帰り道で、オネエさんと(脚本)
〇川に架かる橋
ツカサ「ちょっと、アナタ大丈夫? ヤダッ、顔が真っ青じゃない!」
ツカサ「バッグの中に薬があるの? バッグ、開けるわよ」
ツカサ「あった──」
ツカサ「って、からっぽ!?」
ツカサ「ねえ、これだけなの? ほかには・・・」
ツカサ「え? チョコレート?」
ツカサ「ってことは・・・」
ツカサ「──・・・」
ツカサ「『──死ぬな』」
ツカサ「『俺が命令してるんだ、早く・・・元気な顔、見せてくれよ』」
ツカサ「──・・・ど、どう!?」
ツカサ「素直になれない俺様系のイメージで──」
ツカサ「あ」
ツカサ「よかったぁ! 頬に血の気が戻ってきたわ」
ツカサ「って、ちょっと、なんで目を逸らすのよ」
ツカサ「声が低くて、びっくりした?」
ツカサ「アタシだって、ふだんはあんな声出さないわよ!?」
ツカサ「とっさに気の利いたセリフが浮かばなかったんだもの!」
ツカサ「ああするしかないって思ったの!」
ツカサ「ていうか・・・」
ツカサ「アナタ、<ときドキ>ってことで、合ってるのよね?」
〇川に架かる橋
<ときめきドキドキ症候群>
──通称<ときドキ>
『ときめかないと、心臓が止まってしまう』という、原因不明の症候群
ツカサ「薬がないならチョコを、なんて言うから、そうなのかなって思ったんだけど」
チョコレートは恋のくすりだ
心臓に作用して、ときめきを感じるのと似た効果をもたらす
<ときドキ>にとっては、本当に薬になる
ツカサ「これで<B型>か、ただの勘違いだったら、アタシ恥ずかしい上に変質者になるところだったわ・・・」
<ときドキ>には<B型>があり、
そちらは『甘いセリフを言わないと、舌が麻痺する』
ツカサ「<B型>なら、そうそう重体にはならないはず、って思ったのよ」
ツカサ「ひとりごとでだって、症状は緩和できるわけだし」
〇川に架かる橋
ツカサ「で、やっぱり、そうなのね?」
ツカサ「すっごく具合悪そうなコを見つけて、パニックになりながらも冷静に対処したアタシ、グッジョブじゃない?」
ツカサ「もっとほめられてしかるべきじゃない?」
ツカサ「”パニックになりながらも冷静”は矛盾してる?」
ツカサ「細かいこと言わないでちょうだい!」
ツカサ「も~、ウソみたいにケロッとして!」
ツカサ「なんてね、怒ってないわ 安心したわよ!」
ツカサ「・・・謝らなくていいわ、アナタのせいじゃないんだし」
ツカサ「でも、薬を切らしてたのは感心しないわね」
ツカサ「・・・え?」
ツカサ「・・・あらッ?」
ツカサ「もうすぐなくなると思って・・・奥のポケットに、新しい瓶を入れておいた?」
ツカサ「・・・わかったわよ!」
ツカサ「アタシが冷静なつもりでパニックになって、バッグの中をしっかり確認できなかったせいで見落としたのね!」
ツカサ「でも、よかったわ、大事にならなくて」
ツカサ「お礼なんて、いいのよ」
ツカサ「アタシはあたりまえのことをしただけ☆」
ツカサ「時間があれば、もう少しカッコイイこと言えたと思うけど」
ツカサ「そう考えると、悔しいわね~」
ツカサ「あ」
ツカサ「ねえ、緊急事態だったとはいえ・・・アナタのパートナーは、気を悪くしないかしら?」
治療のために<ときドキ>と<B型>が
パートナー契約を結ぶことが、あたりまえになっていた
〇川に架かる橋
ツカサ「恋人とはちがうって、わかってるけど」
ツカサ「アタシだったら、ちょっと妬いちゃう」
ツカサ「え?」
ツカサ「そう、パートナーはいないのね」
