エピソード2(脚本)
〇総合病院
伊村沙耶(おばあちゃん・・・おばあちゃん・・・)
母からの電話で、祖母が倒れたことを知った沙耶は、救急病院に急いだ。
伊村沙耶(なんで!? どうして!? 昨日までなんともなかったし、朝だって、あんなに元気そうだったのに・・・)
〇病院の廊下
緊急入口から入ると、すぐ目の前に神妙な面持ちの父と、うなだれた母を見つけた。
私の足音に気づいた父が、一瞬で鬼のような形相になる。
伊村裕次「沙耶、こんな遅くまで何してたんだ」
伊村沙耶「そんな遅くないし!!」
沙耶は、父の勢いに押され、とっさに反抗的に言葉を発してしまった。
その一言にカチンときた裕次は、思わず沙耶のほおを平手打ちする。
沙耶は左ほおに手を当て、裕次をにらみつけた。
伊村沙耶「そういうのが、うざいんだよ」
伊村裕次「何!!!!!!」
伊村雅子「あなた、やめて! こんな時に・・・」
裕次は沙耶を叩いた手を握りしめ、気持ちを落ち着かせようとその場を離れた。
伊村真斗「お姉ちゃん。おばあちゃんが、突然胸を押さえて、倒れちゃったんだ・・・」
雅子のそばでうたた寝をしていた真斗が目を覚まし、必死な形相で言った。
伊村沙耶「おばあちゃんは? おばあちゃんは?」
伊村雅子「今、手術してる・・・。沙耶には言ってなかったけど、おばあちゃん、一度倒れたことがあって、ずっと心臓の薬飲んでたの・・・」
伊村沙耶「なんで言ってくれなかったの?」
伊村雅子「ちょうど沙耶の高校受験の頃でね・・・おばあちゃんが言わないでって・・・」
うつむいた沙耶の手を、雅子がギュッと握る。その手に真斗も手をのせた。
〇病室
緊急手術を終えた里子が呼吸器をつけ、ベッドに寝ている。裕次、雅子、沙耶、真斗の4人が、里子を心配そうに見つめる。
医師の植松が病室に入ってきた。
伊村裕次「先生、母はどうなんですか?」
植松俊史「手術は成功しました。しかし意識が戻らないことには、なんとも・・・」
沙耶が里子の右手を両手でギュッと握り、植松を見る。
伊村沙耶「おばあちゃんは助かるんですよね!?」
伊村真斗「おばあちゃん、死なないよね!」
植松俊史「今はおばあちゃんの生命力を信じましょう」
そう言った植松は、沙耶、裕次、雅子、真斗を見て、軽く会釈をし、静かに病室をあとにした。
伊村雅子「今日は夜も遅いし、とりあえず沙耶と真斗は帰りなさい」
伊村沙耶「・・・やだ・・・もう少し、おばあちゃんの側にいたい!!」
伊村真斗「僕も!!!!!!」
里子の手を離さない沙耶。雅子は、その手に白地のハンカチがあるのに気づいた。
伊村雅子「そ、それ・・・おばあちゃんの刺繍したハンカチ!? 沙耶、気に入らないから使いたくないって・・・」
伊村沙耶「つ、使ってはないよ。お守り代わりにいつも持ってる・・・」
雅子は裕次と顔を見合わせた。
伊村沙耶「おばあちゃん、助かるよね。死なないよね」
伊村裕次「沙耶・・・俺たちはもう祈るしかない」
裕次は沙耶の肩に手をおき、ささやいた。
伊村雅子「あなた、沙耶と真斗を家に連れ帰って。私が残るから。何かあったら、すぐ連絡する」
伊村裕次「わかった・・・沙耶、真斗、行こう!!」
裕次は沙耶と真斗を連れ、病室を出ていった。雅子は、これから起こるだろう最悪の事態を想像し、深いため息をついた。
〇病室
伊村沙耶「おばあちゃん、目覚めないね・・・」
あれから3日が経った。里子は今だ目を覚ます気配がない。沙耶は毎日学校帰りにお見舞いに来ていた。
伊村沙耶(・・・あの朝、ふてくされて、おばあちゃんの言葉、無視しちゃった。あれが最後の会話なんてことないよね・・・)
