二等分のケーキ

戸羽らい

第1話 宇津井と佐山(脚本)

二等分のケーキ

戸羽らい

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〇テーブル席
宇津井「でさー、その時ハマセンなんて言ったと思う?」
佐山「学生の身分で色気付くな」
宇津井「正解〜 あいつマジで同じことしか言わねーわ」
佐山「私も在学中に何度か言われたな」
宇津井「まず色気ってなんだよ」
宇津井「そういう見方をしてるのはお前だけだよスケベジジイってな」
佐山「うなじと一緒だね」
宇津井「うなぎ?」
佐山「昔の人はうなじに欲情するらしくて・・・ いや、なんでもないや」
宇津井「うなぎ食べたいなぁ」
佐山「うなぎって動画とかで見るとすごく美味しそうなのに、実際に食べるとなんかそこまででもないよね」
佐山「香りがいいのは分かるけど」
宇津井「いやおいしいっしょ」
宇津井「特にタレ!タレがうまい!」
佐山「うなぎ本体はそうでもなくない?」
宇津井「んー?」
宇津井「言われてみればそうかもしんない」
佐山「宇津井ってうなぎみたいな頭してるよね」
宇津井「急にぶっ込んできたな」
宇津井「うなぎみたいな頭ってなんだ それは調理前と調理後どっちを指してるんだ」
佐山「調理後・・・」
宇津井「確かに黒染め落ちてきて中途半端な髪色だけど」
宇津井「てかここに関しても言われたんだよな 来週までに黒染めし直さんと停学だって」
佐山「黒髪でいいじゃん」
佐山「黒髪ロングにシースルーバングにでもして今時の子っぽくしなよ」
佐山「学校で浮いてるでしょその頭」
宇津井「お前ほどじゃないけどね」
宇津井「佐山が学校にいた時なんか浮きすぎてお前の周りだけ無重力空間が広がってたよ」
宇津井「そのまま浮いて学校の大気圏外まで突入しちゃったもんな」
佐山「地球の重力は私には軽すぎた」
宇津井「どう? 通信制?だっけ、上手くやってる?」
佐山「上手くやる必要ないという意味では上手くやってる」
宇津井「? 日本語大丈夫?」
宇津井「やっぱり高校中退するような子は正しい日本語も使えないケーキの切れない非行少年ですなぁ! 底辺はてぇへんだぁ!」
佐山「・・・」
佐山「それをちゃんと冗談だって受け取れるのは私くらいだからな」
佐山「言葉遣いには気をつけろ 世間を知らないガキが」
宇津井「世間なんて知りませーん 私まだ学生なもんで、てへっ」
佐山「お前みたいなやつがSNSで不謹慎発言して炎上するんだろうな」
宇津井「私、不謹慎って感情がよく分からんのだけど」
佐山「あれって一種の礼儀作法みたいなものだから」
佐山「感情を理解する必要ないよ」
宇津井「えーでも地震がーとか戦争がーとかで 心配したり悲しまないといけない空気あるじゃん」
宇津井「そういう時に目にする「いたたまれない」とか「胸が痛む」って感情がイマイチよく分からない」
佐山「だからそんな感情理解する必要ないって」
佐山「その人たちは「おはよう」とか「ありがとう」みたいな感覚でその言葉を使ってるんだよ」
佐山「適切な場面で適切な言葉を並べてるだけ それが何故適切か?なんて考える必要ない」
佐山「そういう作法なの」
宇津井「へーそうなんだ じゃあ私も使お」
佐山「・・・」
宇津井「佐山が学校やめた時は胸が痛んだよ」
宇津井「クラスで友達も作れずに去っていく姿を見て、私はいたたまれない気持ちになりました」
佐山「バカにしてんのか?」
宇津井「でもこういうことでしょ?」
宇津井「上から目線で哀れむ感じ」
佐山「お前のそれはなんかムカつく」
???「あれ・・・ あそこにいるの宇津井さんじゃない?」
???「あっ・・・ほんとだ・・・」
???「もう一人の子は友達かな?」
???「あいつ友達いんの?」
???「こらっ!失礼だよ・・・! あの子だって友達くらい・・・」
???「てかもう一人の子あれじゃね? 去年学校やめた・・・」
???「あぁ、名前なんて言ったっけ・・・」
佐山「・・・カラオケでも行く?」
宇津井「うん なんか丁度歌いたい気分だった」

