第一話 「秘密のお嬢様」(脚本)
〇名門の学校
私立静ヶ丘学園。
今年、開校されたばかりの女学校である。
通う生徒のほとんどは地位や財のある家の選りすぐられたお嬢様ばかり。
そして今日、新たな生徒が学園にやって来た。
???「ここが静ヶ丘学園か・・・」
???「喝ッ!」
???「・・・よし、気合いも入った。 いざ、参る!」
〇おしゃれな教室
その日、私が教室に入ると、クラス全体が何やらざわめいていた。
本条美弥子「おはよー! ・・・あれ? 私の隣に席がひとつ増えてる?」
秋川玲衣「おはよう美弥子(みやこ)さん」
秋川玲衣「その席は、今日来る転校生のために用意されたもののようですわ」
本条美弥子「転校生!?」
本条美弥子「また唐突っていうか、中途半端な時期に来たね・・・」
秋川玲衣「ふふ、いったいどんな方なのかしら?」
本条美弥子「できれば私より背の高いボーイッシュな子希望かな~・・・」
秋川玲衣「あら?」
秋川玲衣「もしかしてこの前、一緒にブティックでお買い物をした時のことを気にしていらっしゃるの?」
本条美弥子「そりゃ気にするっての! まさか玲衣(れい)の彼氏に間違われるなんて・・・」
本条美弥子「わああん! 女の子らしくなりたいよ~!」
秋川玲衣「でも美弥子さんは、すでに十分可愛らしくてよ?」
秋川玲衣「そのままでも魅力的ですわ」
本条美弥子「いーや! せっかく死ぬ気で勉強して静ヶ丘に特待生入学したんだもの!」
本条美弥子「何が何でもおしとやかになったるわ!」
秋川玲衣「ふふ、さっそく男らしくなってますわ」
その時、チャイムが鳴ったので私達は席に着いた。
クラスはまだ見ぬ転校生の話題で少し騒がしい。
ほどなく、先生が教室に入ってきた。
先生「おはようございます。今日はこのクラスに新しい生徒が来てくれました」
先生「月ノ宮(るなのみや)さん、お入りなさい」
ズズーン・・・
本条美弥子(ん? 今、地鳴りがした・・・?)
月ノ宮拓海「失礼する」
本条美弥子「うおっ!?」
呼ばれて入ってきた彼女は身長約2mはあろうかと思われる大女(?)だった。
先生「月ノ宮さん、皆さんにご挨拶を」
月ノ宮拓海「今日から世話になる月ノ宮拓海(るなのみやたくみ)だ」
月ノ宮拓海「気軽にルナルナとでも呼んでくれ」
本条美弥子(声野太っ!? ってか、どう見てもあの人・・・!)
秋川玲衣「まあ! なんて立派な体格! 何かスポーツをやっていらっしゃるのかしら?」
本条美弥子(いや男だろ! ・・・だよね?)
先生「今日からよろしくお願いしますね。 あなたの席は本条美弥子さんの隣です」
本条美弥子(そうだった・・・私の隣だった・・・!)
月ノ宮拓海「本条さん、よろしく」
本条美弥子「ど、ども・・・!」
本条美弥子(圧すごっ・・・!)
本条美弥子(やっぱこの人・・・いや、男って決めつけちゃダメだよね)
本条美弥子(そもそもここお嬢様学校なんだし)
本条美弥子(・・・ん? なんか小声でブツブツ言ってる?)
月ノ宮拓海「・・・ぬうっ、スカートがキツイな。 やはり股の間に布が無いのは心もとない・・・」
月ノ宮拓海「・・・そして女人の下着は俺には小さすぎる、破裂しそうだ・・・!」
月ノ宮拓海「女人の道とはけわしいものだな。 負けるな拓海・・・!」
本条美弥子(ディズイズ男、ヘルプミー)
本条美弥子(いや、現実逃避をしちゃダメだ!)
本条美弥子(そもそもなんで男子がお嬢様学校に来るの? 怪しすぎるでしょ・・・)
本条美弥子(よし、何が目的なのか突き止めてやろう!)
