第12話 『隠し事』(脚本)
〇高層ビル
〇更衣室
ロッカーから財布を取り出した拓郎は、中身を取り出して思わず静止した。
拓郎「!? しまった、寝室の机の上だ・・・」
壁の時計を見ると、午前12時をすぎたばかりである。
拓郎「会社終わりじゃ、里穂に見られるかもだし」
同僚「おい、どうかしたのかよ?」
拓郎「え? い、いや、家に忘れ物しちゃって」
同僚「もしかして財布とか? 昼飯代くらいなら貸すぞ?」
拓郎「あ、財布はあるんだけど・・・。 俺ちょっと取りに帰ってくる」
同僚「え、でも昼休み終わるまでに戻って来れるのかよ?」
拓郎「急ぐ!」
〇高層ビル
クルル「クララお姉ちゃん、あの男の人、すっごく困ってるよ!」
クララ「だね! よし、私に任せて!」
クララ「クララクララクラクララクラ〜 あの男の人よ、家までひとっ飛び〜!」
クララが魔法を唱えると、ビルから出てきた拓郎が光に包まれて姿を消した。
クララ「私たちも追いかけるよ!」
〇玄関の外
拓郎「タクシーの方がいいかな」
拓郎「──!? いつの間にか家に着いてる!?」
拓郎「え、だって今、会社出たばっかり──」
スマホで時間を確認すると、時刻は12時5分を示している。
拓郎「どうなってんの!?」
〇ホテルの部屋
俊介「お昼、何食べよっか?」
里穂「あれ? 今、玄関から何か声聞こえなかった?」
俊介「声?」
里穂「宅配便かも」
〇シックな玄関
里穂「え・・・!?」
ドアスコープから外を見た里穂が絶句する。そこには夫の拓郎の姿があった。
俊介「何、どうかした?」
里穂は廊下からやってきた俊介の口を慌てて塞ぐ。
俊介「ちょ、何・・・!」
里穂「ヤバイ、彼氏帰ってきた・・・!」
俊介「は・・・!?」
里穂「とりあえず、寝室に隠れてて」
俊介「え、そんなこと言われても・・・!」
俊介は慌てて寝室へ戻りドアを閉めた。
カチャ
里穂「!」
拓郎「あれ、里穂!?」
里穂「た、拓郎。仕事どうしたの・・・?」
拓郎「い、いや、忘れ物しちゃって、休憩時間に取りに帰ってきたっていうか・・・」
拓郎「里穂こそどうしたの、仕事17時までだよね?」
里穂「あ、うん、えーっと・・・」
里穂「あれ? 今日、有休を消化するから休みだって言ってなかったっけ?」
拓郎「あ、そうだったんだ」
里穂「ていうか、忘れ物って何?」
拓郎「え? あ、大したものじゃないんだけど」
里穂「え、大したものじゃないのに何で戻ってきたの?」
拓郎「とりあえず、すぐ戻らなきゃダメだから、急ぐね」
里穂「ああ待って! 私、取ってきてあげるよ。 だって靴脱ぐの面倒でしょ?」
拓郎「いや、いいよ」
里穂「大丈夫だよ!」
〇空
クララ「も〜! せっかく人助けできたと思ったのに、ややこしいことになってるんだけど!」
クルル「ねえ、なんであの女の人、部屋に入れてあげないの?」
クララ「それは浮気しているからでしょ!」
クルル「ウワキって何?」
クララ「・・・説明するのめんどくさいな」
クララ「簡単に言うと、女の人は、寝室に別の男の人がいるのを見られたくないの!」
クララ「だから寝室にいる男の人も、隠れて声を出さないようにしてるってわけ!」
クルル「ふ〜ん。じゃあ寝室にいる男の人が見えなくなって、声も出せなくなればいいってこと?」
クララ「は?」
クルル「よし! 私に任せて!」
クララ「ちょっと何する気!?」
クルル「クルルクルルクルクルルクル〜!」
クルル「寝室の男の人よ、周りから見えなくなって、声も聞こえなくなれ〜!」
〇ホテルの部屋
俊介「・・・・・・」
寝室で状況を伺っている俊介。
その体が不思議な光に包まれ、透明に変化していく。
俊介「!?」
〇シックな玄関
里穂「さっきから何!? 私が取ってきてあげるって言ってるじゃん!」
拓郎「だから自分で取るから大丈夫って言ってるじゃん! ていうか何でそんなに怒るの!?」
里穂「そっちこそ何でそんなに嫌がるの!?」
里穂「あ、もしかして、その忘れ物が私に見られたらヤバイものとか!?」
拓郎「・・・!」
里穂「・・・え、図星?」
拓郎「・・・・・・」
里穂「・・・ちょっと。私に何、隠してるの?」
拓郎「・・・・・・」
里穂「答えてよ!」
拓郎「あ・・・もしかして・・・見た?」
里穂「は?」
拓郎「そうだろ・・・? 寝室の机の上にあったの、見たろ?」
里穂「机の上? 知らないし!」
拓郎「ウソつけ! じゃあ何で家に入れてくれないんだよ!」
里穂「だって!」
〇空
クルル「も〜! 寝室の男の人、せっかく魔法かけてあげたんだから早く逃げちゃいなよ〜!」
クララ「気付くわけないじゃん、周りから見えない魔法かけただけなんだから!」
クララ「それよりも、あの忘れ物した男の人も隠し事してるみたいなんだけど! 机の上に何を忘れたの!?」
クルル「あ、寝室にいる男の人が、机の上にあるものを手に持ったよ!」
クララ「え!?」
〇シックな玄関
拓郎「だって、って何だよ! 見たってことだろ!? 見たから怒って入れさせてくれないってことだろ!?」
里穂「だから見てないって言ってるじゃん!」
拓郎「じゃあそこどけよ!」
里穂「それはダメ!」
そのとき突然、寝室のドアが開いた。
俊介「里穂! そいつより俺と付き合った方が絶対いいって! そいつが隠してるのはこれだよ」
俊介「そいつ借金してるんだよ! これが机の上に置いてあったよ!」
俊介「借金あるのバレたくなくて、焦ってるんだよ!」
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