灰色のカルテジア

八木羊

第14話 持つ者と持たざる者と(脚本)

灰色のカルテジア

八木羊

今すぐ読む

灰色のカルテジア
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇黒背景
  アッシュマンから拾い上げた欠片を
  覗き込む。
  暗闇の奥から女性の怒鳴り声が聞こえる
女性の声「先生! 次のチーム公演、 どうして彼女が主役なんですか!?」
男性の声「・・・確かに彼女より 君のほうが歌はうまい」
男性の声「でも、君には・・・華がない。 さらに言えば、」
女性の声(好きで飛び込んだ音楽の世界は、 才能、容姿、コネ・・・ いわゆるギフトを賜った者だらけ)
女性の声(私は何も持ってなんかいなかった)
男性の声「地方から一人で出てきてよくやってるとは思うよ。でもその声じゃ、プロは厳しい」
男性の声「君は教職を取っていたね? ツテで紹介できる学校があるはずだから、 そっちの道を検討するといい」
女性の声(いっそ嫌いになってしまえば楽なのに、 それでも私は歌と繋がることを求めた)

〇音楽室
女性の声「ら・ら・らら・ららら~♪ さん、はい!」
女性の声(付属校の音楽教諭、 そして少年合唱団の指導員)
女性の声(プレイヤーとしてはともかく、 コーチとしての能力はあったらしい)
女性の声(なら、せめてこの手で 才能のある金の卵を孵せたら・・・)
子供たちの声「ら・ら・らら・ららら~♪」
女性の声(人生のほんの一瞬にのみ現れる、あだ花の ような歌声。それがボーイソプラノ。 その中でも、彼の声は格別だった)
女性の声「八十島くん、さすがね。 今度の公演では、あなたがソロパートよ」
少年の声「本当ですか!」
女性の声(無垢でありながら溌溂と、 清らかでありながら蠱惑的)
女性の声(かつて私が夢見た迦陵頻伽の歌声は この白く細い喉の中に・・・)
少年の声「・・・ももセンセイ?」
女性の声「ううん。なんでもない・・・練習再開よ」
女性の声(頭によぎったのは、育ち盛りのヒナ鳥を 縊(くび)り殺し、その首を私の首と 挿(す)げ替えるというイメージ)
女性の声(今際のヒナはきっと美しい声で鳴くだろう)
子供たちの声「ら・ら・らら・ららら~♪」
女性の声(嗚呼、その絶唱を私に、 そのギフトをどうか私に・・・)

〇ジャズバー
キリエ(八十島・・・もも先生・・・ つまり、この天使は・・・)
イツキ「怪物が誰かわかった?」
キリエ「たぶん。 八十島先輩、手出してくれますか?」
カオル「ああ」
  先輩の手の上に遺灰を置く。
  説明せずとも、
  先輩はその透明な欠片を覗き込んだ
カオル「これは・・・」
キリエ「・・・・・・」
カオル「音楽の百瀬先生か・・・」
キリエ「驚かないんですか?」
カオル「なんとなく・・・ 歌い方が似てるとは思ってたから・・・」
カオル「それより、お前ら、 その体、大丈夫なのか?」
カオル「脚とか腕とか、 とんでもないことになってるけど・・・」
キリエ「え?」
イツキ「それを言うなら カオル先輩の口も大概ですよ」
U「仕方ない、説明してやるか。 ただ、その前に遺灰は返してもらうよ」
カオル「喋った? 人形じゃなくてロボットだったのか?」
キリエ「まあ、話すと長くなるんですが・・・」