ツカサ「ふむふむ、薬は飲んでるけど、それだけだとさっきみたいに急にクラッと来ちゃうことがある・・・と」
ツカサ「・・・・・・」
ツカサ「・・・ねえ、耳貸して」
ツカサ「いいからいいから!」
ツカサ「『──俺の声、聞いて?』」
ツカサ「・・・ドキッとしたんじゃない? ウフフ」
ツカサ「アタシ、アナタのパートナーに立候補しちゃうわ!」
ツカサ「どうしてって」
ツカサ「アナタ、なんだかほうっておけないし」
ツカサ「言ったでしょ? 悔しいって」
ツカサ「オネエさんの本気、見せてあげる☆」
〇川に架かる橋
ツカサ「え? 私は違うわよ、<B型>でもないし」
ツカサ「<B型>じゃなきゃ、パートナーとは呼べない?」
ツカサ「も~、ほんとに細かいコね!」
ツカサ「そもそも“助け合いの精神”なんでしょ? パートナー契約って」
ツカサ「だったら、アタシがアナタを助けたっていいじゃない」
ツカサ「・・・・・・お返しできることがない?」
ツカサ「ん~・・・」
ツカサ「あ」
ツカサ「ねえ、アナタ、よくそこのカフェに行ってるでしょ」
ツカサ「アタシも常連なの」
ツカサ「こうして落ち着いて話してるうちに・・・」
ツカサ「何度かカフェで見かけたコじゃない!」
ツカサ「って、思い出したってわけ」
ツカサ「え? アナタはアタシを見たことない?」
ツカサ「こんなにキレイなオネエさんとすれ違っておいてなんとも思わないなんて、ありえる!?」
ツカサ「きゃッ、素敵な人!・・・ とか」
ツカサ「リップどこの使ってるんだろう? とか」
ツカサ「興味持てるところ、いくらでもあるでしょ!? ないの!?」
ツカサ「あー、まあ・・・それは、アタシの力不足ね」
ツカサ「お返しの話だけど・・・」
ツカサ「アナタ、カフェでいつもドーナツ食べてるでしょ」
ツカサ「毎回じゃない? アタシ調べでは100%よ!」
ツカサ「いつも、ハムスターみたいだわ~って思ってたのよね」
ツカサ「だ・か・ら」
ツカサ「アナタのこと、ハムちゃんって呼ばせて」
ツカサ「それがアタシへのお返し☆」
ツカサ「ちょっと、あからさまにイヤそうな顔しないでよ! 可愛いじゃない、ハムちゃん!」
ツカサ「ね、いいでしょ?」
ツカサ「アタシがいろんなときめき、教えてあげる」
ツカサ「ただの男にはできないことだって、できちゃうのよ?」
ツカサ「どんなことか、知りたい?」
ツカサ「たとえば──」
ツカサ「一緒に可愛いお洋服選んだり!」
ツカサ「おそろいメイクやネイルしたり!」
ツカサ「アイドルのライブだって、恋愛映画3本立てだって、どんとこいよ!」
ツカサ「ときめきって、恋愛だけじゃないでしょ?」
ツカサ「だから──」
ツカサ「これからよろしくね」
ツカサ「アタシのハムちゃん☆」
ときめき(いろどり)アラモード
おしまい
ドキときシリーズの設定が面白くて、全て拝読させていただきました!
今回はオネエ系でしたが、だからこそ乙女の気持ちに寄り添える“トキメキ”が供給できそうですね😊
カフェで毎回見られてるだなんてそれだけで私ならトキメいてしまいますが(笑)ヒロインに「ハムちゃん」っていうあだ名がいつか特別な宝物のように感じられる日がきますように!
つかささんの様な人は一般的に繊細で気配りができるタイプの方が多いと思います。『ときめき』の為に自在に変化して助けてくれようとするところ尊敬です。
「ときめき(うそつき)シンドローム」の設定が面白かったので、本作でも楽しませてもらいました。こんなステキなオネエさん、身近に欲しいですね。パートナーでなくてもいいですのでw