シンクホール(前編)(脚本)
〇走行する車内
神野アヤト(・・・)
臨時ニュースをお知らせします
大型で非常に強い台風21号は
依然として暴風域を伴っていて
勢力を保ちながら北上中です
神野アヤト(・・・)
人間は何かを”きっかけ”に
記憶を鮮明に思い出す
俺は台風が迫る時
いつも12歳の出来事が
フラッシュバックする
〇車内
──あの日
台風が接近するなか
滋賀県にオープンしたての
キャンプ場へ
神野家4人は向かっていた
湖岸道路を通り
山の斜面にある
目的地に近づくほど
本格的な暴風雨となっていく
なぜこんな日にって思うだろう?
それもコレも超ポジティブ親父
”とーちー”のせいなんだ
〇車内
神野ツカサ「ハクショ──ン!!」
神野ナヲコ「わっ!!」
神野ツカサ「グス・・・ また、かわい子ちゃんが 俺の噂をしてるな・・・」
神野ナヲコ「はいはい・・・花粉でしょ」
神野ツカサ「ですよね〜」
神野ツカサ「あー、早く鼻うがいしたいー」
神野ナヲコ「ちゃんと道具持ってきた?」
神野ツカサ「もちのロン!」
神野ツカサ「それにしても凄い風だなぁ!」
神野ナヲコ「受付から10分くらい走ってるけど もう着きそう?」
神野ツカサ「はい!もう、 着く着く!つくつくぼーし! ほら!もう見えてきた!」
神野ナヲコ「はぁ・・・それさっきも聞いたから」
神野ツカサ「この先1kmって看板でてたよ!」
神野ナヲコ「そう、良かった」
神野ナヲコ「アナタが『どうしても行く!』 というから来たけれど」
神野ナヲコ「今日泊まるコテージ大丈夫なの?」
神野ツカサ「災害に強いコテージの謳い文句で」
神野ツカサ「いざとなればシェルターになる」
神野ツカサ「免震・耐震・防爆のトリプル構造」
神野ツカサ「しかも出来たばかりの特別価格!」
神野ツカサ「明日は台風一過でドピーカン!」
神野ツカサ「朝には琵琶湖を一望できる景色が拝めるよ」
神野ナヲコ「本当に楽観的ねぇ」
神野ツカサ「アヤトとマツリは寝てるのか?」
神野ナヲコ「うん、着いてから起こしてあげましょう」
神野ツカサ「あぁ」
〇車内
「・・・」
神野マツリ「・・・」
神野アヤト「・・・チラリ」
マツリは本当に寝ていたが
俺は出発時から寝たフリをして
2人の会話に
不自然な点はないか
聞き耳を立てていた
何故こんなことをしてるのだろう──
俺は
父親は”とーちー”
母親は”かーちー”と
あだ名で呼ぶ程に仲がよかったのに
──そう、アレさえ見なければ
それは、この旅行の準備中に起きた
旅行バッグを取るときに
偶然落とした本の間から
一枚の写真が足元に落ちた
何気なく拾いあげた写真には
結婚式での2人が写っている
にこやかな表情の”とーちー”と
・・・
”知らない女”が・・・
あまりにも唐突な出来事に
脳が反応できなかったのか
暫く放心状態になった
俺は焦燥感を感じながら手当たり次第
アルバムを取り出し写真を調べ始めたが
”知らない女”が
写っているのはその写真一枚だけだった
この女は誰なんだ!?
脳内の考えや感情がまとまらなくなる
俺は写真を元に戻し
あれコレ考えながら旅行の準備に戻ったが
不安な気持ちを伝えられないまま
旅行の出発日になってしまう
神野アヤト(”とーちー”には旅行中に どういう事か聞き出してやる!)
2人とも着いたぞー!!