〇ジャズバー
カオル「・・・夢みたいな話だな」
イツキ「夢かどうかは、そのうち分かるはずですよ」
キリエ「先輩はどうしてここに?」
カオル「合唱部の後輩が変なことに 巻き込まれてるんじゃないか気になって、 それっぽい店探してたんだよ」
カオル「したら、妙な歌が聞こえて・・・」
キリエ「先輩にも聞こえた? なんで私だけ聞こえなかったんだろ?」
カオル「特定の資質・・・ たとえば耳のいいやつや、男にしか 聞こえない音域の声だったのかもな」
カオル「みんなには聞こえないけど、 自分にし聞こえない歌声なんて、 気になって探しに行っちまうだろ?」
キリエ「なるほど。なんかモスキート音みたい」
カオル「で、歌声を追って 路地裏に入ったあたりで、 旧校舎のチャイムが聞こえて、」
カオル「急にあたりが白黒になって・・・ まあ、驚いたぜ」
キリエ「旧校舎のチャイム?」
カオル「鐘の音だ。聞こえなかったか?」
イツキ「言われてみればあの鐘の音、建て替え前の うちの学校の鐘に似てたかも」
カオル「似てるんじゃなくて、そのものだ。 特徴的な音だし、音の事なら自信はある」
キリエ「カルテジアの鐘が 旧校舎のチャイムだったなんて」
キリエ「あの鐘があったのは6年前だっけ? なんで今更・・・」
U「お前ら、いつまでこんなところで長話する つもりだ。もうすぐまた鐘が鳴る。 話はまた今度でいいだろう」
イツキ「そこで伸びてる指揮者は?」
U「店の外にだけ連れ出してやれ。 図体がデカいのも増えたし、簡単だろ?」

〇学校の屋上
イツキ「とうとう集会すら開かれず・・・か」
  音楽の百瀬先生が亡くなったことは、
  朝のHRの時間に告げられた
  突然の発作で、
  もともと不整脈持ちだったという説明だ
  事件性もないから、集会も開かないという
  ことらしいが、立て続けの学校関係者の
  死や負傷をこれ以上騒ぎたくないのだろう
カオル「アッシュマン・・・ 生焼けの渇望に眩んだ人間の末路か・・・」
カオル「一歩間違えば、 俺だってああなってたんだろうな」
U「でも違った。 君の幻肢は実に見事だったじゃないか」
キリエ「あれはカラスの嘴?」
カオル「こっ恥ずかしいことに俺の声は、 かつて天使の歌声なんて呼ばれてた」
カオル「でも暴力事件で、その声も、 そう呼ばれる資格も失った」
カオル「今さら天使なんて望まない。 ただ、また気持ちよく歌いたかった」
カオル「そのためならむしろ 悪魔にだってなってやる、ってな」
イツキ「つまり先輩は、悪魔の歌声を望んだ、と。 西洋だと悪魔はカラスの嘴から 火を噴くって話もあるし」
カオル「まあ、天使も悪魔も大差ないけどな」
カオル「悪魔は人を誘惑し、堕落させるけど、 先生が堕ちたのはむしろ 天使に執着したからだ」
キリエ「美しい歌声への渇望・・・ 諦めかけていたところに、」
キリエ「先輩という天才が現れてしまい、 渇望がやめられなくなった、か・・・」
イツキ「・・・どこかで聞いたような話だ」
イツキ「苅野も、僕がいなければ、あんな歪な 渇望を抱えることはなかった・・・」
キリエ「・・・言われてみれば、私の時もそう」
キリエ「主治医の先生は、もともと 欠損に執着があった人だったけど、 私と出会い、何かが狂った」
イツキ「・・・ぜんぶ偶然とは思えないけど、U?」
U「考えれば簡単な話さ」
U「凹(デコ)と凸(ボコ)が 噛み合うように、欠落を持った人間は 欠落を持った人間に惹かれる」
U「つまり、幻肢を作るほどの欠落を持った 君たちは、同じく欠落を持った アッシュマンを引き寄せる」
U「それもこれも、すべては欠落を 埋める世界、カルテジアの摂理さ」
キリエ「なんで今まで黙ってたの・・・ って聞いても、聞かれてないから、 とでもすっとぼける気?」
U「僕のこと、わかってきたね」
カオル「だが、お前はあのアッシュマンとかいう 怪物の燃えさし・・・ 遺灰を集めてるって話だったよな」
カオル「つまり、お前は遺灰のために 俺たちを餌にしてたってことだろ?」
  静かだが、低く怒気を含んだ声。
  怒りの矛先は私の掌の上の生首だが、
  思わずすくんでしまう
U「そういう解釈で構わない」
U「でも、餌だろうが、 そうじゃなかろうが君たちがやることは、 アッシュマンを倒す・・・それだけ」
U「何も変わらないだろ?」

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:第15話 主よ、憐れみたまえ

成分キーワード

ページTOPへ