〇カラオケボックス(マイク等無し)
宇津井「あなたの両眼をスプーンでえぐって 壁に叩きつけて染みを作りたい!」
宇津井「血も涙もないあなただってさ 血の涙くらい流せるでしょう!」
佐山「・・・」
宇津井「でも知ってるの 私知ってるの あなたは本当は優しいこと」
宇津井「あの子に見せた優しさを ほんのちょっとでも分けてくれたなら」
佐山「ここからのサビ好き」
宇津井「・・・」
宇津井「死ね死ね死ね死ね死ね死ね! あの子に「いいね!」」
佐山「いいね〜♪ あの子にいいね〜♪」
宇津井「私のラインは既読無視 ライン越えたなこのスケコマシ」
宇津井「死ね死ね死ね死ね死ね死ね! あの子に「いいね!」」
佐山「いいね〜♪ あの子にいいね〜♪」
宇津井「もう謝ったって許さない」
宇津井「私以外を見るあなたなんか要らない!」
佐山「おー」
佐山「てかなんで失恋ソング?」
佐山「失恋したの?」
宇津井「これ失恋ソングなの? 女の独占欲が暴走してるだけの独りよがりな歌だと思うけど」
宇津井「なんとなく歌ってて気持ちいいから歌った」
佐山「そか」
宇津井「次は佐山の番だよ〜 お得意のアニソンでも入れちゃう〜?」
宇津井「ここには私しかいないんだし 何でも好きなの歌っていいんだよ〜?」
佐山「・・・」

〇カラオケボックス(マイク等無し)
宇津井「電気消すとかガチじゃん」
佐山「・・・」
佐山「hollow moon・・・」
佐山「dyed in darkness・・・」
宇津井「・・・」
佐山「こんなに暗いセカイなのに どうして全部・・・ 見エテシマウノ?」
佐山「月灯りが手元で揺らめいて・・・ 眠れない日が続いているの」
佐山「夜に煌めく蝶になりなさい お母さんはそう言うけれど」
佐山「スポットライトは身体を溶かすの 私が私じゃなくなってゆくの」
宇津井「何この曲、聴いたことない」
佐山「ずっとサナギのままでいられたら こんなに傷付くこともなかった」
佐山「ずっと飛ばずにいられたら 知らなくていいことも 知らずに済んだ・・・」
宇津井「・・・」
佐山「ねぇ どうして どうして どうして 私にはこれしかなかったの?」
佐山「答えて 答えて 答えて 虚ろな目をした鏡の君よ」
佐山「どうして どうして どうして どうすることもできなかったの?」
佐山「答えは きっと 闇夜の彼方 目を伏せながら君は答えた」
宇津井「・・・」
宇津井「切ないね」
佐山「そうだね」
宇津井「何が切ないのかよく分かってないけど」
佐山「・・・だろうね」

〇繁華な通り
宇津井「はぁ〜 明日も学校だるいなぁ」
佐山「私そろそろバイトの時間だから・・・」
宇津井「あ〜」
宇津井「んじゃ〜帰ろうかな〜」
宇津井「またラインするよ〜」
佐山「うん」
佐山「はぁ・・・」
佐山「そうだ 着替えないと・・・」

