キミトココロの物語~バーチャルiTuberの日常~

泡沫彷徨

第19話 【君を呼ぶ声】(脚本)

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泡沫彷徨

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〇黒
  光の洪水へと飛び込んだ正樹は、
  一転して真っ暗で、まるで深海のような
  空間を沈み続けていた。
紺野正樹「ココロちゃ・・・」
  声に出して彼女を探そうとした途端、
  無数のイメージが頭の中を駆け巡った。

〇数字
紺野正樹「うわああああああぁぁっ!!」
  あまりの情報量に頭痛が走り、
  悲鳴を上げる。
  文字や画像、映像、音、数字といった
  数々の情報が脳に押し寄せてくる。
紺野正樹(何かの情報を引き出そうとしても・・・ ここに漂う情報が多すぎて、 僕には引き出し方が分からないんだ)
  もう一度、自分が引き出したい
  情報について、つまりココロのことを、
  しっかり思い浮かべようとする。
紺野正樹(ココロちゃんの居場所を・・・)
  途端に、再び無数の情報が、
  小魚の群れのように一気に迫ってくる。
紺野正樹「ぐっ・・・!!」
  駄目だ。この調子では、
  すぐに頭がパンクして壊れてしまう。
  かと言って何も考えなければ、
  このまま迷子になるだけだ。
紺野正樹(もっと、具体的に)
  ココロの姿を、声を、彼女との思い出を、
  自分の中に描こうと努める。
紺野正樹(ココロちゃん。・・・ココロちゃん)
  その瞬間、一つの映像が脳裏をよぎった。

〇基地の広場(瓦礫あり)
蒔苗「行かないでよ、お姉ちゃん」

〇数字
  今のは・・・大会中の蒔苗だ。
  だけど、正樹の記憶にある光景ではない。
  まるで、
  ココロの目を通して見たような・・・
  さらに別の映像が、
  頭の中に浮かび上がる。

〇美しい草原
紺野正樹「そのために来たんだ。一緒に・・・ たくさんの人たちに見てもらえる、 最高の配信者を目指して頑張ろう!」

〇数字
  これは・・・ココロの面接に正樹が
  合格し、二人が初めて言葉を交わした日。
  ココロの目から通して見た、正樹の姿だ。
紺野正樹(ココロちゃんの記憶を・・・思い出を、 僕は見ているのか)
  次々と浮かんでは去っていく、
  ココロの記憶。
  その中には、正樹の知っている場面も、
  知らない光景もあった。
  まだ正樹と出会う前、
  蒔苗と喧嘩するココロ。
  正樹がアルバイトを始めた後、
  彼のログインを心待ちにしている
  様子のココロ。
  そうした具体的なココロの記録を頼りに、
  彼女に関する情報を次々と辿っていく。
紺野正樹(この先に、 ココロちゃんがいるかもしれない)
  そう思い、情報の海を泳いでいた正樹の
  視界の先に、これまでとまったく異なる
  形をした情報が、姿を見せた。
アイリス「・・・・・・」
紺野正樹「アイ・・・リス、ちゃん?」
  アイリス。アイリスだ。
  彼女は両手を広げて情報の海を漂い、
  やがて闇に呑まれるように消えていく。
  その姿に重なるようにして、
  新たな情報が脳裏に浮かぶ。
  それは、一枚の画像データ。
紺野正樹「僕の・・・絵?」
  それは、
  紛れもなく正樹の描いた絵だった。
  かつてアイリスがいなくなった後、
  ふと思い立ち、たった一枚だけ
  最後に描いた、彼女のファンアート。
  アイリスの涙から、色とりどりの世界が
  生まれるイメージを描いたもの。
  何かに駆り立てられるように、
  一気に仕上げた。
  この絵を描いて以来、
  正樹は、絵を描いていない。
紺野正樹(その絵が、なぜ、ここに?)
  不思議に思って、手を伸ばす。
  すると絵の中から、
  二つの笑い声が聞こえてきた。
  正樹は、その声を知っている。
  蒔苗と・・・ココロだ。
紺野正樹(そう、だったのか・・・)
  ある考えに辿り着いたとき、誰かの手が、
  伸ばした正樹の手を、そっと握った。
  確かに、その感触と温もりを感じる。
紺野正樹(誰・・・?)
  その手は、正樹を誘うように
  情報の海の中を引っ張っていく。
  やがて、真っ暗な視界の先に、
  一筋の光が見えた。
紺野正樹「・・・あそこに、ココロちゃんがいるの?」
  返事はない。
  手の感触は、いつの間にか消えていた。
紺野正樹「ありがとう」
  呟いた。
  正樹は情報を掻き分け、光を目指す。
  周囲を漂っていたココロの記憶が
  次々と色を帯び始め、道を作る。
紺野正樹「ココロちゃん!」
  叫び、光に向かって手を伸ばした。