神野マツリ「やったー!!」
神野マツリ「アヤト行こう!!」
神野アヤト「オッケー!!」
〇殺風景な部屋
神野マツリ「いぇ〜い!マツリいっちばーん!」
神野マツリ「え?何、ここ何もないよ」
神野ツカサ「ここは屋根付きのガレージさ」
神野ツカサ「部屋は左のドアを開けたとこからだ」
神野ツカサ「はいみんな自分の荷物持って・・・って」
神野アヤト「・・・」
神野ツカサ「アヤトのやつ勝手に行きやがって」
神野マツリ「あー、ずるいーマツリもいくー!」
神野ツカサ「あ・・・マツリも・・・」
神野ナヲコ「難しい年頃ね」
神野ツカサ「ふー」
神野ツカサ「まぁ、折角の旅行中だし 怒らないようにするよ」
神野ナヲコ「そうね」
神野ツカサ「ちょっと2人みてくるよ」
神野ナヲコ「じゃあ私、車から荷物降ろし始めるね」
ガシャーン!
神野ツカサ「えっ!」
神野ツカサ「アヤト!マツリ!」
〇古民家の蔵
神野ツカサ「2人とも大丈夫か!」
神野ツカサ「こ、これは・・・アヤトが割ったのか?」
神野アヤト「はぁ!?割ってねーよ!」
神野マツリ「勝手に落ちたんだよ!」
神野ツカサ「勝手に落ちるって」
神野ツカサ「ポルターガイスト現象かぁ!?」
神野アヤト「なんだよ!疑いやがって!」
神野アヤト「俺は疑ってマツリは疑わないのかよ!」
神野マツリ「・・・」
神野ツカサ「あぁ、疑って悪かったな」
神野アヤト「何笑いながら謝ってるんだよ!」
神野アヤト「や、やっぱりとーちーは俺の本当の──」
神野ツカサ「え!?」
「じ、地震だ!」
神野ツカサ「で、でかいぞ!」
神野ツカサ「窓の側に立つな!何かにつかまれ!」
神野アヤト「な、なんだ!」
神野マツリ「とーちー!あれ!」
神野マツリ「見て!あの窓から見えるお山」
〇火山の噴火
神野アヤト「ま、まじかよ・・・」
神野マツリ「かーちー!」
神野ツカサ「ま、待てマツリ!」
〇殺風景な部屋
神野ナヲコ「マツリ!」
神野マツリ「カーチー怖いよー!」
「キャー!」
〇壁
神野ナヲコ「マツリ! とーちーの方に行くわよ!」
神野マツリ「うわーん!」
〇古民家の蔵
神野ツカサ「2人とも無事か!?」
神野ナヲコ「大丈夫よ!!」
神野ナヲコ「・・・アヤトは!?」
神野アヤト「・・・」
神野アヤト「な、なんか・・・」
神野アヤト「この家、傾いてきてない!?」
〇古民家の蔵
神野アヤト「え、え!?」
神野アヤト「これ!?家が・・・」
神野アヤト「家が山崩れによって 滑り落ちているんだよ!!」
神野ツカサ「ってことは・・・」
神野ナヲコ「このまま琵琶湖に・・・」
神野マツリ「落っこちゃう・・・」
神野アヤト「お、落ちるー!」
神野ツカサ「みんな動く家具に近づくな・・・よ・・・」
〇黒
雷鳴の音は止まらない
雨は滝のように降り続き
度重なる地震によって
地面に足がついてる感触がなくなっていく
汽笛のように鳴り響く噴火音
コテージは琵琶湖を目がけ滑っていく
そこが終着駅かの様に
〇黒背景
神野アヤト「水が、水が入ってきた・・・」
神野アヤト「もうだめだ・・・」
神野アヤト「ひっ!」
神野アヤト「はぁ、はぁ・・・」
神野アヤト「まだ下に落ちていく・・・」
神野アヤト「う、う」
神野アヤト「うわ──────────────ん!!」
〇黒背景
──どれくらい時が経ったのだろうか
──10分?
──1時間?
──1日?
──もう、どうだっていいや・・・
「ア・・・ヤ・・・」
「アヤ・・・ト・・・」
〇黒背景
目を開けろ!アヤト!!
