エピソード1(脚本)
〇シックなリビング
伊村里子「そろそろ真斗が帰ってくる頃かな」
里子は、リビングのソファーに座りながら、緑地のハンカチに刺繍をしていた。
伊村雅子「お義母さん、またハンカチに刺繍ですか?」
お茶が入った湯呑みを、テーブルに置きながら、雅子が言った。
伊村里子「沙耶には内緒だよ」
人差し指を口に当てて、茶目っ気たっぷりに笑う里子。
伊村里子「そうそう、私が作った白玉がまだあったろう。真斗の今日のおやつにしてあげて」
伊村雅子「はい、アイスもあったから、白玉のせアイスにしてあげますね。真斗の大好物だから」
伊村里子「沙耶も私の作った白玉、大好きだったんだけど・・・最近はねぇ・・・」
伊村雅子「本当にすいません。沙耶、高校受験に失敗してから、本当に態度が悪くって・・・」
伊村里子「仕方ないね・・・第一希望の高校に仲良しの友達がみんな受かって、沙耶だけが落ちちゃったからねぇ」
伊村雅子「あれから、いつも機嫌悪くて・・・ちゃんと話してくれなくなったし・・・」
伊村真斗「ただいま〜」
学校から帰宅した真斗がリビングにかけこんできた。
伊村真斗「今日のおやつは?」
伊村雅子「おばあちゃんが作ってくれた白玉をアイスにのせた、いつものよ」
伊村真斗「わーい!!」
伊村里子「さぁ、手を洗って、うがいしておいで」
真斗はランドセルをソファーに投げ、洗面台へ急いだ。ランドセルの中身が、ソファーに散らばる。
伊村雅子「もう! こういうことは雑なんだから・・・」
困り果てながら、散らばった荷物をランドセルにしまった雅子は、真斗のおやつの準備をしに台所へ行った。
伊村真斗「あれ? おやつ、まだ?」
伊村里子「もうすぐだよ」
戻ってきた真斗は、里子の横に座り、今か今かとおやつを待っている。すると、刺繍途中のハンカチに気がついた。
伊村真斗「おばあちゃん、そのハンカチは?」
伊村里子「これは沙耶ちゃんに。でも沙耶ちゃんには、まだ内緒だよ」
伊村真斗「えーーー、また、お姉ちゃんの? お姉ちゃんばっかりズルい!!」
伊村里子「真斗には、また白玉作ってあげるから!」
ちょっと不服そうな真斗だったが、台所から、白玉のせアイスを持ってきた雅子をみた途端、ご機嫌になった。
〇教室
終業のチャイムが鳴り、クラスメイトたちが帰り準備をして、ざわざわしている。
鈴井愛理「ねぇ、沙耶。今日、カラオケ行かない?」
伊村沙耶「あ、いいね! 行こう、行こう!!」
鈴井愛理「でさぁ〜・・・・・・」
愛理が沙耶の耳元でこそこそ話す。
伊村沙耶「えっ!?」
驚いた沙耶は、愛理を見つめた。
〇カラオケボックス
沙耶はジュースを一口飲んだ後、マイクを持って立ち上がった。お気に入りの曲が流れ、歌い始める。
気持ちよく歌っていたら、部屋のドア越しに男性の影が見えた。すけて見えるところから、こちらを見ている。
鈴井愛理「あっ、裕太!」
愛理は立ち上がり、裕太を部屋に入れた。
鈴井愛理「待ってたよぉ〜」
高梨裕太「ごめん、ごめん。ちょっとゼミが長引いちゃって・・・」
愛理は裕太の胸に飛び込み、いちゃいちゃし始めた。愛理は、いてもたってもいられなくなった。
伊村沙耶「私、ちょっとトイレ・・・」
部屋から飛び出した沙耶は、気持ちを落ち着かせようとトイレに行った。その途中で、若い男性とすれ違う。
裕太と愛理がいちゃいちゃしてる部屋に、若い男性が入ってきた。
和田隆「あれ!? 女の子ひとりじゃん」
高梨裕太「今、ちょっとトイレに行っちゃってさ。まぁ、座れよ。愛理、こいつが俺の友達の隆」
鈴井愛理「はじめまして、隆さん。愛理です! この人が例の? 沙耶、呼んでくるね」
愛理は沙耶を呼びに、部屋を出た。
和田隆「本当にかわいいんだろうな?」
高梨裕太「あぁ、愛理に見せてもらった写真よりかわいかったぜ」
しばらくして沙耶と愛理が戻ってきた。部屋に入ろうした時、愛理の電話が鳴る。愛理は、沙耶に先に入ってるように言った。
沙耶は、愛理が電話で話してるのを横目に、おずおずと部屋に入った。
高梨裕太「沙耶ちゃん。こいつ、俺の友達の隆」
和田隆「よろしく、沙耶ちゃん」
伊村沙耶「は・・・初めまして・・・沙耶です」
高梨裕太「まぁ、緊張しないで、楽しもうよ!」
伊村沙耶「は・・・はい」
伊村沙耶(そんなこと言われても急なことで、どうしていいかわからない・・・・・・)
高梨裕太「じゃ、俺はあの曲歌おうかな」
裕太がリモコンで曲を選び始めると、裕太のスマホにメッセージが届いた。愛理だ!
