イケメン夫との生活(脚本)
〇豪華なリビングダイニング
榊 亮太「わぁ、今日も美味しそうですね!」
夫の榊亮太が、仕事へ行く準備を済ませて寝室から出てきた。
私の用意した朝ごはんを見て、テーブルに着席する。
いつも似たようなメニュー、でも彼は感激してくれていた。
彼は結婚前から「料理だけはダメなんです・・・」と言っていたため、自然と私が料理を作るようになっていた。
わたし「おはようございます! いつもと変わり映えしないですけど・・・ 喜んでもらえて良かったです」
照れ隠しで、少し他人行儀な言葉になってしまう。
嬉しさでいっぱいだが、それを表に出すのはまだ恥ずかしかった。
榊 亮太「手料理というものに僕は幸せを感じるんですよ~ いただきまーす!」
共に手を合わせて一緒に食事を始める。
屈託なくニコニコしながら食べる姿を見て愛おしさを感じた。
出会って半年、結婚してから三ケ月。「こんなに素敵な人と結婚できるなんて!」と、幸せいっぱいだった。
しかし。
彼はなぜ結婚してくれたのだろうという不安が、頭の片隅にずっと張り付いている。
恋愛の段階を踏まずにきたこともあり、まだ手を繋いだことすらない。
夫婦のあり方は人それぞれとはいえ、どう関係を作っていけばよいものなのか・・・
時間が経てば経つほど分からなくなっていた。
〇高級マンションの一室
数日後の夜。
仕事を終えて家に帰り着き、ぼんやりテレビを見ていた。
たまたまつけた番組が「結婚詐欺」や「偽装結婚」などを取り上げている。
結婚や恋愛を使って詐欺なんて怖い世の中だ。
──そういえば。
婚姻届を提出する日、私は仕事で一緒に行けなかった。
実は提出されてなかった、なんてこと・・・
ピリリリリッ
スマホが震え、彼の着信音が鳴り響く。
わたし「もしもし?」
榊 亮太「すみません! 急なのですが、取引先の方と飲み会になりまして・・・ もう食事って用意始めちゃってますよね?」
わたし「いえ、これからでした こちらはお気になさらず・・・私も外で済ませてきます」
女性の声「りょーたさーん! まだぁ〜?」
榊 亮太「あっ・・・ えっと、ではまた」
ツーツーツー・・・
彼はバツが悪そうに電話を切った。
彼が何を隠そうとしたのかは分からない。
しかし、何かやましいことがあるのは確かだった。
彼との縮まらない距離。
女性の影。
──何か理由があるはずだ。
真相を知りたい──。
私は家宅捜査を始めることにした。
〇部屋の扉
ガチャッ
彼の部屋。
申し訳程度にハンディモップを持つ。
〇本棚のある部屋
本棚、机の引き出し、ベッドの下・・・
おかしなものは何も出てこなかった。
わたし「本当に何もないってこと?」
榊 亮太「何をお探しですか?」
真後ろから声。
驚いて、悲鳴にも似た声を上げてしまった。
振り返るのが怖い。
わたし「あ、あの・・・」
彼は背後から私の両肩を掴み、覗き込んできた。
ふんわりと鼻をくすぐる、彼の香水の匂い。
榊 亮太「どうしたんですか? 聞かせてください、言い訳・・・」
イタズラっぽくニコニコと微笑む彼と目が合う。
チュッ
彼が頬にキスをしてきた。
突然のことに頭の中は大混乱、全身が熱くなる。
榊 亮太「こっち向いて」
言われるがままに回れ右をする。
お互いの息が顔にかかる。
今までにない距離の近さが、更に近くなっていく。
榊 亮太「言ってくれなきゃ、このまま襲っちゃいますよ」
耳をくすぐる低い声に、全身の力が抜けていく。
ベッドの端に座り込んでしまう。
榊 亮太「良いってことかな?」
見たことのない彼の表情に、流されてしまいそう──
───────ダメ!
覆いかぶさってきた彼の肩を押し、床に正座する。
彼も同じように正座した。
わたし「ごめんなさい」
榊 亮太「部屋に入ったことですか? 全然構いませんよ」
わたし「実は、疑ってたんです 結婚詐欺とか浮気とか・・・」
榊 亮太「えっ!? 僕がですか?」
わたし「はい・・・」
榊 亮太「あははは! どうしてそんな発想に?」
彼は楽しそうにケラケラと笑う。
わたし「今まで亮太さんと手を繋いだこともなかったから・・・ もしかして騙されたのかな、なんて」
わたし「さっきも電話の奥から女性の声がしたし・・・ だから、部屋の中に何か隠してないかなと、思って」
気付けば、彼は真剣に聞いてくれていた。
榊 亮太「僕は、大切な人を不安にさせてしまっていたんですね」
彼はそっと私の手を取った。
榊 亮太「実は僕も悩んでいたんです あなたとどうやって距離を縮めたら良いか」
榊 亮太「大切にしたくて、嫌われたくなくて・・・」
榊 亮太「電話の女性は、取引先の秘書さんなんです あなたに誤解させてしまったかもと思いながらも、急かされて焦ってしまいました」
榊 亮太「ちゃんとその場で誤解を解いていれば良かった ごめんなさい」
わたし「そんな、私こそ変なこと言い出してごめんなさい」
榊 亮太「じゃあ、怒ってないんですね?」
わたし「もちろんです!」
榊 亮太「それなら・・・」
榊 亮太「仲直りのキス、していいですか?」
彼の顔が、また間近に迫る。
小さく頷き、目を閉じた。
チュッ
触れた唇が熱く、ジンジンと疼いた。
榊 亮太「あなたが思っている以上に、僕はあなたのことを愛してると思います」
榊 亮太「これからは隠しません もっともっと愛しますから、覚悟してくださいね」
わたし「はい・・・」
お互いの誤解が解けて、壁が取れたような気がする。
ステキな夫と、幸せな未来を築いていこうと心に誓った。
僕自信自閉症スペクトラム故か他人とのコミュニケーションを取るのが正直難しいです。ですが,誤解を招かないように気を付けたいと思います。
新婚なのにムズムズ、触れられない不信感……リアルな感情描写に、思わず引き込まれてしまいました。
好きだからこそ、大事にしたいからこその彼の想いだったのですね!言葉にはしなかったものの、飲み会を断って誤解を解こうと急いで帰ってきてくれた彼に、めっちゃトキメいてしまいました。
これからは二人には幸せな新婚生活を送って欲しいです~(^^)
途中少しハラハラしてしまいましたが、私の想像を覆されて嬉しいです。つい、お見合い結婚、しかも出会ってわずか3か月で結婚した両親も初めはこういう感じだったのかなあと思いを馳せました。こうきちっとステップがあることで、関係の土台がしっかりでき、結婚生活のなかで恋愛ができてよいですね。