〇おしゃれな教室
クラスメイト「月ノ宮さんのプロポーション素敵ねえ。 何か秘訣はありますの?」
月ノ宮拓海「毎日武術の稽古を続け、筋トレ後はプロテイン、月に2度は滝行をしている」
クラスメイト「まあ! 月ノ宮さんって筋トレ女子でしたのね!」
クラスメイト「月ノ宮さーん! 先ほどのアンケートの性別欄の記入が男子になっていましてよ?」
月ノ宮拓海「ぬあっ!? 俺・・・いや、私としたことが!」
クラスメイト「うふふ、うっかりやさんなのね。 可愛らしいわ♡」
秋川玲衣「ふふ、どうやら月ノ宮さんは美弥子さん以上にボーイッシュな方のようですわね」
秋川玲衣「・・・あら? 美弥子さん、どうかなさった?」
本条美弥子「ツッコミが追いつかない、間に合わない、もう手に負えない・・・」
〇明るい廊下
本条美弥子(みんな、恐ろしいほど普通に受け入れてる・・・)
本条美弥子(それとも私の目が節穴なのかな・・・?)
月ノ宮拓海「本条さん、少しいいか?」
本条美弥子「えぇっ!? な、何・・・?」
月ノ宮拓海「男子トイレはどこだろうか?」
本条美弥子「え? この階にはないけど、共同トイレなら向こうにあるよ」
月ノ宮拓海「ありがとう。助かった」
本条美弥子「・・・・・・」
本条美弥子「やっぱり男じゃねーか!?」
〇ビルの裏通り
本条美弥子「つ、疲れた・・・」
秋川玲衣「あら? はしゃぎすぎまして? ふふ、新しいお友達のおかげかしら?」
本条美弥子「いや月ノ宮さんのおかげっていうか、せいっていうか・・・」
チャラい男「お、カワイー! もろタイプ!」
チャラい男「お姉さん♪ 俺達とお茶のまな~い♪」
秋川玲衣「・・・え? なんですの、あなた方?」
本条美弥子「あっち行って」
本条美弥子「さすがにこんな薄いモブ野郎まで相手してらんないっての・・・」
チャラい男「なんだとてめぇ?」
チャラい男「女装して彼女を守ろうって魂胆だろうがそうはいかねぇよ!」
本条美弥子「誰が女装だ! そもそも、んなややこしい保護する彼氏がいるか!」
チャラい男「くそっ、うるせえぞ!」
本条美弥子「きゃあっ!?」
秋川玲衣「美弥子さん!? 乱暴はよして!」
なおも私に暴力をふるおうとする男。
だがその時、何者かが庇うようにして私の前に立ち塞がった。
月ノ宮拓海「──そこまでだ!」
本条美弥子「え! る、月ノ宮さん・・・?」
チャラい男「で、でけぇ・・・! 誰だか知らねえが邪魔するなら容赦しねえぞ!」
チャラい男「怯むな! スカート履いてるしこいつは女だ! やっちまえ!」
本条美弥子(納得できねー!)
男たちが月ノ宮さんに襲いかかる。
チャラい男「な、なんだコイツ・・・!? 確かに当たったのに手ごたえがねえ!?」
月ノ宮拓海「本人と残像の区別がつかぬか・・・」
チャラい男「俺のマッハパンチが受け流されただと・・・!?」
月ノ宮拓海「もうこれで終わりだ、男の風上にもおけぬ外道め! 今、成敗してくれる!」
月ノ宮拓海「喝術三十三段『喝砲』!」
月ノ宮拓海「喝ーーーーーーッ!!」
「ぎゃあああああ!?」
本条美弥子「ええーー!? 触れずに声だけで!?」
秋川玲衣「まあ! まるで強風にあおられた看板のように飛んでいきましたわ!」
だけど、吹っ飛んだのは男達だけではなかった。
月ノ宮拓海「ふたりとも、大丈夫か?」
本条美弥子「あ、ありがとう。あの・・・」
月ノ宮拓海「驚かせてしまったか?」
月ノ宮拓海「心配するな、今のは・・・そう、護身術! 護身術なんだ!」
本条美弥子「そうじゃなくて・・・制服が破けて、上半身が裸になってて・・・その・・・」
月ノ宮拓海「・・・・・・」
本条美弥子「・・・・・・」
月ノ宮拓海「・・・隠していてすまない」
月ノ宮拓海「実は俺は男なんだ・・・!」
本条美弥子「知ってたよ! あと最初から隠れてないよ!」