必要の無い理屈

希与実

読切(脚本)

必要の無い理屈

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〇病院の廊下
婦長「今日からこの病院で勤務する真辺香織さん」
真辺香織「真辺香織と申します。よろしくご指導の程お願いいたします」
  『パチパチパチ』先輩たちの拍手。香織は笑顔で答えた
真辺香織(あれ?なに?凄いイケメンがいる。インターンの時いなかったな)
婦長「あれ?真辺さん。もう光里君の事見て」
真辺香織「ああ、いえいえ、すいません」
婦長「まあ、仕方ないわ。あんなイケメン、最近テレビでも見ないもんね。仕事がきつい時、彼を見てると癒されるから」
婦長「夜勤は特にね。じゃ先輩について行って」
真辺香織「はい”──(・・・)”」
  看護師(女)1「真辺さん一緒に見まわるから。ちょっと包帯とってきて!!」
真辺香織「はい、ただいま!!」
  香織は倉庫に行き包帯を探す。そこに光里が入ってくる
真辺香織(うわ~、イケメンと2人!!)
  光里が香織の何かに気ずき近づいて香織の目の前に
真辺香織(うわ~!?、近い、近い!!、ダメ、まだ、初対面なのに~!!)
  香織は光里に追い詰められたように壁を背中につけると近づく光里を避けきれない。香織は覚悟を決めて目を瞑る
真辺香織(もう、そんな強引なんだから。やさしくしてね)
千堂光里「タグが付いてます。新しいユニフォームだから」
真辺香織「え~!」
  香織は顔を赤くして光里に一礼してから直ぐにその場を去った

〇病室のベッド
  病室内。4人部屋の奥左側に義美を見舞に来た夫の耕作。ベッドに座る義美のオーバーテーブルに「離婚届」の用紙
  既に夫の欄には署名と押印。それを暫く見つめる義美はタンスの引き出しからボールペンと判子を取り出すとそれに署名と押印を施す
荻野耕作「元気でな」
  耕作は「離婚届」を手にその病室を出て行った
  直ぐ病室の外で耕作とすれ違う光里
  光里は病室に入り義美のところに
千堂光里「荻野さん。体調はいかがですか?」
荻野義美「・・大丈夫です」
千堂光里「何か思い出せましたか」
荻野義美「分かりません。戦場から怪我をして帰国して。夫の事は分かったけど、どんな生活をしていたか、どこで育ったか」
荻野義美「夫とはどこで出会ったのか、両親、思い出せない」
千堂光里「でも今の事は理解できた」
荻野義美「見てたの?」
千堂光里「はい、すいません」
荻野義美「大丈夫。私がジャーナリストだったなんて信じられない。いつも家に居ない私に嫌気がさした。当然よね」
荻野義美「届け出しただけの夫婦だったのか。なんでかな。でも・・」
  義美は泣きだした。光里は戸惑うが何もできない
荻野義美「でも・・私が一人になった事は分かった。これからも。ずっと私だけ・・・」

〇病院の診察室
千堂光里「婦長。これでは荻野さんが可哀想です」
婦長「どうしようもない。彼女の保証人は旦那様だったけど、もうその関係にない。あとは彼女自身がどうかするしかないから」
千堂光里「そんな、理不尽ですよ。そう理不尽です」
  ・・・

〇大きい病院の廊下
真辺香織(その夜私は初めての夜勤で千堂先輩と2人きり・・・なは!!)
真辺香織「あの~先輩」
千堂光里「はい」
真辺香織「朝まで長いですね」
千堂光里「長いですね」
真辺香織「・・・」
千堂光里「真辺さん」
真辺香織「は、はい!!」
千堂光里「これから起こる事は内緒にしてくれますか」
真辺香織「あ・・」
真辺香織(ああ、このタイミングなのか、そうなのか)
真辺香織「はい・・・」
  香織は目を瞑って顎を突き出し少し唇を押し出す
  光里はその場から遠ざかり義美の病室へと入って行く
真辺香織「え、ええ?」
  光里は義美を連れて病室から抜け出しロビーの待合室の方へ歩いて行く。香織はその光景をボー然と眺めていた

〇病院の待合室
千堂光里「荻野さん」
荻野義美「フッ、私、もう荻野じゃない」
千堂光里「じゃ義美さん。僕、貴女の光になりたい。この先を照らしたい」
荻野義美「なに?からかってるの?ふざけないで」
千堂光里「僕は真剣です。僕が、貴女の船頭になって光を灯します」
荻野義美「なんで?どうしたの?頭大丈夫?知り合って数日しか経ってないのに私の何を知ってるのよ」
千堂光里「何も知らない。知らないと好きになっちゃいけませんか?出会って直ぐだと好きになっちゃいけませんか?」
荻野義美「・・貴方の為にはならないわ」
千堂光里「僕の為?僕のこの先は僕が決めます。義美さんと一緒に」
荻野義美「・・本気?」
千堂光里「はい」
  何故光里がそう思うのか理解は出来ない義美だが、光里の気持ちはストレートに伝わった。その会話を少し離れ隠れて聞いている香織
  光里と義美が立ち上がり義美の病室へと行く。そして光里だけが出て来て香織に近づいた
真辺香織「私には分かりません。哀れみですか?」
千堂光里「僕には貴女が判らないように、貴女も僕の事が判らない」
真辺香織「あの人の何処が好きなんですか」
千堂光里「好きになるのに理由なんているの?それに僕も記憶喪失だから。看護師になる前の記憶がない。だから一緒に生きたいんだ。この先を」
真辺香織「皆悲しみますよ」
  香織はそう負け惜しみを云うのが精一杯だった
真辺香織「お幸せに」

〇病院の入口
瀬能正「先輩、お久しぶりです」
千堂光里「正、元気か」
瀬能正「はい。今日はなにか」
千堂光里「一緒に行くボランディアの件だが行けなくなった」
瀬能正「えっ?何か問題でも」
千堂光里「それ以上に大事な事があるから」
瀬能正「・・・そうですか。分かりました、1人で行ってきます」
千堂光里「悪いな」
  電話を切った光里。その表情は暗い
千堂光里(義美さん。一つだけ嘘をつきました。許してくれますか?)

コメント

  • 私にとって看護師は、結構身近な存在なので、とても感情移入する事がで来ました。覚悟のある恋愛を読めた、そんな事を思いました。素敵な物語ありがとうございます!!

  • キャラクターの性格や世界観が面白いなと思いました。極端に差をつけたコミカルとシリアス、そして現実的な人物。それぞれの世界観を保ったまま混在しているのが特殊ですね。ひとつの作品の中で書き分けが出来るのは作者さんの強みだな~と。
    この文章量で書くのはもったいないぐらいの設定で、読みごたえのある作品でした。
    押すのも引くのも決断するのって強い心が必要なんだなと改めて思いますね。登場人物はみんな強かった。

  • 良いお話でした...!
    途中、香織ちゃんの衣装が変わってびっくりしてしまいました...!

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