読切(脚本)
〇街中の公園
たえ「はあ・・・」
寂しくて、堪らなかった。
田舎でくすぶってるのが嫌で、優しい親元を離れ、都会に出てきた。
若い頃はなんでもやれる気がしたし、怖いものもなかった。
だから、懸命に仕事を頑張り続け、気づいたら一人でアラサーになっていた。
彼氏との写真や、新しく家族になった人との写真をインスタにあげる友達たち。
でも、私には仕事しかなかった。
負けたくなくて、夢中で頑張っていたら、周りには誰もいなかった。
築きあげた地位とは裏腹に、ぽっかりと広がっていった心の空洞。ほんとうは何を優先するべきだったの?
さみしくて、寂しくて堪らなかった。
たえ「ホント情けない。もう28なのに寂しいだなんて」
たえ「しっかりしなきゃいけないのに、ひとりの家に帰りたくないよ・・・」
泣き出しそうな気持ちで、もう小一時間はブランコに座っていた。
たえ「・・・」
「おねーさん、泣いてるの?」
たえ「!?」
少年「こんばんは。良い公園日和だね」
たえ「は、はあ・・・」
少年「おねーさん、ひとりでどうしたの?」
たえ「・・・ひとりでいるのが寂しくて、家に帰りたくなくて」
少年「ふーん・・・」
少年「お姉さん、俺行くところないんだ。 今晩だけ泊めてくれない?」
たえ「え・・・」
少年「2人なら、寂しくないでしょ?」
たえ「うーん・・・」
少年「一人で帰りたくないお姉さん、行くあてのない俺、ウィンウィンじゃん?」
〇女性の部屋
ガチャッ──
たえ(結局連れてきてしまった・・・)
たえ「どうぞ」
少年「お邪魔しまーす!」
たえ「・・・」
少年「綺麗な部屋だね。本もいっぱいある」
たえ「うん。仕事で勉強することが多くてね」
少年「へえ。頑張り屋さんなんだね」
たえ「そんなことないよ、普通だよ」
たえ「・・・とりあえずもう遅いし、お風呂先にどうぞ」
少年「・・・どうする、一緒に入る?」
たえ「えっ、はいらないし!?」
少年「はは、冗談だよ」
たえ(なんだか掴みどころのない、変わった子だな)
たえ(17歳前後に見えるけど、いくつなんだろう)
〇女性の部屋
ガチャッ──
たえ「ふう・・・」
シャワーを済ませて部屋に戻ると、あの子がドライヤーを持って待っていた。
少年「おねえさんおいで、髪乾かしてあげる」
たえ「そ、そこまでしてもらわなくても・・・」
少年「いーから、いいから」
少年「一泊一食のお礼だと思って」
ゴォォォ──
ドライヤーの風が心地いい。
少年の長い指が優しく髪をといていく。
少年「ついでに肩も揉んであげる」
モミモミ
たえ「・・・っ。気持ちいい」
こんなに誰かに世話を焼かれるのなんて、ほんとに久しぶりだ。
いつからだろう、人との触れ合いがなくなってしまったのは。
たえ「・・・」
たえ「・・・なんか、眠くなってきた」
少年「そっか・・・。じゃあもう寝よっか」
少年「明日も早いんでしょ?」
たえ「うん」
〇部屋のベッド
カチッ
少年をベッドへと案内し、自分はソファーに向かう。
少年「待ってよ、お姉さん」
少年「寂しいんでしょ。一緒に寝ようよ」
たえ「えっ」
少年「大丈夫、なにもしないからさ。 おいで──」
たえ「・・・」
少年「えいっ!捕まえた」
たえ「!?」
迷ってるうちに少年に手首を掴まれ、ベッドに引きずり込まれてしまう。
たえ「・・・」
少年「・・・」
たえ「・・・あったかい」
少年「ね、一緒のほうがいいでしょ?」
ぎゅっ
照れくさくて、背中を向けていたら後ろから抱きすくめられた。
少年「・・・よしよし、いつも頑張っててえらいね」
少年「今日は俺がいっぱい甘やかしてあげるよ」
少年「その為に、会いに来たんだからね」
たえ「?」
少年「他にしてほしいことがあったら言ってごらん」
たえ「してほしいこと・・・」
たえ「・・・」
たえ「頭撫でてほしい」
たえ「それで、めちゃくちゃに褒めてほしい」
少年「ははっ、かわいいね」
少年「よしよし・・・」
少年「おねーさん、仕事が好きだからって、就職してからずっと頑張ってきたんでしょ」
たえ「・・・」
少年「ただでさえ、努力してやりたい仕事に就いたってだけでも偉いのに」
少年「ひとりで頑張り続けてきて凄いよ。本当に尊敬する」
少年「でもね、しんどい時は、ちゃんとしんどいって言わなきゃ駄目だよ」
少年「おねーさん、台所見たけど、ちゃんとしたご飯食べてる?」
少年「そんな時間も無いんじゃない?」
たえ「・・・」
少年「自分のこと疎かにしちゃだめだよ。自分を一番大切にしてね」
たえ「・・・うん」
少年「でも、お姉さんのやってきたことは間違ってないよ」
少年「周りの人は、ちゃんとお姉さんのこと見てくれてるからね」
少年「このまま自分を信じて続けてみて・・・」
少年「そしたらね・・・例えば半年後、きっとすごーく良いことがあるよ!」
少年の腕の中はあまりに心地よく、少年の声はまどろみとともに意識の奥へと消えていった──
たえ「スゥ・・・スゥ・・・」
少年「あれ、もう寝ちゃった」
少年「よほど疲れてたんだね。ゆっくりおやすみ」
少年「大好きだよ」
少年「チュッ」
〇街中の公園
翌朝──
俺はたえが起きる前にアパートを出た。
俺は、大切な人を励ましたくて、未来からタイムトラベルしてきた未来の恋人だ。
怪しまれにくい様に、少し年齢操作もしてある。
少年(俺たちが初めて出会うのは半年後だ)
少年「そしたらまた、うんと甘やかしてやるからな」
少年「それまで頑張れよ──」
胸がじんわり温かくなるストーリーでした。
なんとなく彼に惹かれてしまうたえちゃんに、彼との運命的なものを感じながら読んでいて、ラストでやはり運命だった!と。
自分のことじゃないのに、彼らの半年後が楽しみになってしまいました。たえちゃんが幸せになれますように😊
頑張った人にはやはり報いがあってほしいですよね。辛い時は、未来から大事な人や物が自分を助けにきてくれるんだ、だからもう少し頑張ってみよう!とイメージトレーニングに活用してみます。
彼の優しさを疑似体験してるようで、こちらまで癒やされてくる素敵なストーリーでした。今までがんばってきた人、今も日々がんばっている人には、スペシャルなご褒美が待っていますね。