〇車内
???「ごめんなさい! 遅れちゃいました!」
カズヤ「おっ」
カズヤ「いいね〜制服〜 似合ってるよ〜」
佐山「ありがとうございます・・・! コスプレですけど・・・」
カズヤ「でも年齢的にはJKじゃん♪」
佐山「えへへ、そうでした」
カズヤ「とりあえず お店予約してあるから向かうね〜」
佐山「えっ? 私、この格好で大丈夫ですか?」
佐山「今回はドライブデートのはずじゃ・・・」
カズヤ「大丈夫だよ〜 個室だし、お店の人には話通してあるから」
カズヤ「マユちゃんに喜んでもらいたくて 今日は政治家なんかが通ってる会員制の料亭でご馳走するよ」
佐山「あは・・・ありがとうございます」
カズヤ「ところでこの車良いでしょ 外車もカッコいいけど日本車の──」
カズヤ「──が──で でも──も捨てがたいよな〜」
カズヤ「マユちゃんが免許取ったら ──の──でもプレゼントしようか?」
佐山「わぁ、そんな」
カズヤ「最近投資も好調でね〜 ──の──が伸び始めてから ──も──で──」
カズヤ「──の関連会社が──」
佐山「すごいなぁ」
  話が全然頭に入ってこない
  どうして男の人って
  自分が興味あることを
  他人も興味あると思い込むんだろう
カズヤ「それで冨岡さんが──を始めてさ 僕も負けてられないなーって」
  冨岡さんって誰?
  あなたの中では有名な人なのかもしれないけど
  私はその人を知らないし、興味もない
カズヤ「──が──でさ〜 本当頭悪いと損する世の中だよね〜」
カズヤ「あっ、そろそろ着くよ」
佐山「わぁい」

〇車内
???「いや〜美味しかったね〜」
???「それにしてもまさかお会計 あんなに行くとは思ってなかったよ」
???「ご馳走様でした! 私なんかにあんな・・・」
カズヤ「はははっ!いいのいいの! マユちゃん可愛いから何でもしてあげたくなっちゃう」
佐山「もう〜カズヤさんたら〜」
カズヤ「ふぅ」
カズヤ「今日は楽しかったよ また次もお願いね」
佐山「私も楽しかったです 色々なお話聞けて・・・」
カズヤ「・・・」
佐山「・・・」
カズヤ「・・・」
佐山「あれ?そっち駅の方角じゃな・・・」
カズヤ「・・・」
佐山「えっ、どこ向かってるんですか?」
カズヤ「どこって僕んちだけど?」
佐山「い、家ですか・・・?」
カズヤ「マユちゃんには僕の新居も紹介したくてさ 最近できたタワマンなんだけど」
佐山「え・・・でも・・・」
カズヤ「お金のことなら心配しなくていいよ 追加料金は弾むから!」
カズヤ「僕はマユちゃんを応援してるんだよね 通信通いながら大学目指してるんでしょ」
カズヤ「少しでも力になれたらなぁと思って それに今の内から色んな経験積んでおいた方が良いと思うんだ」
佐山「・・・」
カズヤ「今はこんなパパ活みたいな関係だけどさ」
カズヤ「僕はマユちゃんに本気なんだよ」
佐山「本気・・・」
佐山「それって、一番ってことですか?」
カズヤ「勿論!」
佐山「・・・」
佐山「・・・わぁい 私もカズヤが一番!」
カズヤ「その呼び方良いね〜 カズヤさんだとちょっとよそよそしいからね」
佐山「カズヤのお家楽しみ〜 タワマンとかやば〜」
佐山「お母さんには 友達ん家泊まるって連絡しとこ〜」
カズヤ「・・・」

〇ホテルの部屋
  この人は私に何でもご馳走してくれるし、私が望めば何でも買ってくれる
  お金持ちで優しくて、こんな人は他にいないんじゃないか──
  そう思い込むことで
  納得したい私がいる
カズヤ「可愛いよ・・・マユ・・・」
カズヤ「・・・いい?」
佐山「んっ」
佐山「はい・・・」
カズヤ「いくよ・・・」
佐山「カズヤ・・・好き・・・」
  私は「おはよう」や「ありがとう」と同じような感覚でその言葉を使う
  適切な場面で適切な言葉を並べてるだけ
  それが何故適切か?なんて考える必要ない
  ただの礼儀作法で、処世術で、
  暗闇の中でも見えてしまう真実から
  目を背けるための仮面に過ぎない
  ベッドの横でスマホが光っている
  きっと宇津井からの通知かな
  ごめんね、すぐに返せなくて
  あっ・・・あ・・・
  んっ・・・
  今だけはあなたを忘れて
  嘘の世界に溺れていたい

次のエピソード:第2話 すれ違いと鉢合わせ

コメント

  • 感動巨篇の予告編を目撃したような、ちょっと怖いような、そんな感じです。いま

  • 戸羽さんが百合? 意外だなーと思ったらいつもの戸羽さんワールドだった…… どこにどう着地するのか全く予想がつきません。わくわく

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