十階のノックス

わらやま

解決編(脚本)

十階のノックス

わらやま

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〇作戦会議室
  事件翌日
西岩 家屋(うう、一体何なんだ・・・。 何故私が疑われる・・・。 和十村君がいないとはどういうことだ・・・)
  ガチャ
???「あなたが西岩さん・・・ですね?」
西岩 家屋「ああ・・・おや? ロストレード警部ではないんだな」
???「西岩さんの疑いは晴れました あなたは釈放されます」
西岩 家屋「ほ、本当か!? では事件の真相が分かったのか!? 和十村君も見つかったのか!?」
???「落ち着いてください。 順番に説明します」
???「──その前にまず自己紹介なのですが」
???「私があなたに手紙を出した、 ベイカービルディング10階に住むノックスです」
西岩 家屋「は!?」
西岩 家屋「一体どういうことだ!?ベイカービルディングの10階の住人には昨日全員に会っているぞ!!」
ノックス「・・・そもそも前提として、今回事件があった階。 あそこは9階です」
西岩 家屋「そんな馬鹿な!!私は確かに階数を数えながら上ったのだ!!間違いなく、あそこは10階だった!!」
ノックス「・・・イギリスと日本では、建物の階数の数え方が異なるのです」
西岩 家屋「な!?」
ノックス「あとアメリカや中国も日本と同じですね」
ノックス「イギリスの1階は、地上のひとつ上の階を指します。なので、ベイカービルディングは10階建ての建物で私は最上階に住んでいます」
西岩 家屋「知らなかった・・・ そんな単純な話だったとは・・・ いや、待てよ」
西岩 家屋「ノックスという人物はベイカービルディングでは殺されたノックス氏しかいないと聞いたが!!」
ノックス「ええ・・・ 実は私はベイカービルディングでは偽名で暮らしています」
ノックス「なので、他の住人には私はノックスだと認識されていなかったんです」
西岩 家屋「なるほど・・・。 これで合点がいったよ」
西岩 家屋「それで事件が解決したとは!? 和十村君は一体どこにいるんだ!?」
ノックス「おっと!! 積もる話はここではなんなので、私の家に行きましょう」
ノックス「手続きは済んでいますので・・・。 行きましょう。 ベイカービルディングの10階へ」

