本と私と、芥田くん

菜鳥オウル

読み切り(脚本)

本と私と、芥田くん

菜鳥オウル

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〇大学の広場
  突然ですが、私──小林チカは、
???「・・・」
小林チカ「ひっ」
  人生最大の試練に直面しています。

〇大教室
  ──1時間前
友坂イチ「チカ、分かるよな? 私の言いたいこと」
小林チカ「はい、ごめんなさい・・・」
  前の講義で行われたグループワーク。
  私達のグループは上手く課題を進められず、危うく時間内に終わらせられなくなるところだったのだ。
  主に私の──男性恐怖症が原因で。
友坂イチ「あんたの事情も分かるけどさ。今のままじゃ、この先やっていけないよ?」
小林チカ「私だって、この体質を治したいとは思ってるんだよ」
小林チカ「けど、男の人の前だと、どうしても身体が動かなくなって」
友坂イチ「・・・」
友坂イチ「分かった。そういうことなら、私が一肌脱いであげよう」
友坂イチ「他学部の友達に、あんたでもギリギリ大丈夫そうな奴がいるから。そいつで男に慣れる練習をしな」
友坂イチ「多分、連絡したらすぐ来てくれるだろうし」
小林チカ「ええっ、今から!?」
小林チカ「いくらなんでも急すぎるよ!」
友坂イチ「あんたには、これくらいの荒療治が丁度いいだろ」
友坂イチ「この後暇だったよな? ほら、早く行くぞ」
小林チカ「ちょ、ちょっと待って!!!!」

〇大学の広場
  という事で今に至る──んだけど。
小林チカ「イチの嘘つき!!!!」
小林チカ「この人、どう見ても私の一番苦手なタイプだよ!! 全然大丈夫じゃない!!」
友坂イチ「まあまあ。確かに一見チャラそうだけど──」
???「イチ。そなた、何をこそこそ話しておるのだ?」
小林チカ(え? 「そなた」?)
???「小生に紹介したい者がおると言っておったが、それはもしや、そこの愛らしき女人のことか?」
友坂イチ「──中身は優しい、変人だから」
  この瞬間、性別とは別の意味で、無理かもしれないと私は思った。

〇テーブル席
友坂イチ「改めて紹介するな」
友坂イチ「こいつは芥田ユウ。工学部で、私達と同じ1年生だよ」
友坂イチ「で、芥田。こっちがさっき話した小林チカだ」
友坂イチ「こいつの今後の人生は、全てあんたにかかってる」
芥田ユウ「ふむ。それはまた、責任重大よな」
友坂イチ「頼んだぞ」
友坂イチ「んじゃ、私は退散するから。後は2人でよろしくな」
小林チカ「え、イチ!? 置いてかないで!!」

〇テーブル席
小林チカ「・・・」
芥田ユウ「やれやれ。イチのやつも酷なことをする」
芥田ユウ「──そなた、チカと言ったか?」
小林チカ「は、はいぃ!?」
芥田ユウ「はは。そう固くならずともよい」
芥田ユウ「せっかくこうして会ったのだ。少し話でもしてみるか?」
芥田ユウ「もちろん、無理にとは言わないが」
小林チカ「う・・・」
小林チカ(怖い──けど、イチが背中を押してくれたんだし、頑張りたい)
小林チカ(でも、話題が──)
小林チカ「あれ?」
小林チカ「芥田くん。カバンの中の、その本は?」
芥田ユウ「本?」
芥田ユウ「江戸川乱歩の人間椅子と谷崎潤一郎の細雪、どちらのことだ?」
小林チカ「!!」

〇学食
  ──2週間後
友坂イチ「聞いたよ、芥田とうまくやってるらしいじゃん」
小林チカ「うん。他の男の人はまだ無理だけど、芥田くんなら少し話せるようになったよ」
小林チカ「けどまさか、芥田くんが読書好きだなんて」
友坂イチ「あー。あいつ、理系の癖して本の虫みたいなところあったからな」
友坂イチ「確かにその辺は、文学少女のあんたと趣味が合うかも」
友坂イチ「と、噂をすればだ」
芥田ユウ「チカ!イチ!ここにおったのか!」
芥田ユウ「今、古本市をやっているらしくてな。今度の日曜日、皆で行かぬか?」
小林チカ(わ、行きたい!)
友坂イチ「私、興味ないからパス。行くなら2人で行ってきな」
小林チカ「えっ、2人で!?」
小林チカ(どうしよう。話すのはともかく、一緒に出かけるなんて──)
芥田ユウ「チカ、無理せずともよい」
芥田ユウ「残念だが、3人で行けないならこの件は諦めよう」
小林チカ「!」
小林チカ(ううん。これも、男性恐怖症を克服するための練習──)
小林チカ「芥田くん!」
芥田ユウ「む?」
小林チカ「行こう、古本市。2人で!」

