頬を染めて

うめぼし

頬を染めて(脚本)

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〇スーパーの店内
大倉わかば「・・では100円のお返しです。重いので、台までカゴをお運びしますね」
常連さん「いつもありがとうね、お姉さん」
大倉わかば「い、いえいえ! ま、またお待ちしています!」
  ここは私がレジのバイトをしている【スーパーこざくら】
  私の名前は【大倉わかば】
  大学2年生だ。
大倉わかば「次の方、大変お待たせしました! 商品お預かりします・・って、わ!」
  次のお客様を見て驚いた。
  そこにいたのは、同じゼミの千葉君だったからだ。
千葉カケル「え・・? あ、大倉!」
  千葉君も私に気づき、驚きの声をあげる。

〇クリーム
  千葉君はゼミのリーダーだ。
  とても明るい人柄で、どちらかというと陰気な私とは正反対。
  だから同じゼミとはいえ、あまり会話はしたことがない。
  何となく気恥ずかしいまま、ひとまず商品を打刻する。

〇スーパーの店内
千葉カケル「まさか大倉がここでバイトしてるとは・・」
千葉カケル「・・会えるなんて嬉しいや」
大倉わかば「う、嬉しい?」
  まさか同じゼミのよしみで、便宜を期待されているのだろうか・・
大倉わかば「ね、値引きとかは勝手に出来ないからね?」
  すると千葉君は一瞬ぽかんとしたが、次の瞬間には顔をくしゃりとさせて笑った。
千葉カケル「あはは! 俺、大倉にそんな迷惑なことしないよ!」
  その笑顔に、なぜか私の胸はトクンと跳ねた。
大倉わかば「な、なら良かった・・」
千葉カケル「でもこの店、総菜とか安いからまた来たいんだけど・・」
千葉カケル「同じゼミの俺が頻繁に来ると、迷惑かな?」
大倉わかば「そ、そんなことはないよ! ・・またお待ちしています」
  すると千葉君は「よかったー!」と笑い、小さくバイバイをして袋詰め台へ向かった。

〇スーパーの店内
  それから宣言通り、千葉君はよく店にやってきた。
  ・・そして、最近はこの時間がとても楽しみになっている。
  他愛のない短い会話だけど、千葉君と話すと心が安らぐ。
  そして千葉君が笑うたび、胸がぎゅっと苦しくなる。
  ・・認めよう。私は千葉君が好きなんだ。
  この想いを伝えられる日は来るのかな・・
  なんて乙女チックに考えていると、
  レジ前に並んだチョコの山が目に入る。
  そっか、もうすぐバレンタインだ。
大倉わかば(チョコ、渡してみようかな・・)
大倉わかば(・・でもゼミで渡すのは恥ずかしいから、 当日、この店に、もし、来たら!)
  私はそんな弱気な決意を固めた。

〇スーパーマーケット
  ─バレンタイン当日

〇スーパーの店内
  朝から落ち着かない私は、シフトより1時間も早く店に来てしまった。
  仕方なく、売り場で時間をつぶそうとウロウロしていると─
大倉わかば(!!)
  売り場に千葉君がいた。
  ただし一人ではなく・・
  隣には、とても綺麗な女性がいた。
  千葉君がカートを押し、二人仲良く買い物をしている。
大倉わかば(・・そりゃ、彼女いるよね)
  じわりと涙が溢れてくる。
大倉わかば(・・でも、チョコ渡す前に知れて良かった)
  私は涙をぬぐいつつ、そっとバックヤードへ向かった。

〇街中の道路
  その後のバイトは、何とか乗り切れた。
大倉わかば(でも、やっぱり辛いな・・)
  思い出すと、また涙が出てきてしまう。
  とにかく早く帰ろうと、早足で駅に向かっていると─
「─大倉!!」
  向かいの通りから千葉君が走ってきた。
千葉カケル「はぁ、はぁ・・会えてよかった」
大倉わかば「ど、どうしたの?」
千葉カケル「・・少し、話せないかな?」
  何が何だか分からないが、私の首は勝手にコクリと頷いていた。
千葉カケル「よかった。 ・・こっち」
  そう言うと千葉君は私の手を取り、歩き出した。

〇見晴らしのいい公園
  辿り着いたのは公園だった。
千葉カケル「約束もしてないのに、急にゴメンな。 ・・これを渡したくて」
  中を開けると─
  少し不格好なチョコが入っていた。
  突然のプレゼントに戸惑い、ふと顔をあげると─
  そこには顔を真っ赤にした千葉君がいた。
千葉カケル「・・バレンタインだから。逆チョコ」
大倉わかば「え・・?」
大倉わかば「・・あ! え、えぇ!?」
  すると千葉君は、箱を持つ私の手にそっと自分の手を重ねた。
千葉カケル「・・大倉のことが、好きなんだ」
  重なる千葉君の手が、少し震えている。
  (でも・・)
大倉わかば「千葉君、彼女いるよね・・?」
千葉カケル「え・・?」
  なぜかハテナを浮かべる千葉君に、先ほどスーパーで見たことを伝えると、
千葉カケル「え、あの時もう大倉いたのか・・!」
千葉カケル「あれは、姉ちゃん。 このチョコの作り方を教えてもらってたんだ」
千葉カケル「でも代わりに大量のお菓子を奢らされてさ・・」
千葉カケル「ほら、これが俺の両親と姉ちゃん」
  その家族写真には、たしかに先ほどの女性が映っていた。
  こうして見ると、よく似ている。
大倉わかば(勘違いだったのか・・!)
  苦しかった胸のつかえが、ふっと消えた。
  すると千葉君は再び私の目をじっと見つめ、
千葉カケル「・・改めて言うね」
千葉カケル「大倉のことが、ずっと好きだった」
千葉カケル「・・俺と、付き合ってほしい」
  まるで時が止まったかのようだ。
  熱を帯びた千葉君の視線から目が離せず、声など一言も出せそうにない。
大倉わかば(けど、伝えなきゃ・・!)
  私は勇気を振り絞り、言った。
大倉わかば「わ、私も、大好きです。 千葉君のことが・・」
  すると急に視界が暗くなり、身体がふわりと暖かくなった。

〇黒背景
  ─気づくと私は千葉君の腕の中にいた。
  お互い何も喋らず、二人の鼓動だけが響き合う。
  でもそれが何だか心地よく、自然と私は千葉君の胸にそっと頬を寄せた。

〇見晴らしのいい公園
  しばらくすると、千葉君はそっと腕の力を緩めた。
  少し見つめ合った後、千葉君は私の耳元に顔を寄せる。
千葉カケル「・・ずっと、大事にする」
  ─ちゅっ
  耳に触れるだけのキスが落とされる。
  頬染め合う2人のそばを、心地よい春風が通りぬけていった─
  Fin

コメント

  • 彼と彼女が一歩ずつ着実に近づいていく様が、とても甘酸っぱくて、キュンとなりました!また、逆チョコの場面もとってもニマニマしてしまいました!素敵な物語ありがとうございました!

  • 千葉君の逆チョコ!眩しすぎる...!!
    二人が付き合えて本当によかったです〜
    素敵なお話でした!

  • 乙女ゲー的な感じがすごく好みです!
    逆チョコとか、すごくロマンティックでキュンキュンしまくりです。
    抱きしめられた時の描写すごく好きです。

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