〇英国風の部屋
ノックス「さて、どこからお話したらいいものか・・・」
ノックス「まずは今回の事件の真相からお話しましょうかね」
西岩 家屋「ああ、それは大変気になっている。 虎さんは明確な殺意があった。 なのに殺人自体は否定している・・・」
ノックス「私は昨日は不在にしており、今日我が家に戻ってきました」
ノックス「そこで今回の事件を知り調査をしました」
ノックス「結論としては、今回のノックス氏の死は事故だったのです」
西岩 家屋「事故だと!?」
ノックス「ええ。 強いて犯人がいるとすれば、コイツです」
西岩 家屋「ネズミ!?」
ノックス「ロンドンはネズミが多い町です。 この建物もかなり老朽化しているため、ネズミの住処になっています」
ノックス「それは通気口の中も例外ではありません」
ノックス「ノックス氏が阿片を吸おうとした際に、通気口からネズミが落下し、驚いたノックス氏は阿片を強く吸い込みました」
ノックス「結果、急速に中毒症状に陥り、幻覚が見え、足元がふらつき・・・」
ノックス「鉄球に頭をぶつけて即死した」
ノックス「これが今回の事件・・・いえ、事故の顛末です」
西岩 家屋「だが、虎さんは私が推理を披露していた時に明らかに動揺していたぞ・・・」
ノックス「それは西岩さんの推理通りの犯行をいずれ実行しようとしていたからです」
ノックス「窓から逃げようとしたのも、警部に調べられたらいずれにせよ捕まると思ったからでしょうね」
ノックス「彼女の部屋からあなたの推理した毒薬も見つかりました」
ノックス「既に虎さんは意識を取り戻しており、阿片販売についても自供しています」
西岩 家屋「そうだったのか・・・」
西岩 家屋「ところで、何故昨日のやり取りを知らないあなたがそこまで明確に真相に辿り着けたのだ?」
ノックス「ええ、それについても説明します」
ノックス「私は触ったモノの記憶を読み取ることが出来る『サイコメトリスト』なのです」
西岩 家屋「なっ!?」
ノックス「そのため、現場をサイコメトリーで調査して、真相に辿り着いたという訳です」
西岩 家屋「そんな能力が実在するなど、 俄には信じがたいが・・・」
ノックス「・・・当然の疑問ですね。 では証明します。 あなたの外套を触らせて下さい」
ノックス「なるほど・・・。 この外套はあなたがシアトルで暮らしていた際に購入した一品ですね」
西岩 家屋「な、何故それを!? 和十村君にしか言ったことのない話だぞ」
ノックス「これが私のサイコメトリーの力です」
西岩 家屋「とんでもないな・・・。 まるで和十村君の嘘を見破る能力のようだ」
西岩 家屋「そうだ!! 和十村君は!? ロストレード警部は和十村君はいないなんて言うんだ。私を犯人だと疑っていたからってあんまりだ」
ノックス「その事についてですが・・・」
ノックス「今ほど外套をサイコメトリーして確信も持ちました」
ノックス「西岩さんにとっては酷なお話となるかも知れませんが・・・」
ノックス「和十村という人物は実在しません。 あなたの頭の中の空想上の存在です」
西岩 家屋「なっ!?」
ノックス「最近の精神医学学会で提唱されている概念でいう『イマジナリーフレンド』と呼ばれるものです」
西岩 家屋「そんな・・・ 和十村君とは会話も出来たし、姿も見えたぞ!!」
ノックス「それはあなたが強く思い込んでいたためです。 和十村という相棒が存在すると・・・」
ノックス「脳が都合よく解釈したのです。 思い出してみてください。 交通費や話している相手の反応に不自然な点がなかったですか?」
西岩 家屋「う・・・ そう言われると、心当たりはある・・・」
西岩 家屋「だが、和十村君は私の相棒として、私が、気づかなかったことへの助言や、相手が嘘をついているかどうか教えてくれたぞ」
西岩 家屋「それについてはどう説明するんだ!?」
ノックス「簡単な話です。 和十村氏の異常なまでの観察力は・・・」
ノックス「西岩さん、本来あなたの能力なんです」
西岩 家屋「私の能力だと!?」
ノックス「ええ。 あなたは元来、通常の人間の何倍もの観察力を持っていた。僅かな表情筋の動きなどから嘘を見破れるほどの・・・」
ノックス「ですが、それは同時に悪意を人一倍受信してしまうということでもあります」
ノックス「高すぎる知能に僻む周囲の人間、嘘で塗り固められた関係、そしてそれを見抜けてしまう異能・・・ 地獄の日々だったはず」
ノックス「あなたは自己の精神安定のために、まるであなたという存在を2つに分けたかのような相棒・・・」
ノックス「和十村氏という存在を作り上げたのです・・・」
ノックス「これも先程のサイコメトリーで見えたことです。人と違い、モノは嘘をつきません」
西岩 家屋「そんな・・・。 私が和十村君を生み出した・・・!?」
西岩 家屋「仮にそうだとしても、何故今は私の前に現れないんだ!! 昨日から一度も姿が見えないんだ」
ノックス「イマジナリーフレンドは、精神が極度の混乱状況にある時、物理的な閉鎖環境にいて出現すると不自然な時、 そして・・・」
ノックス「その存在を他者に指摘され、イマジナリーフレンドであることを自覚した際には出現しなくなると言われています」
西岩 家屋「!!!!」
西岩 家屋「そうか・・・ そうなのか・・・ 残念だが、納得してしまった・・・」
西岩 家屋「和十村君は・・・もういないのだな」
西岩 家屋「私の中にさえも・・・」
ノックス「・・・私としてもこのような話をあなたにするのは大変心苦しいのです」
ノックス「ですが、この後の本題のためには、どうしても真実を伝える必要があった」
西岩 家屋「本題──と言うと?」
ノックス「ええ、それは私が手紙を出してまであなたとお話したかったことです」
西岩 家屋「私の秘密を知っている・・・というやつか」
ノックス「ご名答です」
ノックス「西岩さん 率直に申し上げますが、あなたの小説の作風を早急に変えないとあなたの身が危険です」
西岩 家屋「どういうことだ!?」
ノックス「西岩さんの作品に出てくる探偵と相棒は明らかに超自然的な解決方法をとっております」
ノックス「これは、現実の探偵業の経験を創作に活かしているからなのでしょう」
ノックス「相棒が嘘を見破る能力がある前提で捜査が進んでいくというこの作風」
ノックス「フィクションであるにしても、常人の発想では書くことが出来ない内容なのです」
ノックス「もちろん、一般読者はただのエンターテイメントとして受け入れていますが」
ノックス「私のように能力のある人間、または能力者を探している人間が読むと、西岩さんの能力に気づく可能性があります」
ノックス「事実、私はあなたに何らかの能力があることに気付き、手紙を送りました」
西岩 家屋「能力者を探している人間・・・!? そんな存在がいるのか!?」
ノックス「ええ、我々の持つ能力を悪用しようと思う人間がいるのです」
ノックス「私も数年前、とある組織に監禁され、彼らの悪事に利用されるところでした」
ノックス「何とか能力を使い逃げられましたが、それ以来、偽名を使ってこのベイカービルディング10階で静かに暮らしています」
西岩 家屋「そうだったのか・・・ だがまさか、私の文章だけでそんな事・・・」
ノックス「西岩さんが思うより文章というのはその人の性格や性質が出るのですよ」
ノックス「そして芸術家や作家といった職種の人間は秀でた才能を持つものが多く、能力者である可能性が高い」
ノックス「故に狙われる危険が高いのです」
西岩 家屋「確かに我々の能力は悪用すると大変危険だ・・・」
西岩 家屋「しかし作風を変えるといってもどうすれば・・・」
ノックス「そこで私はひとつ対策を用意しました。 こちらです」
西岩 家屋「これは・・・本!? タイトルは『ノックスの十戒』・・・!? 一体これは何だ!?」
ノックス「それは推理小説で控えるべき描写を、10種類箇条書きでまとめたものです」
ノックス「この『ノックスの十戒』に沿った物語作りを心がければ、我々の能力に気づかれるリスクを減らせるはずです」
西岩 家屋「なるほど・・・どれどれ・・・」
西岩 家屋「確かに私の普段の小説はこれらが守られていないな・・・」
西岩 家屋「そして奇しくも今回の騒動は全て抵触している・・・」
ノックス「ええまあ、それは全くの偶然だった訳ですが・・・」
西岩 家屋「だがこの十戒は絶対に守るべきだと私も思うぞ!!」
西岩 家屋「それに・・・ これを守るということは、作品の面白さにも繋がるのではないか!?」
ノックス「さすがは西岩さん・・・そこに気づくとは!!」
ノックス「現在、推理小説は盛り上がりを見せていますが、いつかトリックやシチュエーションは飽和する時が来るでしょう」
ノックス「目の肥えた読者は、より高度な推理小説しか読まなくなり、物語の破綻を嫌うようになる」
ノックス「『ノックスの十戒』は物語の破綻を回避するガイドラインの役目も果たせるんじゃないかと考えています」
西岩 家屋「ああ!!私もそう思う!! 日本に帰ったら『ノックスの十戒』を意識して小説を書いてみるよ」
ノックス「ええ、私も進化した先生の作品を楽しみにしています」
西岩 家屋「ああ!! 忙しくなるな!! 頑張るぞ和十村君!!・・・」
西岩 家屋「あ・・・」
ノックス「西岩さん・・・。 確かに和十村氏は消えてしまったかもしれない」
ノックス「しかしあなたが彼と過ごし、難事件を解決してきた日々は決して偽りではありません」
ノックス「あなたはさっき心の中からも消えたと仰りましたが・・・」
ノックス「きっと和十村氏はあなたと共にありますよ」
西岩 家屋「ノックスさん・・・ ありがとう」

