キミトココロの物語~バーチャルiTuberの日常~

泡沫彷徨

第15話 【彼女たちの真実】(脚本)

キミトココロの物語~バーチャルiTuberの日常~

泡沫彷徨

今すぐ読む

キミトココロの物語~バーチャルiTuberの日常~
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇メイド喫茶
  蒔苗からの招待を受けて正樹が
  ログインした先は、ファンシーな
  雰囲気のカフェを模したルームだった。
  周囲を見回すと、
  蒔苗は既に窓際の席に座っていた。
蒔苗「座ってください。ここ、お気に入りの プライベートサーバーなんです」
紺野正樹(棚に、ぬいぐるみが たくさん並んでる・・・)
紺野正樹(そういえば蒔苗ちゃんって、 可愛いモノ好きだっけ。 設定じゃなくて本当だったんだ)
  促されるままに蒔苗の対面へと
  腰を下ろし、あご肘をついて窓の外を
  見つめている彼女を観察した。
  窓の外は、水没した街となっており、
  色とりどりの魚が泳いでいる。
紺野正樹「それで・・・話、というのは」
蒔苗「紺野正樹さん」
  いつの間にか、
  蒔苗が正樹を真っ直ぐ見つめていた。
  その目には、
  いかなる澱みもまったくない。
  正樹の心を見透かそうとするような。
蒔苗「アイリスは、あなたにとって、 どういう存在だったんですか」
紺野正樹「え・・・?」
蒔苗「特別な存在だった、 というのは想像がついています。 でも、どうして? どう特別だったんです?」
  話の先が見えないながらも、彼女の
  声のトーンから真剣さが伝わってくる。
蒔苗「蒔苗たちにとっては、 家族のような存在でした。 ・・・直接、話したことはないですけれど」
紺野正樹(「たち」というのは、 蒔苗ちゃんとココロちゃんのことだろうか)
紺野正樹「僕にとって、アイリスちゃんは・・・」
蒔苗「どんな、人でしたか」
  正樹は、窓の外に視線を移した。
  ガラスの向こうに、
  アイリスの姿を思い浮かべた。

〇黒
紺野正樹(ココロちゃんに似て、 ポンコツなところがあった)
紺野正樹(どんな時でも明るく笑って、 ふざけていて。 歌うと別人のように美しくて)
紺野正樹(でも、蒔苗ちゃんのようにブラックな 一面も持っていて、よく毒舌を吐いたりも していた。そのギャップが魅力だった)
紺野正樹(世界中の人と友達になりたいと、 彼女は言った)
紺野正樹(そうしたくて、そう願って、 バーチャルiTuberを始めたんだと)

