「手強い相手だった・・・!」
文彦は自分の髪を触りながら、
青馬文彦「〝破邪秘武器〟の極意が役に立った」
秘武器とは、身体に隠し持つ事が出来る小さな武器の総称である。
青馬文彦「シャオティエンの象形拳ならば、嗅覚も本物の動物並みになるはずと考え──」
青馬文彦「万一に備えて、すり潰した唐辛子を頭に塗り込んでおいて良かった」
青馬文彦「絵に描いたような作戦勝ちだな」
〇劇場の座席
リングアナ「大方の予想を裏切り、予選枠出場の青馬選手が決勝進出をきめました!」
リングアナ「さて続く準決勝第2試合は、草刈遼選手対ザ・ワン選手の一戦です」
〇黒
つづく
次回予告
第二一話 怪物VS怪物
乞うご期待!!