〇改札口前
  ──日曜日
小林チカ(ええっと。待ち合わせは、ここだよね)
小林チカ(芥田くんは、まだみたい──)
青年「ねえ、君。ここで何してんの?」
小林チカ「ひっ!」
小林チカ(お、男の人!)
青年「怖がらないでよ。暇なら俺と──」
芥田ユウ「チカ!来ていたのだな!」
小林チカ「芥田くん!」
青年「あ? 誰だテメェは」
芥田ユウ「待たせてしまった──ん?」
芥田ユウ「もしやこれは、いわゆるナンパというやつか?」
芥田ユウ「だがチカは、これから小生と用事がある。すまぬが他を当たってくれるか」
青年「・・・」
青年「チッ。面倒そうな奴・・・」
芥田ユウ「うむ、邪魔者は消えたな」
小林チカ「あ、ありがとう」
芥田ユウ「礼には及ばぬ。では、参ろうか」
小林チカ(やっぱり、芥田くんなら大丈夫だ)

〇古本屋

〇古書店

〇リサイクルショップ(看板文字無し)

〇通学路
小林チカ「楽しかったね」
芥田ユウ「うむ、小生も良い収穫を得た。書店では手に入らぬ絶版本も多々──」
芥田ユウ「と、気が利かずにすまぬ。本、重いであろう?」
  言うが早いか、芥田くんは古本の入った手提げ袋を私の手から奪っていった。
小林チカ(──芥田くんは、優しい)
小林チカ(男の人はみんな怖いんだって思ってたけど、こんな人もいるんだな)
芥田ユウ「──チカ」
小林チカ「は、はい!?」
芥田ユウ「小生は、そなたに感謝せねばならん」
小林チカ「えっ、そんな」
小林チカ「芥田くんは私に協力してくれてるんだし。感謝しないといけないのは私の方だよ」
芥田ユウ「いや。小生もそなたに多くのものを貰っておるのだ」
芥田ユウ「その──小生は話し方がこうであろう? それ故、皆に避けられがちでな」
芥田ユウ「これまで友人と呼べる者はイチだけだった。だが、あやつは本を好まぬため趣味を語り合う機会はなかったのだ」
芥田ユウ「けれど、今はそなたがいてくれる」
小林チカ「あ──」
芥田ユウ「そなたと文学について語らえることが嬉しい。共に本を見て回る時間が楽しい」
芥田ユウ「今ではそなたと過ごす時間の全てを──愛おしいと思うておるのだ」
小林チカ「!」
芥田ユウ「だから、どうかこれからも──」
芥田ユウ「小生と共に、いてはくれぬか?」
小林チカ「・・・」
小林チカ「──私こそ」
小林チカ「私こそ、これからもよろしくお願いします」
  芥田くんと一緒なら、きっといつか自分を変えられるはず。
  そんな予感を抱きつつ、私は彼と笑い合う。
  その時何故か、胸の鼓動が──
  ほんの少しだけ、高鳴った。
  END

コメント

  • 相性を見抜いた友人の眼力に感謝!
    身近にこんな人居たら助かったんだがなぁ…

  • 古風な話し方で、一般的に見れば変人に属するかもしれない彼ですが、ヒロインちゃんに対する気遣いが所処に見えて、優しい人なんだな、と感じました!素敵な物語ありがとうございます!

  • 芥田くん、変わってるけどめっちゃ素直でいい人ですね。チカちゃんの自分を変えようと努力する姿、一歩踏み出す勇気も素敵でした!
    芥田くんの優しさに、チカちゃんはきっといつか変われる日が来るだろうなと思いました。二人には幸せな未来を歩んで欲しいなぁ。
    楽しく拝読させていただきました、ありがとうございました😊

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