〇メイド喫茶
紺野正樹「僕にとっては・・・初めての、 生きてそこにいる、推しだった」
紺野正樹「僕はそれまで、好きになるのは アニメのキャラばかりで・・・」
紺野正樹「アイドルやアーティストを応援するって 経験をしたことがなかったんだ」
紺野正樹「画面の向こうで、リアルタイムに話して、考えて、笑う、 そんなアイリスちゃんと出逢うまでは」
紺野正樹「最初はたぶん、 アニメキャラの延長くらいに見てたんだ」
紺野正樹「メタな話だけど、中身を声優が 生で演じてるキャラクターとして」
紺野正樹「でも、そこにいる彼女は 本物なんだって気づいた」
紺野正樹「彼女の悩みも、頑張りも、喜びも、 確かにそこに在るものなんだって」
紺野正樹「たとえ作られた設定、外見、声、 そんな要素が集まってできた キャラクターだとしても、」
紺野正樹「そうして生まれた彼女は・・・ 本物、だと思った」
紺野正樹「気がついたら、惹かれてた。 どこがどうとか・・・説明できない」
紺野正樹「タイミングの問題かもしれない。 でも僕は、彼女を好きになってた」
紺野正樹「僕は、彼女が好きだったんだ」
  恋、というのとは、
  また違うのかもしれない。
  この感情に名前を付けようにも、これまでに経験したことのないものだった。
蒔苗「・・・そうですか」
  蒔苗は息を吸って、吐いた。
蒔苗「・・・ココロ先輩は、 アイリスを再生させたいと思っています」
蒔苗「管理者からの権限拡大を得て、 そういう要望を出したいと」
紺野正樹「うん。聞いた」
蒔苗「そんなことが可能だと、思いますか?」
紺野正樹「・・・え?」
蒔苗「普通に考えて、既に消えてしまった存在を 蘇らせるなんて、難しいとは思いませんか」
紺野正樹「それは・・・思うけど」
蒔苗「けれど、先輩は確信している。 アイリスを再生させることができると。 それは、どうしてだと思いますか」
紺野正樹(何だろう・・・)
  嫌な予感がする。
  不安な気持ちが溢れて仕方がない。
蒔苗「簡単です。アイリスの記憶や、 彼女を構成していたもの、 人間で言うなら遺伝情報、DNA・・・」
蒔苗「それらは完全には消えず、 このバーチャル世界に残っているからです」
紺野正樹「残ってるって・・・どこに?」
蒔苗「蒔苗たちの中に。蒔苗とココロ先輩、 二人の中に、それは残っています」
蒔苗「だって蒔苗たちは・・・ アイリスから生まれた存在だから」
紺野正樹「え!?」
蒔苗「アイリスが消失する時・・・ 蒔苗とココロ先輩は生まれました」
蒔苗「その理由については・・・ 今は、上手く言えません」
紺野正樹(二人が・・・ アイリスちゃんから生まれた存在?)
蒔苗「先輩は、自分という存在の中に 残っているアイリスの情報を使って、 アイリスを再生しようとしている」
蒔苗「ですが、それですべて解決するほど、 話は単純ではないんです」
蒔苗「バーチャル世界の管理者は、 正確には神様ではありません」
蒔苗「一定の法則に従って、できることと、 できないことがあります」
蒔苗「アイリスと、ココロ先輩。ココロ先輩 じゃなく、蒔苗でもいいですが・・・。 この二つの存在は、両立できません」
  思考が追いつかない。追いつきたくない。

〇遊園地の広場
蒔苗「先輩みたいな人・・・ 先輩がやろうとしてること・・・ 蒔苗は、大っ嫌いです」

〇メイド喫茶
紺野正樹(ココロちゃんが しようとしていること・・・)
蒔苗「アイリスが再生するということは、 蒔苗とココロという人格が消えて、 アイリスに統合されることに他なりません」
  ココロが消える?
  アイリスの身代わりとなって?
  それが・・・ココロの、夢?
紺野正樹「・・・そんな。どうして・・・どうして、 そんなこと分かるんだ?」
蒔苗「蒔苗たちには、分かります。 直感よりも、もっと確かな・・・ とにかく、分かってしまうんです」
紺野正樹「じゃあ・・・蒔苗ちゃんは、 自分が消えないために ココロちゃんを止めようと・・・」
蒔苗「そうじゃありません!」
蒔苗「もちろん、 蒔苗は消えたくなんかありません! でも、それだけじゃないです」
蒔苗「先輩は蒔苗に言いました。 消えるのは自分だけで大丈夫だって」
蒔苗「先輩一人分の情報があれば、 後は補完できるだろうって」
蒔苗「蒔苗は、ただ・・・ だって、どうして・・・」
蒔苗「自分だけが消えるから大丈夫なんて、 何でそんなこと言えるんですかっ!」
蒔苗「本当のこと言うと、最初は別に、 どっちでも良かったんです」
蒔苗「むしろ蒔苗のほうが、 アイリスのために消えるつもりだった」
蒔苗「この世界のことも、iTuberとしての 活動も、興味なんてなかった」

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:第16話 【バトルロイヤル】

成分キーワード

ページTOPへ