嘘から始める君の落とし方

入江恵衣

読切(脚本)

嘘から始める君の落とし方

入江恵衣

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〇黒
由香(んー・・・)
  身体が優しく揺さぶられる感覚に
  私は静かに目を開けた・・・

〇公園のベンチ
「よかった・・・気が付いた」
由香(え!?)
  知らない人が
  私の顔を覗き込んでいる
由香「あの・・・。 どちら様ですか?」
ケント「え? 俺だよ。ケントだよ」
由香「ケント・・・??」
  初めて聞く名前だ
ケント「由香? 大丈夫か?」
  ケントと名乗る男は
  どうやら私を知っているらしい
由香(ちょっと待って! ここはどこ?)
  混乱した頭で辺りを見わたす
  背の高い木々に囲まれた広場
  レンガを敷き詰めた遊歩道
由香「私・・・。 なんでここに・・・?」
ケント「もしかして、記憶がないの?」
由香「ごめんなさい。 何も思い出せなくて・・・」
ケント「俺たち この公園を散歩してたんだよ」
ケント「そしたら由香が転んで。 あの街灯の柱に頭をぶつけたんだ」
由香(どうりでおでこが痛いわけだ・・・)
ケント「頭をぶつけたせいで、一時的に 記憶が飛んだのかな」
  ケントは腕を伸ばすと
  私のおでこを優しく撫でた
由香(冷たい指!)
由香(・・・あれ?)
由香「・・・・・・」
ケント「おい。由香? どうした?」
由香「・・・もしかして、ケントは 私の彼氏だったりする?」
ケント「え!」
由香「あ、違ったらごめんなさい」
由香「散歩してたって言うし 付き合ってるのかなぁって」
ケント「――あ、ああ!」
ケント「俺たち、付き合ってるんだよ!」
由香「そうだったんだ!」

〇見晴らしのいい公園
  陽が暮れた公園を
  私たちは散歩することにした
ケント「それでさー。その時、西畑がさー」
  ケントは楽しそうに
  おしゃべりを続けている
由香「あ、あの・・・」
ケント「ん? どした?」
由香「私たちって・・・ いつも手を繋いで歩いてるの?」
ケント「え!」
ケント「そ、そうだよ。 付き合ってるんだから当然でしょ」
由香「そっか。 変なこと聞いてごめんね」
ケント「いや! むしろ俺の方がごめんっていうか・・・」
由香「え?」
ケント「いや、何でもない!」
ケント「それよりさ ここ、すごく綺麗でしょ」
由香「うん。ステキな場所だね」
  街灯の淡い光が
  揺れる木々を照らしていて
  すごく幻想的だ
由香「まるで異世界にいるみたい」
ケント「俺、この公園が大好きなんだ」
ケント「だから 由香にも教えたくてさ」
由香「嬉しいな。 ケントは優しい彼氏だね」
ケント「・・・」
由香「どうしたの?」
ケント「由香・・・。あの、さ・・・ 実は・・・」
ケント「本当に、ごめん!」
  繋いだ手を離したケントは
  勢いよく頭を下げた
ケント「記憶がないのをいいことに 俺、嘘ついた」
由香「嘘?」
ケント「うん」
ケント「俺たちは付き合ってなんかない」
ケント「ただの、クラスメイトなんだ」

〇大きな木のある校舎
  文化祭を控えた放課後の学校

〇教室の教壇
友人A「買い出し行くの忘れてたー! 由香、お願いしていい?」
由香「オッケー!」
友人A「ありがとー! でも一人は大変だしなぁ・・・、 あっ、ケント行ける?」
ケント「任せといて!」
友人A「じゃあお願いね!」

〇雑貨売り場
由香「これで全部かな」
ケント「そうだなー」
ケント「あ!」
ケント「西畑が、漫才する時の小道具が 欲しいって言ってたな」
由香「小道具かぁ。どこで売ってるんだろう」
ケント「ちょっと遠いけど いい店知ってるから行く?」
由香「うん、行く!」

