放課後の部室(脚本)
〇学校の部室
イチゴ「先輩」
イチゴ「TapNovel のコンテスト参加しませんか?」
先輩「ん~」
イチゴ「文芸部として何か活動しないと」
先輩「なあ、イチゴ?」
イチゴ「副賞で賞金も出る―― なんですか?」
先輩「このさ、 お題のキュンってどんな温度?」
イチゴ「・・・」
先輩「そもそも、キュンって何だろ」
イチゴ「本気で言ってます?」
先輩「え、イチゴわかるの?」
イチゴ「それは、まあ もしかして、先輩はキュンってなったこと・・・」
先輩「あったら聞いてねーってば どんな現象?」
イチゴ「え” 私に説明させる気ですか?」
先輩「だってわかんねーもん」
〇ゆめかわ
イチゴ「えっと 心が」
イチゴ「キュン!」
イチゴ「って高鳴ることです」
〇学校の部室
先輩「不整脈?」
イチゴ「違ッ」
イチゴ「脈じゃなくて心ですってば」
イチゴ「気になる人の仕草とか 言葉とか 視線、温もり」
イチゴ「ささいな出来事に感じちゃって 惹かれちゃう時の心の様子というか」
イチゴ(めっちゃ恥ずかしいんですけど)
先輩「ふ~ん」
イチゴ「わ、わかりました?」
先輩「全然」
イチゴ「なんで!? 丁寧に説明してあげたのに!」
先輩「いや、具体性に欠け過ぎてない? それじゃ伝わらないって文芸部員」
イチゴ「うぐ」
先輩「もっと、こう」
先輩「実際に体験させてくれるとかさ」
イチゴ「運動部の体験入部じゃないんですよぅ」
先輩「じゃあ イチゴは誰のどんな所にキュンとしたの?」
イチゴ「いいッ 言えるわけないじゃないですか」
先輩「そのキュンっていう未確認怪奇現象は 恋愛感情の一種なんだよね?」
イチゴ「UFOみたいに言うのやめてもらえません?」
先輩「試してみたらわかるかな」
先輩「手を出して?」
イチゴ「え? はい」
握手
ブンブン
イチゴ「何してるんですか?」
先輩「手を握ってる 恋人同士でやってるじゃん」
・・・
先輩「これ、いつキュンってするの?」
イチゴ「するわけないじゃないですかー!」
先輩「何で怒るんだよ」
イチゴ「先輩はもっと恋愛もの読んでくださいよ」
イチゴ「キュンキュンするの貸しますよ?」
先輩「女の子向けでしょ、それ いいや」
先輩「う~ん キスしたらキュンってする?」
イチゴ「し、知りませんよ したことないんですから」
先輩「あと、なんだろ」
先輩「エッチなこと?」
イチゴ「それ、 私で試そうとしたら張り倒しますからね?」
先輩「あー、わかんねー」
先輩「無理 コンテストはパス」
イチゴ「え~」
先輩「わかんなかったら書けないよ」
イチゴ「それは・・・ そうかも」
〇学校脇の道
じんわりと
窓の外が赤く染まってゆく
かけがえのない今日を生きた命を慰める
柔らかな風が、
街路樹の若葉を撫でていった。
〇学校の部室
イチゴ「先輩はもう帰りますか?」
先輩「ん」
先輩「イチゴはまだ居る?」
イチゴ「私は来月の準備を少し」
先輩「来月ってまだ」
先輩「あれ きょう何日?」
イチゴ「29日、ですけど」
先輩「ぅえ! 今 17時半、やべ」
先輩「ごめん! ちょっと付き合って?」
イチゴ「なになに 何ですか?」
先輩「今夜 遠藤と予算の打ち合わせがあったんだよ」
先輩「アイツの所に行きたくないから 記憶から消えてた」
イチゴ「あれ? お二人は仲悪かったでしたっけ?」
先輩「悪くはないけど、なんか~ アイツ顔が良いからって 調子に乗ってモテてるし」
イチゴ(・・・)
イチゴ「嫉妬ですか?」
先輩「違う!」
先輩「女に囲まれてるのを見るとイラッとくるだけで」
イチゴ(嫉妬ですね~)
先輩「あ、 まさかイチゴも遠藤を好きだったりするのか!?」
イチゴ「違いますけど・・・」
先輩「良かった イチゴまでアイツをデレデレした目で見てたら、」
先輩「なんか、こう」
先輩「気持ちがムカムカして アイツをどつく所だったわ」
イチゴ(ん?)