〇電脳空間
  気がつくと、
  正樹は、無機質な広い空間にいた。
紺野正樹「・・・見つけた」
  左前方に、ココロが立っている。そして、
  その視界の先、正樹から見て右前方には。
紺野正樹「アイリスちゃん・・・」
アイリス「・・・・・・」
  その目に、命は感じられない。ただ、
  彼女の姿がそこに在るというだけだ。
  それでも・・・。正樹は、
  今にも泣き出しそうになるのを堪えた。
  ココロとアイリスは
  向かい合って立っている。
希美都ココロ「正樹くん・・・」
  ココロが呟き、
  ゆっくりと顔を正樹のほうに向けた。
希美都ココロ「どうやって来たの。 どうして・・・こんなところまで」
紺野正樹「話をしに来たんだ」
希美都ココロ「話、なんて・・・」
紺野正樹「僕は君に、何も伝えてない。 伝えようともして来なかったんだ」
希美都ココロ「見て」
  ココロは、再び前を向いた。
  そこにアイリスがいる。
  彼女の姿を目にすると、
  思い出が一気に蘇ってくる。
希美都ココロ「あの人がいる。 私が行けば、彼女は戻ってくる」
紺野正樹「・・・でも、ココロちゃんは消えてしまう」
希美都ココロ「選ぶしかないんだよ。・・・そして、 私はとっくに、選んだんだ。ほら」
  ココロが、
  アイリスに向かって手を差し伸べた。
  すると、ココロの指の先から光の粒が
  零れ、アイリスのもとへと飛んで行った。
アイリス「・・・あ」
  光の粒が身体に吸い込まれていくと
  同時に、アイリスの口が僅かに動いた。
  目にも、かすかに光が宿っている。
アイリス「わた・・・し・・・」
紺野正樹「アイリスちゃん・・・?」
希美都ココロ「ね。私がすべてを捧げたら、彼女は 戻ってくる。戻ってくるんだよ、正樹くん」
紺野正樹「・・・・・・」
  ずっと。ずっとずっと、願っていた。
  アイリスが戻ってくることを。
  彼女がまた、
  活動を再開してくれることを。
  願い続けた光景が、今、目の前にある。
  正樹は、足を動かした。
  ゆっくりと、
  アイリスのほうへと歩いていく。
紺野正樹「アイリスちゃん・・・」
  呼びかける。それだけで、
  膝をついて泣き喚きたくなる。
  ごめんよ、と伝えたかった。
  もう一度、あの日々に戻りたい。彼女を追いかける、あの頃に。夢のような時代へ。
紺野正樹(でも、今は・・・)
  固く拳を握る。もうブレない。
  正樹は、アイリスのすぐ横に立った。
紺野正樹「ありがとう」
  そう言って。アイリスの横を通り抜け、
  ココロのほうへと、真っ直ぐ歩いていく。

〇電脳空間
希美都ココロ「・・・正樹くん?」
紺野正樹「僕も選んだ。 あのとき、本当はもう、選んでいたんだ」
希美都ココロ「どういうこと・・・?」

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