第17話 【こころの叫び】(脚本)
〇基地の広場(瓦礫あり)
希美都ココロ「マッキー・・・」
蒔苗「勝負しましょう、先輩」
二人の仲間を従え、蒔苗が立っている。
蒔苗「先輩。・・・お願いします」
その声には、どこか懇願するような響き、
必死の思いが滲んでいる。
希美都ココロ「・・・マッキー。でも、何をしたって、 私の気持ちは変わらないよ」
蒔苗「それは、 蒔苗と勝負してから言ってください」
蒔苗「面と向かって、 その気持ちをぶつけてください。 でないと、納得なんてできません」
蒔苗「優勝したいというなら・・・ その本気を、示してください」
蒔苗「もしここで蒔苗に負けるようなら、 先輩の覚悟はその程度ということです」
蒔苗「だから。蒔苗が勝ったら、その時は・・・ もう一度、 よく考え直すと約束してください」
希美都ココロ「・・・、そんなの」
蒔苗「ええ。確かに、わがままです。 蒔苗の、わがままです」
蒔苗「でも・・・付き合ってもらいますよ。 先輩。蒔苗は、あなたに挑戦します」
紺野正樹(蒔苗ちゃん・・・本気なんだ)
彼女の目に燃える決意を見て、理解する。
紺野正樹(本気で、向き合おうとしているんだ。このまま消えていくかもしれないココロちゃんに、本気で自分の気持ちを・・・)
希美都ココロ「・・・わかった。 マッキーが勝ったら、考えてみる」
希美都ココロ「でも、もう何度も何度も考えたこと なんだよ。それに、私は負けない」
視聴者のコメントウインドウに
目をやると、
「おお、因縁の対決!?」
「これは熱い組み合わせ」
と盛り上がりを見せている。
それを見ているうちに・・・
ふと、浮かび上がってきた考えがあった。
紺野正樹「・・・ココロちゃん」
正樹はマイクのシステムを切り替える。
大会の配信に乗らないよう、プライベートで彼女と話し合う必要があった。
〇基地の広場(瓦礫あり)
紺野正樹「僕に一つ、考えがあるんだけど。 ココロちゃん・・・蒔苗ちゃんと、 決闘してみたらどうかな」
紺野正樹「一対一で。誰の邪魔もなしに」
紺野正樹「チームリーダー同士の、一騎打ちだよ。 リーダーが敗北した側のチームは、 その場で投降するというルールで」
希美都ココロ「え!? でも向こうのチームが、 そんな条件、呑むかどうか・・・」
紺野正樹「きっと呑む。蒔苗ちゃんなら」
希美都ココロ「・・・・・・」
希美都ココロ「・・・わかった。ここが正念場だね。 怖くなってきちゃった。 見て、手が震えてる」
希美都ココロ「もし負けて優勝を逃したら、せっかくの 大きなチャンスを失うことになっちゃう。 願いを叶える数字まで、きっと届かない」
希美都ココロ「次に、こんなチャンスが巡ってくるのは、 ずっと先のことかもしれない」
希美都ココロ「ここで機会を逃したら、そしたら、 これまでの全部が・・・」
紺野正樹「無駄になんて、ならない」
ハッキリと言い切った正樹の言葉に、
ココロが目を見開く。
紺野正樹「この大会で勝つことが、 ココロちゃんのすべてじゃない」
紺野正樹「ココロちゃん。君がこの大会に かけている気持ちのすべてを、 僕はわかってるとは言えない」
話していないことがある罪悪感から
だろうか。ココロが顔を伏せる。
紺野正樹「でも、これだけはわかるよ」
紺野正樹「逃げちゃ、駄目だ。それこそ全部、 これまでのすべてが無駄になってしまう」
希美都ココロ「え・・・?」
紺野正樹「蒔苗ちゃんからも、そして、ココロちゃんがこれまで積み上げてきた自分自身の活動からも・・・目をそらしちゃ、駄目だ」
紺野正樹「思い出して。勝つことは大事だけど、 それは決して、すべてじゃない」
希美都ココロ「そうかも・・・しれないけど、 この大会で、私・・・」
紺野正樹「じゃあ、少し意地悪な質問をするよ」
紺野正樹「ココロちゃんにとって、 視聴者は夢を叶えるための、 観測者という数字に過ぎないの?」
