読切(脚本)
〇教室
内海先生「最近、テストの点数が下がってるけど 何かあったのか?」
内海先生「三者面談ではA大学を希望してたけど」
内海先生「このままじゃ危ないぞ」
A大学は私の希望じゃない。母の希望だ。
でも逆らえない。
あの時も、
私は頷くことしかできなかった。
滝川柚「スイマセン。最近、寝不足で・・・」
内海先生「勉強からの寝不足じゃなさそうだけど」
内海先生「俺には言えない事か?」
滝川柚「・・・」
内海先生「言いたくないなら無理しなくていい」
内海先生「ただ、言いたくなったら すぐに教えてくれよ」
先生の大きな手のひらが、
私の頭を優しく撫でる。
滝川柚(言いたい。言いたいけど・・・)
私はうつむいたまま、
頷くことしかできなかった──
〇大衆居酒屋
居酒屋店員「いらっしゃいませー!」
学校が終わると、私はこの居酒屋でアルバイトをしている。
店長「法律でも高校生は夜の十時までOKだしな」
店長はそう言って、酔っ払いの席にはつかないことを条件に雇ってくれた。
滝川柚「よし!今日も頑張って働くぞ!」
〇狭い裏通り
滝川柚(あー、バイト疲れたぁ)
酔っ払い1「あれー?こんな所に高校生がいる!」
酔っ払い2「ほんとだ!何してるのー?」
滝川柚(ヤバいっ。酔っぱらいだ!)
滝川柚「スイマセン。ちょっと急ぎますので・・・」
酔っ払い1「少しぐらいいいじゃーん。 俺らとお話しようよ~」
滝川柚(酷いお酒の匂い・・・。 どうしよう、怖い!)
内海先生「失礼。うちの生徒になにか用ですか?」
滝川柚「先生!」
「先生?やべ!行くぞ!」
酔っ払いが慌てて逃げていく。
内海先生「うちの制服を着た子がいるなと 思ったら・・・」
内海先生「柚、こんな所でなにしてるんだ」
滝川柚(先生、ちょっと怒ってる?)
滝川柚「あの・・・。バイトを・・・」
内海先生「バイト?」
内海先生「うちはバイト禁止じゃないけど、 でもなんで・・・」
滝川柚(これ以上、先生に嘘はつきたくない)
滝川柚「あの、実は・・・」
私は重い口を開いた──
〇住宅街の公園
内海先生「はい」
内海先生「これでよかった?」
滝川柚「はい。ありがとうございます」
二人揃ってコーヒーに口をつける。
内海先生「でもまさか、柚がメイクの専門学校に 行きたかったとはね」
内海先生「全然気づかなかったよ」
滝川柚「親は、私が友達の家で勉強してると 思ってるんです」
内海先生「そうか・・・。ご両親も知らないんだな」
滝川柚「ごめんなさい・・・」
内海先生「何ですぐ俺に相談しなかった?」
滝川柚「それは・・・」
内海先生「俺は頼りないか?」
滝川柚「違うんです!」
滝川柚「自分の夢を、 人に言う勇気がなかったんです・・・」
内海先生「そうか・・・」
内海先生「柚」
滝川柚「は、はいっ」
内海先生「俺はいつでもお前の味方だ。 それだけは、絶対に忘れるなよ」
内海先生「さて、親御さんも心配するし、 そろそろ行こうか」
先生はベンチから立ち上がると、
私に手を差し出した。
その大きな手に自分の手を重ねる。
先生の手はとても温かくて
なぜか心臓はドキドキしていた──
〇学校の昇降口
──翌朝──
〇学校の廊下
内海先生「おはよう」
滝川柚「先生、おはようございます」
滝川柚(昨晩のことを思い出すと顔が熱くなる!)