雅子がふと時計を見て話し始めた。
伊村雅子「沙耶、塾の時間じゃないの?」
伊村沙耶「そうだけど・・・」
伊村雅子「おばあちゃん、いつも言ってたわ。沙耶はやればできる子だ・・・頑張れる子なんだ・・・って・・・」
沙耶は里子を見つめた。
伊村雅子「何かあったら、すぐ連絡するから」
伊村沙耶「わかった・・・」
沙耶は後ろ髪をひかれながら病室を出た。
〇病院の待合室
沙耶はため息をつきながら歩いていた。
和田隆「おい!」
和田隆「なぁ、おいってば!!」
急に右手を誰かにつかまれた沙耶は、ビクッとしながら振り返った。
そこには、カラオケで愛理に紹介された隆がいた。
和田隆「俺、お前のせいで、まだ背中痛いんだけど・・・」
伊村沙耶「ご、ごめんなさい・・・あの・・・なんていうか・・・驚いちゃって・・・」
和田隆「慰謝料でも払ってもらおうかなぁ」
伊村沙耶「す・・・すいません。病院代、払えばいいですか?」
和田隆「いやいや、お金じゃなくてさぁ〜」
隆は沙耶を、エスカレーターの下の、ちょうど死角になるところに引っ張り込んだ。
和田隆「この前の続き、ここでしてもいいんだぜ」
隆は片手で沙耶の両手をつかみ、もう一方の手で沙耶の口をふさいだ。
鈴井愛理「沙耶に何してるの!!」
愛理が突然現れ、学生カバンを隆の背中に叩きつけた。不運なことに、カバンの角が隆の背中にまたもや衝撃を与えた。
和田隆「あっ・・・いってぇ──!!」
愛理は沙耶の手を取り、走りだした。
〇公園通り
全速力で走った沙耶と愛理は立ち止まり、息を切らしながら、お互いを見つめた。
鈴井愛理「沙耶、この前はごめんね。沙耶に元気になってほしくて、彼に男の人紹介してもらったんだけど、あんな人だと思わなかった!!」
伊村沙耶(えっ!? 私、愛理がわざと意地悪して、あの人を紹介したんだと思ってた・・・)
鈴井愛理「なんかさぁ〜。沙耶、1年の時から一緒だけど、そばにいるのにそばにいないっていうか・・・」
伊村沙耶「そ・・・そんなことないよ」
鈴井愛理「だからダブルデートとかしたら、もっと沙耶と仲良くなれるかなぁ〜って思ったんだ」
伊村沙耶(えっ!? そんなこと、考えてくれてたの?)
鈴井愛理「でも、あの人、本当に最低!! 裕太くんにも怒っておいたから!」
愛理が両手を広げ、沙耶に抱きついた。
鈴井愛理「本当にごめん・・・」
伊村沙耶(・・・愛理のこと、私、ずっと誤解してた)
伊村沙耶「助けてくれてありがとう、愛理・・・」
鈴井愛理「泣かないでよ・・・沙耶が泣いたら、私も泣けてくるじゃん」
すると、沙耶のカバンの中に入っていたスマホのバイブが鳴る。スマホを取り出してみると、母からのメッセージが見えた。
伊村沙耶「えっ!? やだ!!」
何があったんでしょう?続きが気になります!お守り代わりに…という言葉で優しい気持ちになりました。沙耶ちゃんの言動の端々におばあちゃんへの想いがひそんでいて、応援したくなります。お友達とも本当にお友達になれてよかったです。隆くんも本当は悪い人じゃないなら改心してほしいです!
しっかり重みのある文章で、真剣なシナリオとの相性が良かったなと思いました。心にグッと来る文章。シナリオの展開も現実味があり、浮き上がらない安定感が読んでいて好ましかったです。
タップの弱点。
タップノベルは1ページに表示される文字数が短いので、長文が書けず余韻を生みにくいですよね。じんわりさせる難しさ。反射で捲ってしまいますし。
真面目な作品ほど不利と言うか難しくなるんだろうなと思わされました。