希美都ココロ「そんな! ちがっ・・・」
慌てて顔を上げるココロに、正樹は頷く。
紺野正樹「うん。そうじゃないよね。そのことは、 視聴者だった僕が良く知ってる」
紺野正樹「ココロちゃんは、視聴者一人一人を よく見てくれるし・・・」
紺野正樹「僕たちが楽しんでいるかどうか。それを、 自分が楽しむことと同じくらい、 いつも大事にしてくれた」
希美都ココロ「・・・あ」
紺野正樹「結果だけじゃなく、過程や相手、みんなを大事にするココロちゃんだから・・・」
紺野正樹「だから、ココロちゃんは ココロちゃんなんだよ」
希美都ココロ「・・・・・・」
彼女は胸元に両手を寄せてしばし考え、
そして、ゆっくりと頷く。
希美都ココロ「わかった。私・・・、行ってくる」
紺野正樹「うん、行っておいで。 すごく熱い展開だし、 視聴者だって、きっと喜んでくれる」
紺野正樹「ココロちゃんも・・・ 蒔苗ちゃんと楽しんで」
希美都ココロ「そう、だね。・・・ありがとう。正樹くん」
そう言って、彼女は立ち上がった。
〇基地の広場(瓦礫あり)
希美都ココロ「マッキー!」
挑戦を受けて立つように、その名を叫ぶ。
希美都ココロ「これから一騎打ちをしよう! 私とマッキー、二人だけで! 誰の邪魔もなしに!」
その言葉を聞いて、銃を構えていた
蒔苗が一瞬、どこかほっとしたような、
嬉しそうな笑みを浮かべる。
蒔苗「いい度胸ですね、先輩。望むところです!」
正樹は両手を上げて前に出た。蒔苗も、
その仲間二人も、撃っては来ない。
正樹はことりに近づくと、彼女に
回復処置を施して、立ち上がらせた。
小鳥遊ことり「おいおい、これって・・・ いったい、何事? 何が始まったんだ?」
紺野正樹「チームリーダー同士が一騎打ちをする。 その間、僕たちは、他チームからの 邪魔が入らないように周囲を警戒します」
紺野正樹「向こうのチームメンバー二人も、 たぶん協力してくれますよ」
実際、蒔苗のチームメンバーである
二人は、正樹たちではなく周囲を
警戒するような配置で立っている。
小鳥遊ことり「ハッ。何だ、それ。 完全にゲーム変わってるじゃんか」
紺野正樹「必要なこと、なんです。ココロちゃんと 蒔苗ちゃん、あの二人にとって」
小鳥遊ことり「・・・ふぅん」
紺野正樹「すみません。巻き込んでしまって」
小鳥遊ことり「あー、まあ、何だっていいよ。 どっちにしろ、あたしはたぶん、 やられちゃってたし」
小鳥遊ことり「それに・・・何だか随分、 盛り上がってるみたいじゃん?」
紺野正樹「え?」
ことりに示され、
視聴者のコメントウインドウを見やる。
話を追うに、どうやらココロと蒔苗の一騎打ちという事態を認識したMCの人が、配信実況で上手く話を回してくれたらしい。
コメント欄の人々も、何が起きているのか
を理解していくにつれ、
その勢いが徐々に強まり、高まっていく。
紺野正樹(予想はしていたけど、 ここまで盛り上がるなんて・・・)
紺野正樹(やっぱり、あの二人はたくさんの 人たちから愛されているんだな)
大勢の視聴者が見守る中、銃を手にした
ココロと蒔苗は一定の距離を保ち、
お互いに見つめ合っている。
希美都ココロ「行くよ、マッキー。私は勝つから。 そして、ずっと願い続けてきた夢を、 今日、叶えるんだ」
蒔苗「・・・この試合が終わったら、 好きにすればいいです。 でも、勝つのは蒔苗ですよ」
そして同時に、二人は動きだした。
お互いを射撃で牽制し合いながら
遮蔽物へと身をひそめる。
一対一。
こうなると、純粋にどれだけ相手に狙い
通り弾を当てられるか、どれだけ有利な
位置を取れるか、の勝負となってくる。
それなら、ココロよりもゲームが
得意な蒔苗が優位だ。
蒔苗「先輩っ!!」
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