高梨裕太「あっ、ごめん、俺、ちょっとトイレ・・・」
裕太が部屋を出ていく。
伊村沙耶(えぇ〜。ふたりっきりになっちゃった・・・ど、どうしよ・・・)
和田隆「沙耶ちゃん、かわいいね!!」
伊村沙耶「あっ、ありがとうございます」
沙耶は緊張で顔も体も強張ってる。隆は沙耶の顔をのぞきこんだ。沙耶のほおを優しくなで、あごを持ちくいっと上げた。
和田隆「ねぇ、沙耶ちゃん、俺と遊ぼうよ」
隆の顔が沙耶の顔に近づいていく。
伊村沙耶「いや! やめて!!」
沙耶は隆の肩を両手で押し、体を遠ざけようとするけど、男の人の力には勝てない。
和田隆「悪いようにはしないからさ」
伊村沙耶「私、そんなつもりじゃ・・・本当にやめてください!!」
沙耶は思いっきり隆を突き飛ばした。テーブルの隅に背中をぶつけた隆は、その痛みにもだえている。
沙耶は自分の荷物を抱えて、部屋から駆け出した。
〇ネオン街
伊村沙耶(やっぱり愛理の誘いになんか、のるんじゃなかった・・・)
カラオケ店を出た沙耶は、一目散に駆け出した。涙をこらえながら走る姿を、何があったのかと道ゆく人が振り返る。
伊村沙耶(中学生のころに戻りたい・・・みんなに会いたい・・・)
〇公園のベンチ
何も考えずに走ってきた沙耶は、公園を見つけた。公園のベンチに座り、大きなため息をついてバッグからスマホを取り出す。
スマホを見ると、母から何十回も着信があった。
伊村沙耶「何!? また説教!? 今日はそんなに遅くなってないけど!!」
すると、スマホに着信があった。母からだ。沙耶はいやいやながら電話に出た。
伊村雅子「もしもし、沙耶!?」
伊村沙耶「何!? 何十回も電話かけてこないでよ!!」
伊村雅子「おばあちゃんが!! おばあちゃんが!!」
伊村沙耶「えっ!?」
何かをうまくやれなかったときって、こんな風にとげとげしい性格になりがちですよね。見守ってくれる人のありがたさに気づかなかったり…。見守る側もどうすれば相手を支えられるのか分からないし…おばあちゃんの気持ちも沙耶ちゃんの気持ちも分かります。なんとかわだかまりが解けてほしいです!
女友達の紹介する男の人って、ちょっと面倒な人が多い気がします。
わかれた後もなんだか気まずいですしね。
それにしても、この男は最低ですね!
生きていると思いもよらない悲しい出来事やショックな出来事が起きることがあるけれど、さやちゃんはおばあちゃんのハンカチを目にするたびに、愛されてきたという小さい頃の記憶を思い出して、これからも救われるのではないでしょうか。私にも同じように想い出の品があります。