〇公園のベンチ
由香「小道具買えてよかったね」
ケント「ここまで来た甲斐があったな」
由香「この公園、初めて来たけど すごく綺麗な所だね」
ケント「だろ! 俺の大好きな場所なんだ」
ケント「夜はもっと綺麗でさ」
由香「えー、見てみたい」
ケント「じゃあ夜まで待つ?」
由香「うん!」
ケント「あ、あのさ・・・ 実は、俺・・・」
由香「キャッ! 肩に何か落ちてきた!!」
ケント「え!」
由香「やだ!虫!!」
由香「キャーっ!!」
「由香!」

〇見晴らしのいい公園
ケント「──というわけなんだ」
由香「そっか・・・。 でもなんで 付き合ってるって嘘ついたの?」
ケント「それは!」
ケント「・・・」
ケント「実は俺、入学した時から 由香のことが気になってた」
ケント「だから記憶を失くした由香が 俺を彼氏だって勘違いしたの」
ケント「実は嬉しくてさ」
ケント「つい、嘘ついた」
ケント「記憶がないのにサイテーだよな。 本当にごめん」
ケント「でも、由香とこの場所に来れて 本当に嬉しかったんだ」
由香(ケント・・・)
由香「私も 謝らなきゃいけないことがあるの」
由香「実は・・・」
由香「私も嘘ついてた」
ケント「え?」
由香「記憶はすでに戻ってたの」
ケント「ぅえ! い、いつから!?」
由香「散歩している時。 ふっと記憶が蘇って」
由香「でも、繋いだ手を離したくなくて。 記憶がないフリをしてた」
由香「ごめんなさい」
ケント「それって・・・。 もしかして、俺のこと・・・」
由香「うん・・・ ケントのこと、気になってた」
ケント「うわ、マジか!」
由香「嘘ついたこと、 許してくれる・・・?」
ケント「許すも何も、めっちゃ嬉しいよ!」
由香(ケント、ごめん・・・)
由香(また嘘ついちゃった・・・)

〇公園のベンチ
  ──二時間前──

〇公園のベンチ
由香(冷たい指!)
由香(・・・・・・あれ! 一瞬、記憶なくしてた!?)
由香(ケント、心配してる・・・)
由香(そうだ!)
由香「私の彼氏だったりする?」
由香(もし彼氏だって言ってくれたら・・・)
ケント「俺たち、付き合ってるんだよ!」
由香(!)
由香(私、勇気を出すから)
由香(もう少しだけ この嘘に付き合って!)

〇開けた交差点
ケント「嘘って良くないことだけど」
ケント「こんな嘘なら たまにはいいかもね」
由香(ケントは正直に言ってくれた)
由香(嘘までついたんだもん 私の本当の気持ち伝えたい!)
由香「あ、あのね・・・」
由香「さっき・・・ 気になってたって言ったけど」
由香「本当は・・・」
由香「ずっと好きだったの」
由香(恥ずかしい・・・!!)
由香(でも、やっと言えた・・・!)
ケント「由香・・・」
ケント「俺もずっと好きだったよ!」
ケント「まぁ俺は」
ケント「好きじゃなくて 大好きだけどね!」
ケント(ごめん、由香)
ケント(俺、まだ言えてないことがある)
ケント(実は・・・)
ケント(西畑が小道具を欲しがってるって)
ケント(あれ、嘘なんだ)
ケント「これからはお互い嘘はなし!な!」
由香「うん!」
  一方その頃──

〇大きな木のある校舎
友人A「ふーっ! 準備完了!」
友人A「そういえばあの二人 上手くいったかな?」
友人A「両片思いって 見ててムズムズしちゃうのよねー」
友人A「私の嘘が 二人のキューピッドになってるといいけど」
友人A「ほんと 世話の焼ける二人だよ♪」

コメント

  • 真実よりも柔らかい嘘が二人のクッションになったおかげで急接近できたんですね、ステキだわー。

  • 正に、嘘から出た真、という感じのお話でした!記憶喪失をお互い利用したけど、最後にはハッピーな終わりになってよかったです!素敵な物語ありがとうございます!

  • 嘘。確かにそうかもしれない。でも、「嘘」って言いたくない。そんな簡単なひとことで表したくない。そんな事を思わせてくれるストーリーでした!

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