先生の顔を見ると、心臓がドキドキして
身体が落ち着かない。
滝川柚(私、どうしたんだろう)
校内放送「三年の滝川さんと内海先生は、 至急職員室まで来てください」
滝川柚(え、私?なんだろう・・・)
〇事務所
滝川柚「失礼します」
柚の母「柚!」
滝川柚「お母さん!?」
柚の母「あなた! 私に隠れてバイトしてたのね!」
教頭先生「お母さん。落ち着いてください」
滝川柚「何でバイトのこと知ってるの?」
柚の母「バイト先から連絡があったのよ」
柚の母「高校生をバイトさせてるって 苦情が来たから」
柚の母「今日から来なくていいって!」
滝川柚(あ・・・ 昨日の酔っ払いだ)
柚の母「勉強してるだなんて嘘ついて」
柚の母「何考えてるの!」
柚の母「あなたも担任でしょ! ちゃんと管理しなさいよ!」
内海先生「申し訳ありません」
滝川柚「先生は悪くないんだから 先生を責めないで!」
内海先生「いや、 滝川の異変に気づけなかった私が悪いです」
柚の母「本当よ! これでA大に落ちたらどうしてくれるの!」
滝川柚「・・・」
滝川柚(お母さん、 やっぱりA大に行って欲しいんだ)
内海先生「少し、よろしいでしょうか」
内海先生「柚はA大ではなく メイクの専門学校に行きたいんです」
内海先生「バイトも、専門学校の学費のためです」
内海先生「どうか、彼女の希望する進路を 認めて貰えないでしょうか」
柚の母「なっ!」
柚の母「柚!どういうこと!」
滝川柚「お母さん。ごめんなさい・・・」
柚の母「説明しなさい!」
滝川柚(怖い。声が出ない・・・)
滝川柚(えっ)
背中が温かい。
先生の大きな手が後押ししてくれている。
包まれるような温もりに
ざわついていた心が落ち着いていく。
滝川柚「すぅ」
私は大きく息を吸うと、
お母さんの目を見つめた
滝川柚「私、人にメイクをするのが好きなの」
滝川柚「だからちゃんと メイクの勉強をしたい」
滝川柚「専門学校に行かせてください!」
柚の母「柚!」
内海先生「滝川さん。 柚は去年の文化祭で クラスのメイクを担当してました」
内海先生「みんな、柚のメイクを とても喜んでいましたよ」
滝川柚(先生、 文化祭のメイクのこと知ってたんだ・・・)
内海先生「クラス全員が笑顔でした」
内海先生「その笑顔は、柚が引き出したんです」
内海先生「私からもお願いします。 柚の夢を応援してあげてください!」
柚の母「・・・」
柚の母「柚に、そんな事ができるなんてね・・・」
柚の母「・・・もういいわ。 あなたの好きにしなさい」
滝川柚「お母さん!ありがとう!」
〇大きな木のある校舎
──卒業式──
〇中庭
滝川柚「本当にお世話になりました」
内海先生「専門でも頑張れよ」
滝川柚「はい」
滝川柚(もう先生に逢えないんだ・・・)
滝川柚(そんなの・・・嫌だ)
滝川柚「せん・・・」
内海先生「柚」
滝川柚「は、はいっ」
内海先生「お前は頑張り屋だから。 夢を叶えたら」
内海先生「がむしゃらになって たくさんの人を笑顔にするんだろうな」
内海先生「でも、もし」
内海先生「毎日走り続けることに疲れたら」
内海先生「またあの公園で話をしよう」
内海先生「だから、もしまた会えたら・・・」
内海先生「・・・」
内海先生「その時は、柚を抱きしめたい」
滝川柚「え・・・」
内海先生「・・・」
内海先生「なーんてな!」
内海先生「柚、絶対に夢叶えろよ!」
滝川柚「はい!」
私と先生のラブストーリーは
まだまだ先になりそうだ──
親に圧迫されて、押し潰されそうになった自分の夢や将来、それを理解し助けてくれる先生。こんな先生と出会いたかったなぁ(遠い目)
自分の夢を追いかけて、ちゃんと努力してる彼女はとても魅力的で…いつか先生と結ばれるといいなぁと思いました。
先生も優しく背中を押してくれて、こんないい先生って素敵ですよね。
「いい子」になってしまうと本当の気持ちをたとえ親にでも誰にも言えなくなってしまうのですよね。親の期待に応えたい柚の気持ちと自分自身の進みたい道との葛藤に、背中を押してくれた先生は優しいですね。こんなにあたたかく包み込んでくれる先生がいたらなぁ……なんて思いながら、若い頃を思い出しながら拝読させていただきました。
ありがとうございました😊