高見何でも屋さんにようこそ!

おさかな

雑梱包の呪いの箱(脚本)

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〇シックなリビング
  ピンポーン
美桜「あ、お客さんだ! はいはーい!」
「あー、ごめんな美桜ちゃん。 お客さんじゃなくてなー」
美桜「がーん! 宅急便のおじさん!こんにちは!」
「あはは、いつも元気だね。 じゃ、ここにサインをお願いします」
美桜「はーい」
「うん、確かに。 じゃあこれを部屋まで持って行けるかな?」
美桜「大丈夫だよ! おじさんありがとう!」
「あはは!こちらこそ! ちゃんと鍵は閉めておくんだよ?」
美桜「はーい!」
  宅急便を見送って、美桜は扉を閉めて鍵をかける。
  そう重くない荷物を手に部屋に戻った。
美桜「でもなんだろう、これ? カラカラ言ってるなぁ」
  天地無用の表示がないのを良い事に、美桜は荷物を上に下にひっくり返す。
美桜「むむっ!差出人に女の人の名前! これはししょーの愛人さんにちがいな──」
高見「んなわけあるか」
美桜「ぎょー!ししょー!」
  急に現れた高見に叫び声を上げながら、美桜は持っていた荷物を高見に渡した。
高見「・・・あれ?」
美桜「どしたの?」
高見「いや、確かに今日この人からの荷物が来る事になってはいたが・・・」
美桜「ふむふむ?」
高見「・・・たしか封印が解けかけてるヤバめのモンがあって、厳重に梱包して送るって言ってたけどな」
美桜「ふむ?」
  祓い屋兼何でも屋の高見の元には、色々な仕事が舞い込んでくる。
  猫を探したり、浮気調査をしたり。
  時にはミステリーサークルの謎に迫ったりもする。
  本当にごく稀に霊障関係の依頼もあり、
  今回はその荷物が届いたのだった。
  しかし依頼人から聞いていた様子と、実際に届いた荷物の様子が違う事に高見は首を傾げている。
高見「差出人は間違いないし・・・」
美桜「宅急便のおじさんから貰った時からカラカラしてたよ? そんで私もちょっとくるくるした」
高見「・・・まじか」
美桜「だ、だってだってくるくるしたらダメのシール無かったよ?」
高見「分かった、分かった。 お前のせいじゃないから大丈夫だ。 とにかく開けてみるか」
美桜「ごくり」
  高見はよくある紙製のガムテープをぺりぺりと剥がしていく。
  開いた箱の中には緩衝材すら無く、
  外側の箱の半分くらいしかなさそうな小さな箱が、ぱっかぱかに開いて転げ回っている。
高見「・・・」
高見「・・・美桜」
美桜「うっす」
高見「水と塩! いますぐ!」
美桜「らじゃー!!」

〇シックなリビング
  とりあえず生理食塩水よりもやや濃いめな濃度で食塩水を作り、その中にぱっかぱかの箱をぶち込んでなんとか落ち着く。
美桜「し、ししょー? これ大丈夫?」
  高見の後ろから美桜がそっと顔を覗かせる。
  高見はその小さな頭をわしわしと撫でた。
高見「ひとまずはな。 ただこっからどうしたもんか・・・」
高見「取り敢えず依頼人に連絡してみるか」
  『この電話番号は現在使われておりません』
高見「まじか」
美桜「ししょー?どうしたの?」
高見「依頼人がバックれた」
美桜「バック・・・?」
高見「あー、逃げられた、ってとこだな。 幸い金は前払いで全額貰ってたから良いけど」
美桜「うーん?」
  前金で全額貰った以上、呪いのブツ送り返すことは出来ない。
  どうしようかと悩んでいると、美桜が高見の服の裾を引いた。
高見「ん?」
美桜「ししょー、お腹すいた」
高見「・・・。 そうだな、先に朝飯にするか」
美桜「うん!」
美桜「あ!ししょーみてみて! なんか出てる!」
高見「あ?」
  美桜の声に、高見は慌てて沈めた箱を確認する。
  すると、そこから大きな影が現れた。
水蛇「我は水に属するものなり・・・」
「なんか出た!!」
  美桜は高見の後ろにささっと隠れた。
水蛇「・・・すまぬ、危害を加えるつもりは取り敢えずないので一ついいだろうか」
高見「取り敢えずなのかよ・・・ で、なんだ?」
水蛇「うむ。 この塩水をどうにかして欲しいのだ」
高見「一応これで箱の禍々しいのを抑え込んでる。 理由によっては承諾できないが?」
水蛇「うむ。 ・・・浸透圧の関係で、我の体を構成する純粋な水が物凄く持っていかれているのだ」
水蛇「取り敢えずなんとかして欲しい」
高見「し、浸透圧ェ・・・」
美桜「ししょー? しんとうあつってなに?」
高見「・・・あー、まとめるとこのでっかいのが爆速で干からびてるって事だな」
美桜「なにー?! それは大変だよ?!助けてあげなきゃ!」
水蛇「うむ。なるはやで頼む」
高見「・・・。 まあ、取り敢えずはいいか。 妙な真似したら塩かけるからな」
  高見はバケツの塩水を捨て、軽く中をすすいでから水道水だけをぶち込む。
  その中に箱も突っ込んだ。
水蛇「うむ。ありがたい」
美桜「ヘビさんよかったね!」
水蛇「む、・・・まぁヘビでいいか」
高見「いいのか」
水蛇「相手は幼子だしな」
  美桜は楽しそうにバケツから生えている
  水蛇(仮)を眺めている。
高見「じゃあ早速だけど。 お前はなんだ?見たところ水の精霊が何かに見えるが?」
水蛇「うむ、大体そのようなところだ。 この小箱は我の依代なのだ」
高見「依代? 箱は空じゃなかったか?」
  高見はバケツの中の小箱を引き上げる。
  ぺらぺらの黒いごみ以外中には何もない。
水蛇「箱の中ではない。 その箱そのものと言ったところだ」
美桜「ヘビさん箱なの?」
水蛇「む。 ・・・そうだな、その箱がないと生きていけないと言ったところだ」
美桜「はえー」
高見「・・・だったらなんで箱がああなった? お前の様子を見るに、呪いを溜めるタイプじゃないだろう?」
水蛇「ふむ、そうだな。 ・・・ああ、その小箱の中の黒いものは丁重に扱ってくれ。間違っても流さないように」
高見「っぶね、」
  バケツの中に流しそうになったのを慌てて止めて、高見はもう一度小箱の中を覗く。
  美桜もそうっと近づきすぎないくらいの距離で覗き込んでいる。
水蛇「それはその中に詰められて生き絶えた、 仔猫の亡骸の一部だ」
「っ!」
水蛇「我というよりは、あの小さいのの恨みが積もり、小箱に呪いを纏わせたのだろう」
水蛇「お前たちには、この仔猫の弔いを頼みたい」
美桜「・・・ししょー」
高見「・・・分かったよ」
  じっとこちらを見つめる瞳に、高見はため息をついた。
  どうせ依頼は他に無い。仔猫の弔いくらいしてやろう。
高見「弔うのはいいが、どうすればいい? どこかに埋めるか?」
水蛇「この小さいのの生まれた場所が近くにある。 そこまで連れて行ってくれるか」
高見「分かった。 美桜、お前は・・・」
美桜「一緒に行く!」
高見「・・・」
美桜「いーくー!」
高見「・・・まぁ、埋葬するだけだしな。 ほら、準備しろ」
美桜「りょーかい!」
高見「・・・あとあれだ。 冷蔵庫に昨日の残りのパン入ってるから、それも持ってけ。腹減ってんだろ?」
美桜「うん!ありがとししょー!」