〇古風な和室
  ノックスさんと別れ日本に帰った私は『ノックスの十戒』のルールに沿った推理小説を発表した。
  作風の変化に読者は驚いたようだが、以前より発行部数は好調だ。
  探偵業については休止している。
  専ら作家業に精を出している今、私の元には以前の倍以上のファンレターが届く。
  たが、今日届いた手紙は毛色が違った・・・
  『私は貴殿の秘密を知っている者。出来ればもう一度話がしたい。日本で。』
  ベイカービルディング10階のノックスより
西岩 家屋「ふっ、なんだこれは。彼らしいユーモアだ。 素直に遊びに行くと書けばいいのにな!! なあ、和十村君・・・」
西岩 家屋「・・・久しぶりにやってしまった。 ノックスさんからの手紙を読んだからだな」
西岩 家屋「さて、ノックスさんに返事でも書くか。 ええと、便箋はどこにしまったかな・・・」
和十村「先生・・・ 私はずっとおそばにいますよ」
和十村「先生がまた辛くなって心が折れそうになったら・・・」
和十村「私はいつでも現れます。 だって私は──」
和十村「先生の相棒なのだから」

コメント

  • 面白かったです。特にワトソンくんとの絡みは良かったです。架空の存在との友情というか、ジーンと来ました。
    これはいいものです。

  • ここでノックスの十戒に繋げてくるとは🙌✨
    コメディチックな前半から、不穏な展開を見せる中盤、階数の違いというラストまできれいな流れで繋がっていて面白かったです😊 最後の和十村くんにはジンときました✨

  • 隠された要素が多くて、これでは真相にたどり着けない…
    いわゆる叙述ミステリーってやつですね

    “ノックスの十戒”誕生の前日譚であることに驚きました
    面白かったです

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