第20話 『終幕』(脚本)
〇近未来の闘技場
京獄運命「班馬・・・、来明・・・、何故ここに・・・」
斐阿吉良「ボクが連れてきた」
京獄運命「私への・・・復讐のつもり・・・か・・・」
斐阿吉良「やめてくださいよ、馬鹿馬鹿しい」
斐阿吉良「あなた達の後悔とか、罪滅ぼしとかどうでもいい。ボクもこの2人も、自分の意思でここに来たんだ」
斐阿吉良「大人達は、いつもわかったような顔で、子供を守るとかいって、ただ支配してるだけだ」
班馬宙斗「阿吉良の言う通りです、先生。 僕達は、自分で選んでここに来たんです」
班馬宙斗「僕達にも選ぶ権利がある。決める権利がある。選んで決めて失敗して、そこから学ぶ権利もある」
京獄運命「班馬・・・」
牛獣神タウルス「生意気なガキどもだ」
牛獣神タウルス「お前の付け焼き刃の教育では、ろくな生徒が育たなかったようだな、京獄・・・」
牛獣神タウルス「この私が教育しなおしてやろう」
タウルスは為定の上半身を投げ捨てると、そのまま3人の方へと向かってきた。
斐阿吉良「君達がいても、足手まといだ。ここはボクが引き受けるから、2人は先に行くんだ!」
阿吉良は山羊獣神へと姿を変え、タウルスへとぶつかって行った。
班馬宙斗「阿吉良!」
来明電奈「宙斗くん。今は為定先生の元へ!」
〇近未来の闘技場
宙斗と電奈は戦いを避け、地面に転がる上半身だけの為定の元へ走った。
京獄運命「班馬・・・」
班馬宙斗「先生も・・・改造人間だったんですね・・・」
千切れた断面から何本か断線したコードがはみ出ているのが見えた。
京獄運命「一夜漬けの・・・改造だ・・・」
京獄運命「私も・・・、お前や真城と・・・同じ、痛みを・・・知るべきだと思って、な」
班馬宙斗「だったら、まだ直せるってことですよね?」
京獄運命「ああ・・・。 コアはまだ無事だ。問題ない・・・」
京獄運命「それより・・・、班馬。私をやつの・・・背中に向かって・・・投げろ」
班馬宙斗「背中に・・・?」
京獄運命「ヤツは・・・筋肉美に憧れるあまり・・・不必要に肥大な、筋肉の鎧を・・・まとっている」
京獄運命「私が背中に取りつけば・・・ヤツの手は・・・私に、届かない・・・」
京獄運命「一方的に攻撃できる・・・というわけ・・・だ」
班馬宙斗「攻撃手段はあるんですか?」
京獄運命「ああ・・・まだヤツに見せていない・・・奥の手が・・・ある・・・」
京獄運命「甲斐に気を取られている・・・今が・・・チャンス、だ・・・」
班馬宙斗「わかりました・・・!」
宙斗はタウルスの背中目掛けて、為定の上半身を投げつけた。
為定はタウルスの背中の毛をつかみ、器用にへばりついた。
〇近未来の闘技場
牛獣神タウルス「なにっ・・・?」
振り払おうともがくタウルスだったが、思惑通り筋肉が邪魔をして、背中に手が届かない。
京獄運命「・・・・・・」
電奈にはよく聞き取れなかったが、為定は阿吉良に指示を出した。
〇近未来の闘技場
班馬宙斗「先生・・・嘘だ・・・!」
阿吉良は小さくうなずくと、タウルスから離れ、宙斗と電奈の元へ走ってきた。
そのまま無言で両脇に2人を抱え、闘技場を出ると、扉を締め、無言で走り続けた。
〇近未来の通路
班馬宙斗「阿吉良、ダメだ・・・! こんなのはダメだ・・・」
宙斗の悲痛な声をかき消すように、背後で爆音が鳴り響いた。
高温の熱風が背後から迫ってきたが、何とか阿吉良は逃げ切り、背後の分厚い扉を閉じた。
来明電奈「自爆・・・」
班馬宙斗「卑怯だよ・・・先生・・・」
〇研究所の中枢
鼠獣神マウス「やあ、よく来たね、子供達」
鼠獣神マウス「私が『ZOD』の創設者であり、阿吉良を除けば、十二獣神、最後の1人となる、鼠獣神マウスだ」
来明電奈「随分、余裕だな・・・。抵抗しないのか?」
鼠獣神マウス「抵抗してきたさ」
鼠獣神マウス「溢れる欲望によってこの星を滅ぼそうとしている愚かな人類にね・・・」
鼠獣神マウス「今やこの国も、人命や子供の幸せより、私利私欲を優先する醜い老人共が支配している」
鼠獣神マウス「だから、我々は人の姿と我欲を捨て、獣の姿となって、欲に塗れた人々を粛清してきたのだ」
来明電奈「私の両親は、欲に塗れてなどいなかった!」
鼠獣神マウス「強者の支配する社会に仕え、我々の邪魔をする者は全て粛清すべき悪だ」
鼠獣神マウス「・・・そう思って、今日まで戦ってきた。それが母なる地球『MOTHER』の意志だと信じて」
鼠獣神マウス「だが、我々を倒し、ここに辿り着いたのは、我欲とは無縁の子供達だった」
班馬宙斗「倒したのは、真城さんと為定先生だ」
鼠獣神マウス「あの2人も同じだ。何の見返りも求めず、お前達のために戦っていた・・・」
鼠獣神マウス「私は、もうわからなくなったんだよ。 何が正しくて、何が間違ってるのか・・・」
班馬宙斗「・・・警察に出頭してください。 そして、罪を償ってください」
鼠獣神マウス「それは断る。私が認めたのはお前達であって、この国の大人達ではない」
鼠獣神マウス「この基地は間もなく自爆する。我々に替わって、君達子供がこの国を変えてくれ」
鼠獣神マウス「子供達が自由に夢を思い描くことが出来、大人達がそれを手助けする、当たり前の世界に」
鼠獣神マウス「他人の不幸を喜ぶのではなく、互いに思い遣ることができる、当たり前の世界に」
鼠獣神マウス「私の願いはそれだけだ」
班馬宙斗「それを願うことができる人間が、どうしてこんなことを・・・」
鼠獣神マウス「私も愚かな人類の1人だったということか・・・」
鼠獣神は泡となって消えた。
彼女は既に自死を遂げていたのだ。
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