〇古びた神社
  水蛇(仮)の案内の下、高見と美桜は古びた神社までやってきていた。
美桜「ひひょー、ほのひんひゃほっひぃね!」
高見「こら、パン食い終わってから喋れ」
美桜「んむー」
高見「焦って喉つまらすなよ?」
美桜「んむー」
  美桜がパンをもぐもぐしている間、高見はぐるりと周りを見回した。
  古びている、と言えば聞こえはいいが
  放置されているのは明らかだった。
水蛇「あまり感心しないな」
高見「まぁな。 ただ、ここはもう──」
水蛇「ああ。ここに祀られていたものは既に居ないようだ。 祟りなどの危険もないだろう」
  どこか寂しげな声の水蛇(仮)に、パンを食べ終えた美桜が困った顔をしている。
美桜「ししょー・・・」
高見「ん。 ・・・で、どうしたらいい?」
水蛇「うむ。小箱を開けてもらえるか?」
高見「ああ」
  高見はバッグの中から、何十にもビニールに包まれて、触れないように塩も忍ばせた先程の小箱を取り出す。
高見「美桜、少し離れてろ」
美桜「うん」
  高見は美桜が少し離れたのを見届けて、慎重に小箱を開けた。
美桜「あ!」
高見「!」
  小箱の内側に張り付いていた黒いものが、かさかさと動き始めた。
  それは小箱を飛び出して、ゆっくりと地面に着地する頃には小さな仔猫の姿になった。
美桜「猫さん!」
  仔猫は美桜に応えるようににゃあと鳴く。
  水蛇(仮)は仔猫の前へ首をかがめた。
水蛇「・・・帰れるな?」
  仔猫は小さくにゃあと鳴いた。
  そして仔猫は振り返らずに、社のそばの茂みへと消えて行った。
美桜「・・・猫さん大丈夫かな?」
水蛇「あれは何百年もの時を経て母の元へ帰ったのだ。 寂しくもないだろうよ」
美桜「そっか。 よかったー」
  高見は手元に残った箱を見る。
  最初に見た時の禍々しさは消え、水蛇(仮)と似た感じを受けるだけの小箱になった。
  どこか物悲しいような余韻を、美桜の元気な声がかき消していく。
美桜「あ、ヘビさんはこれからどうするの?」
水蛇「ふむ。・・・特に何も考えていないな」
美桜「じゃあ一緒に暮らそうよ!物置のお部屋使えば大丈夫だし! ね!ししょー!」
高見「・・・依頼の手伝いするならな」
水蛇「働かざるもの、というやつか。 良いだろう。ちょうど今の世も気になっていたところだ」
美桜「やったー! じゃあ帰ったらヘビさん歓迎パーティーしよ!」
高見「何食うか決めとけよ?」
水蛇「楽しみだ」
  こうして、ごく稀な依頼は完了し、
  ついでに仲間も一人増えることとなった。

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