おばあちゃんのハンカチ

深海雪

エピソード3(脚本)

おばあちゃんのハンカチ

深海雪

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おばあちゃんのハンカチ
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〇病室
  里子が急変して危篤だとの連絡を受け、沙耶は急いで病院に戻った。
伊村沙耶「お母さん、おばあちゃんは!?」
伊村雅子「今日が山場だろう・・・って・・・」
  沙耶はベッドにかけより、里子の右手を両手でギュッと握った。
伊村沙耶「おばあちゃん。私、おばあちゃんから教えてもらいたいこと、いっぱいあるんだよ」
伊村沙耶「この桜の刺繍を入れてくれたハンカチだって、やり方知りたいのに・・・白玉の作り方だって・・・」
  沙耶が懸命に里子に話しかけている様子を見て、雅子の目に涙があふれる。
伊村真斗「おばあちゃん!!」
  真斗を連れてきた裕次が、廊下から雅子を呼び、雅子が病室から出ていく。
伊村沙耶「ほら、真斗もおばあちゃんに話しかけて!!」
伊村真斗「えっ、なんで!?」
伊村沙耶「おばあちゃん、言ってたんだ。耳は天国に行くまで聞こえてるんだって」
伊村真斗「えっ、そうなの!?」
伊村沙耶「だから、たくさん声かけて、こっちの世界に引き戻そう!! ほら、おばあちゃんの手を握って!!」
  真斗は、沙耶が握っているように、里子の左手を両手で握った。
伊村真斗「おばあちゃん。おばあちゃんの白玉、また食べたいよ!!」
伊村沙耶「・・・えっ・・・今、それ!?」
伊村真斗「だって、何言えばいいの!?」
伊村沙耶「まぁ、いっか・・・私もおばあちゃんの白玉、好きだし」
伊村真斗「僕、ちゃんと片付けするよ!! おばあちゃんの言う通り、出したら片す!」
伊村沙耶「へぇ〜・・・できるのぉ〜、片付け!?」
伊村真斗「できる、できるよ!!」
伊村真斗「あと、野球も頑張る! 僕がおばあちゃんを甲子園に連れてってあげる!!」
伊村沙耶「おぉ〜、それは私も楽しみ!!」
伊村真斗「お姉ちゃんは!?」
  真斗のツッコミばかりしていた沙耶が、急に真剣な眼差しで、里子の顔を見つめた。
伊村沙耶「・・・私、高校受験に失敗して、ずっとどうしていいか分からなかった・・・おばあちゃんにも八つ当たりしてたよね・・・」
伊村真斗「・・・そうだよ。お姉ちゃん、いっつもイライラしてて、ずっと怖かった・・・」
伊村沙耶「ご・・・ごめん。そうだよね・・・私、いいお姉ちゃんじゃなかったよね・・・」
伊村沙耶「でも、私、これから頑張ってみる!! おばあちゃんが、やればできる子だって信じてくれてるから!!」
伊村沙耶(大切な友達がいることも分かったしね)
伊村沙耶「今の高校からだって大学は行けるし、夢、ちゃんと見つけるよ!!」
伊村真斗「お姉ちゃんの夢って・・・?」
伊村沙耶「まだわかんない・・・。子供の頃は、おばあちゃんの白玉が好きすぎて、和菓子職人になりたいって思ってたけど・・・」
伊村真斗「あれ・・・ドラマ見て、弁護士になるとか言ってなかったっけ!?」
伊村沙耶「ハハハ・・・ドラマ見てると、すぐ憧れちゃうんだよね、医者とか、刑事とかも!!」
  沙耶と真斗、顔を見合わせた瞬間、沙耶が握っていた里子の右手がかすかに動いた!!
伊村沙耶「わっ!! 今、おばあちゃんの手が動いた!!」
伊村真斗「えっ!?」
「おばあちゃん!!!!!!」
伊村沙耶「真斗、お母さんたち、呼んできて!! 私はお医者さんを」
伊村真斗「うん!!」
  真斗は父と母を呼びに行き、沙耶はナースコールを押し、里子に声をかけ続けた。

〇教室
鈴井愛理「おばあちゃん、意識戻って、本当によかったね!!」
伊村沙耶「うん!! 今いろいろ検査してるけど、すぐ退院できそうだって!」
  里子が意識を取り戻した翌日。沙耶は、入学以来、初めて学校が楽しく思えた。
  愛理と仲直りできたことがきっかけなのか、今まで話したこともないクラスメイトとも普通に話すことができた。
伊村沙耶(私が心に壁を作ってただけだったんだ)
鈴井愛理「でさ、今度の・・・」
伊村沙耶「待って、愛理!! もうこの前みたいなことは・・・」
鈴井愛理「わかってるって! 沙耶と私、ふたりで!!」

〇学校の校舎
鈴井愛理「やっぱ、原宿でパンケーキじゃない!?」
伊村沙耶「えぇ〜。私、和菓子の方がいいなぁ〜」
  沙耶と愛理は、週末の予定について話しながら学校から帰ろうとしていた。
高梨裕太「よっ、愛理!!」
鈴井愛理「えっ、裕太!? 今日、約束してたっけ?」
高梨裕太「いや・・・ちょっと沙耶ちゃんに・・・」
伊村沙耶「えっ、私に???」
高梨裕太「・・・隆のことなんだけど・・・」
鈴井愛理「裕太、それはダメって言ったじゃん!!」
高梨裕太「愛理はちょっとだまってて!! 沙耶ちゃん、聞くだけ聞いてもらっていいかな」
伊村沙耶「あっ・・・はい・・・」
高梨裕太「隆、本当に沙耶ちゃんに悪いことをしたって反省してるんだ」
鈴井愛理「でも昨日だって、沙耶のこと・・・」
高梨裕太「うん、それも聞いた。あいつ、昔から女の子が寄ってくるタイプで、自分が口説けば誰でもモノにできると思ってたみたいで・・・」
鈴井愛理「本当に最低っ!!」
高梨裕太「そうなんだけど・・・沙耶ちゃんのこと、本気で好きっぽいんだよね・・・」
「えっ!!!!!!」
高梨裕太「ちゃんと謝りたいっていうから、近くの公園で待たせてるんだ」
伊村沙耶「・・・愛理・・・どうしよ・・・」

〇住宅街の公園
和田隆「あっ!!」
伊村沙耶「・・・こ、こんにちは・・・」
和田隆「・・・来てくれて、ありがとう・・・」
伊村沙耶「裕太さんから、話は聞きました」
和田隆「あの・・・本当に・・・ごめんなさい!!」
和田隆「これ、お詫びのしるし・・・というか、俺の気持ち!!」
和田隆「いや、俺の気持ちっていうのは、まだ早い」
和田隆「本当に、いろいろすいませんでした!!」
  隆が深々と頭を下げ、バラの花束を沙耶に差し出した。
  その花束を見て、優しく微笑んだ沙耶は、ゆっくり近寄り受け取った。
伊村沙耶「花束なんて、初めて・・・」
伊村沙耶「あっ。でも・・・まだ隆さんのこと、すべては信用できないです」
伊村沙耶「だから・・・お友達でいいですか!?」
和田隆「もちろん!! お友達、がんばります!!」

〇教室
鈴井愛理「今日、おばあちゃん、退院なんだよね」
伊村沙耶「うん。もう家に着いてる頃だと思う」
鈴井愛理「あれ? バイブ鳴ってない!?」
伊村沙耶「私かな!?」
伊村沙耶「あっ、やっぱり、お母さんからだ」
  メッセージを見て、驚いた沙耶は、カバンを持って教室から駆け出した。

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