イチゴ「それってどういう」
先輩「タイプじゃなきゃいいや ファミレスまでちょっと付き合って?」
イチゴ「私が居ても役に立ちませんよ~」
先輩「そんなことない」
先輩「イチゴが隣に居てくれると すっげー心強いんだよ」
先輩「安らぐって言うか 気持ちが落ち着くんだ」
イチゴ(ちょっ──)
先輩「頼むよ、ね?」
イチゴ(キュンとさせるのは上手いんですね)
イチゴ「そ、そこまで言うなら」
先輩「やった」
差し出された大きな手
細くて長い指は、それでも男の人らしく
節がコツコツしてる
先輩「場所わかんないよね 連れてってあげる」
イチゴ「なんでそんな強気・・・」
先輩「だって イチゴのこと離したくねーもん」
イチゴ(っっ!)
先輩「今夜はぜってー逃がさないから」
イチゴ(効きすぎ!効きすぎ!)
顔に出ないように気をつけながら悶絶してると、手を引っ張られた
先輩「早く行こうぜ?」
イチゴ「あ、まだ片付けて──」
とっさに手を引っ張り返してしまう
踵を潰しながら履いてたらしく、
靴を飛ばした先輩がバランスを崩した
先輩「!!」
鈍い音を聞いて、背筋に悪寒が走った
イチゴ「ごめんなさい!!」
先輩「痛ってぇ」
しゃがみ込んで頭を抱える先輩に、覆い被さる
イチゴ「横ですか? おでこ?」
先輩「だ、大丈夫」
イチゴ「ダメです! 見せてください!」
強い口調で先輩の手を制し、
先の跳ねてる髪をかき上げる
ちょっと汗ばんだ硬めの髪が、
私の指に知らない感触を伝えてきた
先輩「イチゴ? 近い・・・って」
赤くなってるけど、血は出てない
手を取り、姿勢を正して立ってもらう
イチゴ「ふらつきません?」
先輩「大、丈夫 ありがと」
イチゴ「もう、心配しましたよ~ 靴はちゃんと履いてください」
先輩「・・・」
優しくてぎこちない、
不思議な手つきで私の手を離した先輩が
ぽつりと呟いた
先輩「なんか」
先輩「キュンって 少し分かった気がする」
イチゴ「え? キュン?」
先輩「えっと」
先輩「あーっと」
先輩「さ」
イチゴ「?」
先輩「頭がゴンっていったら 胸がキュンって」
イチゴ「あはは それは勘違いですよ~」
思わず笑うと、先輩も釣られて笑った
そして、
おどけた仕草で手を差し伸べて・・・
先輩「それじゃあ改めて」
〇ポップ2
それは
距離感を狂わせる
親しげな微笑みを浮かべた口元
子供心を隠した
イタズラっ子みたいな瞳
春と夏を行き来する
陽差しを浴びて育った
果実の爽やかな声音
笑っちゃうぐらい
先輩らしい仕草で
〇学校の部室
先輩「今晩お付き合いしてください」
はい
よろこんで♪
〇学校の部室
・
・
・
_ おしまい〆
イチゴちゃんと先輩の何とも言えない距離感にニマニマしながらも、テンポよく読むことができました!
無自覚なキュンっていいものですね!
素敵な物語ありがとうございます!
(o´艸`)先輩の不器用なところ、けど純粋なところにキュンキュンしちゃいました!
鈍感なんだからー! って焦らしておいての最後のアレは、(*´v`)反則でした!! 先輩かわいー💕
セリフのワードセンスが良いので、サクサク最後まで読めてしまいました。
キュンさせてやろうじゃなく、無自覚なキュンが1番素敵😆
鈍感な先輩がだから、このままかと思いきや、最後はちゃんと告白してくれて、カッコイイ!