Falling

サトJun(サトウ純子)

黄昏時(脚本)

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〇見晴らしのいい公園
  ──なんなんだ。この感じ。
  晴翔は一人、公園のベンチに腰掛けていた。
  夕暮れ時。
  風と共に青空が吸い込まれていき、オレンジ色と交わる。この時しか見れない、自然が創り出すグラデーション。
  それを見たくて、ここに来たはずだった。
  ──胸が、胸が苦しい。
  いったい俺はどうしたんだ。
  辛い事があったわけではない。
  たくさん、たくさん笑ったし、
  バカもいっぱいやった。
  むしろ、絶好調すぎる一日だった。
  それなのに。

〇水の中
  景色が見えない。
  なぜか心が晴れない。
  どこかにぽっかりと穴が空いてしまっているような、脱力感。
  そして、息苦しさ。

〇教室の教壇
  今日は校舎の点検がある関係で、全部の部活が休みになった。
  ”せっかくだから、皆んなでカラオケに行こう!”
  
  机を椅子で囲んで腕相撲をしながら、そんな話しで盛り上がっていた。
  ノリで側にいた女子たちに声をかけたら、喜んで話に乗ってくれた。
  その中には、学年一可愛いと噂されている美香の姿もあった。
美香「今日は塾も習い事もない日なの。 私も行こうかな」
  ──マジか!?️ ラッキー!!️
  晴翔はノリノリだった。
  ──なんてツイてる日なんだ。
  こんなチャンス、滅多にないぞ!
  晴翔は、すぐ帰れるようにカバンに弁当箱と体操着を放り込んだ。

〇まっすぐの廊下
  ところが、帰ろうとして廊下を歩いている時。
  特進クラスのつむぎが、ため息をつきながら教室から出て行くところに出くわした。
  なんだか酷く落ち込んでいるようで、気軽に話しかけれる状態ではなかった。

〇水の中
  ──いったい、何があったのだろう。

〇説明会場(モニター無し)
  一年前、晴翔は掃除当番をサボり続けていた罰として、文化祭の実行委員をやるハメになった。
  いつも責任逃れをしていて遊んでいる側だった晴翔は、何をしたらいいのか。どうすればいいのか。本当に全くわからなかった。
  そんな晴翔に、根気強く一から教えてくれたのが、実行委員長をしていたつむぎだった。
橘 つむぎ「やればできるじゃないですか! 一ノ瀬くんって、もっと適当な人だと思っていました。見直しました!」
一ノ瀬 晴翔「てきとーな人って、なんだか酷い言われようだなー」
  これが切っ掛けで、皆んなの輪に入ることができ、最高に楽しい文化祭となった。
  つまり、つむぎは晴翔にとっては頭が上がらない恩人なのだ。

〇水の中
  その恩人が、落ち込んでいる姿を見てしまった。
  ──気になる。

〇カラオケボックス(マイク等無し)
  楽しいはずのカラオケも身が入らない。
  美香が隣にやってきて、あれこれ話しかけてきたが、晴翔の心は晴れなかった。
一ノ瀬 晴翔「わりぃ!俺、用事思い出した。 忘れてたー!」
  晴翔は店を飛び出した。

〇水の中
  ──何やってんだ。俺は。

〇見晴らしのいい公園
  そして今。ここにいる。
  一人になりたかった。
  一人で綺麗な景色を見たかった。
  なのに。
  その景色さえも目に入って来ない。

〇水の中
  ──心が、心が痛い。

〇水の中
女性の影「一ノ瀬・・・くん?」

〇見晴らしのいい公園
  ・・・つむぎだ!
  周りの景色が明るく色付き、眩しいほどに輝く。
  同時に、晴翔の手や足に今まで感じられなかった力が急に蘇ってきた。
橘 つむぎ「どうしたのですか?こんなところで」
一ノ瀬 晴翔「い・・・委員長!?️」
  晴翔は跳ね上がるように立ち上がった。
  その拍子に、いつの間にか足元にいた数匹の鳩が飛び立つ。
橘 つむぎ「具合でも悪いのですか? 頭を抱えている姿が見えたので・・・」
一ノ瀬 晴翔「俺のことより、委員長こそ! なんかあったのか? さっき凹んでいたの見かけたから・・・」
橘 つむぎ「ああ、あれは・・・これです」
  つむぎは戸惑いながら、カバンの中から一枚の紙を取り出した。
  
  英語の答案用紙だった。
一ノ瀬 晴翔「よ、45点!?️ 委員長、英語得意じゃなかった!?️」
橘 つむぎ「この点数は本当にショックだったんです。 こんな点数をとるの、初めてで・・・ もう、恥ずかしすぎて、外を歩けません」
  つむぎは肩を落とすと、答案用紙をたたみながらため息をひとつついた。
一ノ瀬 晴翔「・・・俺なんか25点だぜ?」
橘 つむぎ「え!?️やだ、その、えっと・・・」
一ノ瀬 晴翔「あはははっ。 委員長、相変わらずくそ真面目だなぁ」
橘 つむぎ「え、あの、だって、そういうつもりで言ったわけじゃ・・・」
  一瞬、静寂が訪れ。
  二人の間を心地よい風が通り過ぎる。
橘 つむぎ「なんだか、私、悩んでいるのがバカバカしくなりました」
一ノ瀬 晴翔「その調子! やっぱ委員長は笑っている方がいいよ」
橘 つむぎ「一ノ瀬くんはもっと勉強した方がいいですよ」
一ノ瀬 晴翔「やられた!45点に言われた!」
橘 つむぎ「もぉー!蒸し返さないでくださいよ! せっかく忘れかけてたのに・・・」

〇見晴らしのいい公園
  黄昏時。
  太陽が空を巻き込みながら風を呼ぶ。
橘 つむぎ「あっ!桜。 桜の花びら!」
一ノ瀬 晴翔「ホントだ! すげーっ!」
  ”なんだよ。こんな事に振り回されて、バカみたいだな。俺”
  
  晴翔はつむぎの横顔を見ながら、自分の放課後を笑った。
  なのに。
  ──なんだよ。なんでだよ。
  勝手に涙が出てきやがった。
  二人の横顔が夕日に照らされ、オレンジ色に染まる。
  ──このまま時間が止まればいいのに。そう思うのはなんでだ?
  桜の花びらが紙吹雪のように舞い、髪に絡みつき、そして、滑り落ちていく。
  ──まぁ、委員長が笑っているなら、それでいっか!
  晴翔は、その、クルクル回りながら落ちていく花びらを見ながら
  どうしようもなく苦しくなった胸を、右手でグッと押さえ込んだ。

コメント

  • 繊細な心理描写にほれぼれしました。自分の中にある感情って、中々難しいですよね。彼と彼女が幸せに過ごしてくれることを願っています。素敵な物語ありがとうございました!!

  • 綺麗な物語で主人公のせつなさに胸がグッときました!ゲームとは思えない、まるで詩集を読んでいるような気持になりました☆

  • 素敵なお話でした!
    二人の関係をずっと見守っていたいな、と思ってしまいました。

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