〇古民家の蔵
神野ツカサ「アヤト!」
神野アヤト「と、とーちー」
神野アヤト「とーちー!水が入ってきて! 家の中にも!それで!死ぬかもって・・・」
神野ツカサ「大丈夫!もう大丈夫だぞアヤト」
神野アヤト「ヒック・・・ヒック・・・ ウワ──────ン! 怖かったよー」
神野ツカサ「大丈夫か?痛いところはあるか?」
神野アヤト「う・・・うん・・・ 身体中が痛いけど大丈夫、動けるよ・・・」
神野ツカサ「そうか・・・本当に良かった・・・」
神野アヤト「かーちーは?マツリは?」
神野ツカサ「母さんはケガしてるが無事だ」
神野ツカサ「マツリは足を骨折したかもしれない」
神野アヤト「マツリ!」
神野ツカサ「落ち着けアヤト 2人は隣の部屋にいるからな」
神野ツカサ「俺はガレージにある 予備電源のスイッチを入れてくる」
〇古民家の蔵
神野アヤト「かーちー!マツリ──!」
「アヤト!」
神野ナヲコ「あぁ、アヤト・・・良かった!」
神野マツリ「アヤトふっか〜つ!」
神野ナヲコ「アヤト、とーちーは?」
神野アヤト「ガレージに電源のスイッチいれに行った」
神野アヤト「それよりマツリ!足は大丈夫か?」
神野マツリ「かーちーが魔法のシートを 貼ってくれたから大丈Vだよ」
〇古民家の蔵
神野アヤト「明かりがついた!」
神野アヤト「そうだ!!ここってどこなの!?」
神野アヤト「これからどうするの!?」
神野ナヲコ「もう私達も何が何だか わからないのよ・・・」
神野ナヲコ「ただ、あの状況から推測すると 琵琶湖の中かな」
神野アヤト「マジかよ・・・」
神野ナヲコ「ガレージは壊れたみたいだけど このコテージはとても頑丈で良かったわ」
神野ナヲコ「あの高さから琵琶湖に滑り落ちたとしたら コテージはシェルターとしての 役割を最高に果たしたわね」
神野ナヲコ「ただ地震がきたらと思うと 危ないから少し離れた方が良いかも」
神野ツカサ「ふー、 予備電源の残量は節約して 一週間もつかといったところだったよ」
神野ツカサ「とりあえず かーちーとマツリは無理せず コテージの中の食材や薬を集めてくれ」
神野ツカサ「俺とアヤトは 車の中の荷物と 外に散らばった道具がないか 確かめにいってくる」
神野アヤト「外出られるの!?」
神野ツカサ「少し濡れているが 地盤はしっかりしているみたいだ」
神野マツリ「あ!もしもの為に アヤトこのトランシーバー時計つけて」
神野マツリ「10メートルくらいしか 届かない玩具だけどね」
神野アヤト「オッケー!!」
神野マツリ「アヤト〜 マツリのお菓子ちゃんと見つけてよ! じゃないと ”コチョコチョの刑”にするからね!!」
神野アヤト「ひぃー!! わかりましたマツリ様──」
神野ツカサ「じゃ行くか!」
〇洞窟の深部
神野アヤト(あれ!?この薄く平べったい石 所々キラキラ光ってるな)
神野アヤト(マツリに見せてあげるか〜、 とりあえずポケットに入れとこうっと)
ガ・・ガガ・・・
あー、あー、アヤト〜聞こえる〜?
神野アヤト「マツリ聞こえてるよー」
こっちは食料とか集まったよ
かーちーが一回食事しようだってー
神野アヤト「おっけー!戻るよー!!」
神野アヤト「とーちー、かーちーが、ご飯食べようってー」
神野ツカサ「こっちも大体集めたし戻るか」
「な!?」
神野アヤト「とーちー!上!!」
〇暗い洞窟
神野ツカサ「アヤトこっち!」
神野アヤト「うわ────!!」
〇岩山の崖
「かーちー!! マツリ!!」
神野アヤト「うわ───────────────!!」
神野アヤト「かーちー!かーちー!」
神野アヤト「マツリィィィ!」
神野ツカサ「アヤト待て!まだ危ない!」
〇黒
「かーちー!マツリィィィ──────!!」
災害サバイバルとしても、家族の物語としても、あるいはミステリーとしても!? 続きが気になるお話でした😆
スピード感があってあっという間に読み終わりました。エフェクトや効果音の入れ方。とても勉強になります!
続きも気になります!
これから家族4人にどんな試練が待っているのか…
全員生きて帰れるのか…
続きが気になります!