駅前広場の片隅で(脚本)
〇新橋駅前
荒井裕也「ハァ・・・ハァ・・・」
パチ・・・パチ・・・パチパチパチ・・・
片山 恵「君・・・カッコいい! お兄さん見入っちゃった!」
荒井裕也「お前誰・・・てかおい!拍手やめろ! 人が見てんだろ!」
片山 恵「なんで?めちゃくちゃよかったよ。 ブレイクダンス少年☆」
荒井裕也「は?高3だっつーの!」
片山 恵「うっそ~!背160ちょいでしょ? ほら、僕より20㎝は低いし~」
荒井裕也「ぐぐぐ・・・何なんだよ初対面で!」
これが俺とアイツー
片山恵の出会いだった。
〇教室
「あぁ~偏差値足りない・・・ わ、俺A判定!」
あ~マジうっせえ。帰らせろよな・・・
高3の春、帰りのHR。
模試の結果に一喜一憂するクラスメイト。
俺には全く無縁だ。
俺のテストの学年順位は、ケツから数えた方が早い。
教師「荒井!進路の事・・・ 進学なり就職なり、ご両親とちゃんと話しなさい」
そんな両親は医者、兄貴は医大生だった。
母「裕也、恥ずかしくないの? お兄ちゃんはずっと学年トップよ?」
父「世の中はな、お前みたいなクズが生きてられる程甘くないんだよ」
荒井裕也「・・・」
いつしか俺は、家の外で時間を潰すようになった。
〇新橋駅前
一か月前の帰り、駅前広場を通った時。
♪ズンチャッズンチャッズンチャッ
荒井裕也(何だあれ!?すっげえ―)
全身全霊で踊る男。
逆立ち。身体をねじって跳躍。バクテン。
ブレイクダンスとの出会いだった。
というか、虜になった。
それからは練習の毎日。
その男と同じ場所で、動画が先生代わりだった。
♪チャカチャカチャカチャカ ズンッズンッ
少しずつだが、音楽についていける部分が日々増える。
汗だくなのに気持ちいい。
一つずつできるようになる快感。
気付いた。自由なんだぜ、踊ってる時は。
家、学校、勉強、部活。
何にも吹っ切れられず逃げてきた情けない自分からも。
誰に評価されずとも、心から楽しい。
こんなの初めてだ。
アイツが俺の唯一の観客になったのは、
その頃だった。
〇新橋駅前
荒井裕也(ったく、2週連続で来てやがる。 モデル事務所のスカウトマンって、どんだけ暇人だよ)
荒井裕也(モテそうな顔。渋谷とか三軒茶屋でもふらついてそうな奴だぜ)
荒井裕也(30近い男が体育座りするか? 広場の端っことはいえ。 人が真剣に踊ってんのににこにこしやがって)
荒井裕也「ていうかアイツに精神乱されてんな! 集中だ集中!」
片山 恵「荒井君お疲れ!今日もすっごく良かった! ところでさ、一つ提案があるのだけど、 うちのモデル事務所に来てみない?」
荒井裕也「は?」
片山 恵「モデルになってみない?ってこと。 働くの。 そしたら、大学とか考えなくていい!」
荒井裕也「テメエ、馬鹿にしてんのか?チビな俺が―」
片山 恵「違う違う!モデルの魅力が背だけで決まる時代じゃないよ。荒井君の真摯なオーラというか、全力のパフォーマンス・・・」
片山 恵「感動したもん。 頑張り屋なんだね」
荒井裕也「そ、そんな―」
片山 恵「さあ、ご飯行こ。話聞かせて」
普段の俺なら絶対関わらないタイプの人間、だったんだが。
店への道すがら、店でステーキセットを食う間も、いつの間にか俺は過去をを話していた。
「未来」―
俺にもそんなもんがある―
かも知れねぇよな?
〇入り組んだ路地裏
21時に店を出、細い路地に入った時。
!?
気づくと俺は壁に圧し付けられていた―
片山 恵「裕也くん、君を知りたい。もっと―」
細い指が俺のシャツをたくし上げ、胸筋を撫でる。
熱い舌が俺の首筋をなぞった。
荒井裕也「ふっざけんじゃねえ!」
片山 恵「っ―ご、ごめん―」
荒井裕也「はぁ? てか、最初からこれが目当てだったのか。人を持ち上げといてよぉ」
荒井裕也「―ハッ!分かった。 俺を食い物にして、業績上げたかったんだろ? 図星だな?」
片山の瞳の奥が微かにブレた。
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何かを忘れるために、何かに熱中する姿には共感するものが有りました。惚れこんだ事はきっと本当だけれども、アプローチの方法を間違えてしまったんだろうな、と思いました。これから先、二人の距離が縮まる可能性もあると信じてます。
素敵な物語ありがとうございます!
中々素直ではないお二人ですね。
どうしても奥手奥手になってしまうと、お互いの距離は永遠と縮まりません。
きっと勇気を出して、声をかけたんだろうなぁ。
きっと今はまだ、彼にとってこういった恋愛の形は戸惑いなんでしょうね。踊っていたり何かに夢中になっていると嫌なことも忘れられるという気持ちがとてもよくわかります。